株式投資

【2026年8月発表・通期決算】レーザーテック(6920)減収減益の年に受注は2.3倍。「注文帳」には何が積まれたのか?

本記事は2026年9月時点の公開情報に基づく個人の分析メモです。執筆には生成AIを利用していますが、数値は筆者が一次情報と照合しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

この記事でわかること

  • レーザーテックが「何を検査する会社」で、なぜ受注が年によって2倍・半分と激しく振れるのか
  • 2026年6月期(2025年7月〜2026年6月)が減収減益になった理由と、それが「前の年の注文」で決まっていたこと
  • 受注高が2.3倍になったのに受注残高が2.2%しか増えていない理由(期首受注残+受注高−売上高の式で一致を確認)と、その増加分70億円が為替影響174億円に満たないこと
  • 会社の来期受注ガイダンス「3,000〜4,000億円」の下限・中央値・上限がそれぞれ何を意味するか(説明会の質疑から)
  • 営業利益▲14.3%なのに純利益▲8.5%で済んだ理由(為替の反転)と、減益幅の8割が研究開発費だったこと
  • 過去最高益ペースなのに営業キャッシュフローが純利益の6割しかない理由(税金と前受金)
  • 配当性向35%目安・年2回配当の中身、自己株式取得の総還元性向、株主優待が「制度なし」であること(会社が明言)
  • 2027年6月期の会社予想(売上2,900億円・過去最高)と、そこに含まれる前提(為替150円、研究開発費200億円)
  • 決算後に株価が約25%下落した事実と、強気・弱気それぞれの見方

1. 前提知識:レーザーテックは「原版のキズを、印刷に使うのと同じ光で探す会社」

1-1. 軸となる例え:半導体の「原版」検査

半導体チップは、回路パターンを光で焼き付けて作ります。このとき使う「原版」がフォトマスクです。印刷でいえば版下、写真でいえばネガにあたります。

ここで大事なのは、1枚の原版から何万枚ものチップを刷るということです。原版に1か所でもキズや異物があれば、そこから刷られたチップは全部同じ場所に欠陥を抱えます。だから原版は、チップを刷るより前に、徹底的に検査しなければなりません。

最先端の半導体はEUV(極端紫外線)という特殊な光で焼き付けます。EUV用の原版は、従来の原版とは構造が違い、従来の検査光(DUV光)では見つからないキズがあります。「印刷に使う光と同じ光で原版を照らして検査する」のが最も確実ですが、EUV光を扱える検査装置は長らく存在しませんでした。

レーザーテックは、この「EUV光で原版を検査する装置」を世界で最初に実用化した会社です(製品名ACTIS)。同社の経営理念は「世の中にないものをつくり、世の中のためになるものをつくる」で、事実として、EUV原版の検査工程は同社の装置が登場するまで「無かった」工程です。原版を作る部署(マスクショップ)が電子線検査や旧世代の光で代用していた仕事を、本来あるべき光の検査に置き換えた会社、というのがこの記事の軸です。

この軸は、同社の強みと弱みの両方を説明します。

  • 強み:EUV光で原版を検査する装置を実用化したのは同社が世界初で(会社説明)、この方式の検査では事実上の唯一の供給元とされます。原版を作るたびに検査が要るので、装置を売った先には保守・アップグレードの仕事(サービス)が積み上がる
  • 弱み:原版の検査装置は「工場のラインを増やすたび」ではなく、「新しい世代の原版を作り始めるとき」に集中して売れる。つまり需要は半導体の世代交代(3nm→2nm→1.4nm)の周期で来る。だから受注は年によって2倍・半分と激しく振れる。そして原版を作れる顧客は世界に数社しかない

説明会資料にある受注高の5期推移がそれを裏付けます。2022年6月期3,237億円→2023年6月期1,865億円→2024年6月期2,727億円→2025年6月期1,052億円→2026年6月期2,375億円。ほぼ隔年で山と谷を繰り返しています。 半導体装置メーカー全体の市況というより、「顧客が次の世代の原版を作り始めるかどうか」で注文が来る会社の姿です。

この「世代交代の周期でしか注文が来ない」という性質が、今回の決算の減収減益と、受注の急回復の両方を説明します。以降の章で3回以上、この軸に戻ります。

1-2. 事業構造を1つの表で

区分2026年6月期 売上高前期比構成比中身
半導体関連装置1,680.9億円▲17.2%72.9%EUV原版検査(ACTIS)、DUV原版検査(MATRICS)、原版の素材(ブランクス)検査など
その他の製品37.5億円▲32.5%1.6%FPD(ディスプレイ)関連、顕微鏡など
サービス586.5億円+36.5%25.4%納入済み装置の保守・部品・アップグレード
合計2,304.9億円▲8.3%100%単一セグメント

出所:2026年6月期決算短信(2026年8月6日発表)。品目別の合計は百万円未満切捨てのため合計欄と1〜2百万円ずれます。

この表のポイントは2つです。

  1. 装置が7割、サービスが4分の1。 前期(2025年6月期)のサービス構成比は17.1%でしたから、1年で8ポイント上がりました。装置売上が減った年にサービスが伸びて、全体の落ち込みを緩和しています
  2. セグメントは1つ。 会社は「検査・測定装置の設計、製造、販売」の単一セグメントとして開示しており、事業別の利益は出ません。装置とサービスのどちらが儲かっているかは、決算短信からはわかりません

用語メモ:EUV/DUV/フォトマスク/ブランクス EUVは極端紫外線。波長が非常に短く、最先端チップの微細な回路を焼き付けるのに使います。DUVはその一世代前の光(深紫外線)で、今も多くのチップで使われています。フォトマスクは回路の原版。ブランクスはパターンを描く前のフォトマスクの素材(ガラス基板に反射膜を付けたもの)で、これにもキズがあってはならないので検査装置があります。

用語メモ:ACTISとMATRICS ACTISはEUV光で原版を検査する装置(世界初)。MATRICSはDUV光で原版を検査する装置で、EUV用・DUV用の両方の原版に使われます。一世代前の光ですが、量産中の3nm以前のチップやAI向けメモリ(HBM)の原版検査で需要があります。ACTISは受注から出荷までのリードタイムが「1年強」で、そこから顧客先での立ち上げ・評価が続きます(2026年8月6日決算説明会での社長説明)。

1-3. 直近3期の業績推移と来期予想

決算期売上高営業利益営業利益率純利益EPSROE自己資本比率年間配当受注高
2024年6月期2,135.1億円813.8億円38.1%590.8億円655.05円45.4%55.8%230円2,727.7億円
2025年6月期2,514.8億円1,228.4億円48.8%846.5億円938.61円46.9%63.7%329円1,052.3億円
2026年6月期2,304.9億円1,052.6億円45.7%774.9億円862.99円33.9%73.3%329円2,375.0億円
2027年6月期(会社予想)2,900.0億円1,250.0億円43.1%900.0億円1,004.12円351円3,000〜4,000億円(会社ガイダンス)

出所:各期の決算短信、2024年6月期の受注高と2027年6月期の受注高レンジは決算説明会資料(2026年8月6日)。

この表のポイントは2つです。

  1. 受注高の振れ幅が異常に大きい。 2,726億→1,052億→2,375億。売上や利益の変動より、受注の変動のほうがはるかに大きい。これが「世代交代の周期でしか注文が来ない会社」の姿です
  2. 売上は受注の翌年に来る。 2025年6月期の売上(2,514億)が過去最高だったのは、その前の2024年6月期の受注(2,728億)が高水準だったから。2026年6月期の減収は、2025年6月期の受注が1,052億まで落ちた結果です。今回の減収減益は、1年前に決まっていました

会社は中期目標として「2030年6月期に売上高4,000〜5,000億円、営業利益率35%以上」を掲げています(会社の中期目標。今回の説明会資料には記載がなく、筆者は証券会社レポート等の二次情報経由で確認)。2027年6月期予想の2,900億円から3年で4,000億円に届くには年率11.3%、5,000億円なら年率19.9%の成長が必要です(筆者の概算)。営業利益率35%「以上」という目標は、現在の45.7%より低い水準です。つまり会社は、利益率を下げてでも研究開発と人員を増やし、売上規模を取りにいく方針を数字で示していることになります。

2. 決算ハイライト(2026年6月期・2026年8月6日発表)

2-1. 損益

項目2025年6月期2026年6月期前期比
売上高2,514.8億円2,304.9億円▲8.3%
売上総利益1,482.6億円1,364.8億円▲7.9%
売上総利益率59.0%59.2%+0.2pt
販売費及び一般管理費254.1億円312.2億円+22.9%
うち研究開発費116.8億円162.9億円+39.5%
営業利益1,228.4億円1,052.6億円▲14.3%
営業利益率48.8%45.7%▲3.1pt
経常利益1,194.4億円1,078.9億円▲9.7%
純利益846.5億円774.9億円▲8.5%
EPS938.61円862.99円▲8.1%

出所:2026年6月期決算短信。

この表のポイントは3つです。

  1. 粗利率は下がっていない。 59.0%→59.2%と、むしろわずかに改善。減収なのに粗利率が保たれたのは、装置の値付けが崩れていないことを示します
  2. 減益の主因は販管費、その8割が研究開発費。 営業減益額175.8億円のうち、粗利の減少が117.8億円、販管費の増加が58.1億円。販管費増58.1億円のうち研究開発費の増加が46.2億円で、79.5%を占めます(筆者の計算)
  3. 営業利益と純利益で減益率が違う。 営業▲14.3%に対して純利益▲8.5%。差は為替です(第4章で解説)

用語メモ:売上総利益率(粗利率)と営業利益率 粗利率は「売った値段から、作るのにかかった原価を引いた残り」の割合。装置の値付けと製造効率を映します。営業利益率はそこからさらに研究開発費・人件費・販売費などを引いた割合。この2つの差が開いたときは、「モノは同じくらい儲かっているが、間接費が増えた」と読めます。今回はまさにこのパターンです。

2-2. 四半期ごとの動き

通期の数字だけ見ると見えないものがあります。四半期ごとに分けると、こうなります。

四半期売上高通期構成比営業利益営業利益率
1Q(7〜9月)541.7億円23.5%267.3億円49.3%
2Q(10〜12月)740.9億円32.1%362.6億円48.9%
3Q(1〜3月)412.8億円17.9%152.0億円36.8%
4Q(4〜6月)609.5億円26.4%270.7億円44.4%
通期2,304.9億円100%1,052.6億円45.7%

出所:各四半期の決算短信から筆者が差し引きで算出。合計が通期と一致することを確認済み。

3Qだけ売上が412億円に落ち込み、営業利益率も36.8%まで下がっています。 説明会資料の四半期別粗利率は1Q 60.6%、2Q 59.0%、3Q 55.5%、4Q 60.8%で、3Qは粗利率自体も5ポイント低い四半期でした(製品構成による、というのが会社の説明です)。 装置は「検収」(顧客が据え付けと性能を確認して受け入れること)の時点で売上になるため、どの四半期に検収が集まるかで数字が大きく動きます。研究開発費のような固定費は毎四半期ほぼ同じ額で出ていくので、売上が薄い四半期は利益率が大きく下がります。1つの四半期を4倍して通期を推定するのは、この会社では意味がありません。

2-3. 財政状態とキャッシュフロー

項目2025年6月末2026年6月末増減
総資産3,296.0億円3,366.5億円+70.5億円
現金及び預金860.9億円915.0億円+54.2億円
仕掛品1,236.7億円1,224.5億円▲12.2億円
原材料及び貯蔵品453.3億円453.4億円+0.1億円
前受金643.9億円442.8億円▲201.0億円
未払法人税等261.2億円127.7億円▲133.5億円
有利子負債00
純資産2,099.0億円2,468.5億円+369.5億円
自己資本比率63.7%73.3%+9.6pt
キャッシュフロー2025年6月期2026年6月期
営業CF+778.7億円+485.4億円
投資CF▲24.2億円▲18.8億円
財務CF▲245.7億円▲431.8億円
現金期末残高860.9億円915.0億円

出所:2026年6月期決算短信。

この表のポイントは3つです。

  1. 棚卸資産(仕掛品+原材料)が1,677.9億円で、総資産の49.8%。 仕掛品だけで年間売上の0.53年分あります。装置1台の製作期間が長く、単価が高いので、作りかけの装置が資産の半分を占める構造です。これは同社の「普通の姿」ですが、需要が止まったときに評価損のリスクを抱える場所でもあります
  2. 前受金が201億円減った。 受注が2.3倍に回復したのに前受金が3割減っているのは、一見矛盾です(第4章で解説)
  3. 借金ゼロ、現金915億円。 財務の安全性は極めて高い。取引銀行2行と400億円の貸出コミットメント契約(いつでも借りられる枠)を結んでいますが、借入実行残高はゼロです

用語メモ:前受金と繰延収益 前受金は、装置を納める前に顧客から受け取ったお金。同社は「主に受注時から検収までの期間に前受金を受領する」契約が中心です(決算短信の会計方針より)。繰延収益は、装置に付く無償保証期間の分をあらかじめ売上から切り分けて負債にしたもので、保証期間が経過するにつれて売上に振り替わります。どちらも「将来の売上の予約」に近い性質の負債です。

3. 深掘り:受注高が2.3倍なのに受注残高が2.2%増しかない理由

今回の決算で一番わかりにくく、一番大事な論点は受注です。「受注高が前期比+125.7%」という見出しが躍る一方で、受注残高は+2.2%しか増えていません。この2つの数字の増減率が食い違うのには、必ず理由があります。

3-1. 受注の三点セットで検算する

工事会社やプラント会社と同じで、装置メーカーの受注は次の式で動きます。

期首の受注残高 + 当期の受注高 − 当期の売上高 = 期末の受注残高

レーザーテックの数字を当てはめます(単位:百万円)。

315,945 + 237,504 − 230,485 = 322,964

決算短信の期末受注残高は322,964百万円。1円の差もなく一致します。 品目別でも確認できます。

品目期首受注残+受注高−売上高=計算値開示の期末受注残
半導体関連装置2,971.8億円1,722.2億円1,680.9億円3,013.0億円3,013.0億円
その他の製品45.6億円35.0億円37.5億円43.1億円43.1億円
サービス142.0億円617.9億円586.5億円173.5億円173.5億円
合計3,159.5億円2,375.0億円2,304.9億円3,229.6億円3,229.6億円

出所:2025年6月期・2026年6月期決算短信「品目別受注高及び受注残高」。半導体関連装置は百万円単位で1百万円の切捨て差があります。

式が語っているのはこうです。受注高2,375億円のうち、2,305億円はその年の売上として出ていった。だから受注残は70億円しか増えなかった。受注高が「入ってきた注文」なら、受注残は「まだ納めていない注文の山」で、山の高さは入りと出の差でしか変わりません。

この「山」を、この記事では注文帳と呼びます。

もう1つ、短信には書かれていない事実が説明会資料にあります。期末受注残高3,229億円には、為替影響が+174億円含まれています。 受注残の多くは外貨建てで、期首の1ドル144円から期末の162円へ12.5%円安が進んだ分、円換算の残高が膨らみました。つまり、為替を除いた受注残は3,055億円で、期首の3,159億円より104億円少ない計算になります(筆者の概算。第4章で改めて扱います)。

3-2. 注文帳には何が積まれているか

期末の受注残高3,229.6億円は、年間売上の1.40年分。会社が2027年6月期の売上予想として掲げる2,900億円に対しては1.11年分です。つまり来期の売上予想は、期初の時点で注文帳にほぼ全部載っている計算になります。

ただし、注文帳に載っていれば売上になる、というほど単純ではありません。2025年6月期には、ACTISの受注が取消・変更の調整を含めてマイナス105億円になった年がありました(決算説明会資料)。注文帳は消えることもあります。決算短信も「受注高には受注取消・変更等による調整額が含まれております」と注記しています。

会社が説明会資料で示した製品別の内訳は次のとおりです。

製品売上高 2025年6月期売上高 2026年6月期受注高 2025年6月期受注高 2026年6月期
ACTIS(EUV原版検査)1,148億円705億円▲105億円620億円
MATRICS(DUV原版検査)506億円512億円453億円772億円
半導体関連装置(上記以外)374億円462億円210億円328億円
その他装置55億円37億円39億円34億円
サービス429億円586億円454億円617億円
合計2,514億円2,304億円1,052億円2,375億円

出所:2026年6月期決算説明会資料(億円単位の会社開示)。各行の和は丸めのため合計と1〜4億円ずれます。半導体関連装置の3行の和(売上1,679億・受注1,720億)が短信の品目別(1,680.9億・1,722.2億)と整合することを確認済み。

この表のポイントは2つです。

  1. 売上で減ったのはACTISだけ。 1,148億→705億(▲38.6%)。MATRICSは506億→512億で横ばい、その他の装置は増えています。今期の減収は「EUV原版検査装置の納品が減った年」だった、と言い換えられます
  2. 受注ではMATRICSがACTISを上回った。 772億対620億。社長は説明会で、MATRICSの受注が強かった理由を「先端ノード、2nm、3nmの生産増強」と説明しています。ACTISについては、新機種A200HiTが各工場に評価段階で入る局面だったため、受注の主役はMATRICSだった、という説明でした

ここで軸に戻ります。ACTISはEUV原版を検査する装置ですから、その受注が回復したということは、顧客が新しい世代の原版を作り始めたという意味です。会社は2nm・3nm世代の増強に加え、感度を高めた新機種「A300」の受注を2027年6月期に見込んでいると説明しています(決算説明会資料)。社長は「A300は高NA型EUV向けにも出しているが、基本は感度が高い装置と思ってもらえばいい」と述べており、先端工場の研究開発用途、DRAMのマスクショップ向けにも受注を見込むとしています。一方、MATRICSの受注772億円は、EUVより一世代前の光を使う装置です。こちらが伸びているのは、AI向けメモリ(HBM)や量産中の世代向けに原版が作られ続けているからで、ACTISとは動く理由が違います。

3-3. 受注が回復したのに、なぜ減収なのか

ACTISは受注から出荷までのリードタイムが「1年強」です(社長説明)。2026年6月期の後半に入った注文は、2027年6月期に納品されます。今回の減収は「1年前の受注が少なかったから」で、今回の受注回復が売上に効くのは来期以降です。

会社の2027年6月期予想は、売上2,900億円(+25.8%)、うち半導体関連装置2,250億円(+33.9%)、サービス615億円(+4.9%)です(内訳は説明会資料)。その他の製品は35億円で今期並みです。

そして会社は、来期の受注高を3,000〜4,000億円とガイダンスしています。仮に下限の3,000億円なら、来期末の注文帳は3,229.6億+3,000億−2,900億=3,329.6億円、上限の4,000億円なら4,329.6億円です(筆者の試算)。受注が売上を上回り続ける限り、注文帳は積み上がります。 2028年6月期の売上を占うのは、この来期の受注です。

3-4. 「3,000〜4,000億円」の中身を質疑から読む

説明会の質疑応答で、社長はこのレンジを次のように分解しています。

水準会社の位置づけ(質疑での説明)
下限 3,000億円見込み案件の期ずれ等を織り込んだ「ややコンサバ」な水準
中央値 3,500億円会社が中央値として置いている水準。ACTIS・MATRICSとも受注は前期比2倍程度、MATRICSは1,000億円以上を見込む
上限 4,000億円新機種A200HiTが工場での評価で良い結果を示し、量産用の追加受注が入った場合。上乗せ幅の「約500億円」は精査した値ではなく期待込みの数字、と社長自身が説明

受注の時期については「上期・下期ともほぼ同じ受注高で1年間推移する」見通しです。ACTISの内訳は、上期にマスクショップ向けと先端工場向けのA300が半々、下期にDRAMのマスクショップ向けA300と、評価次第でA200HiTが加わる、という説明でした。

ここで押さえておきたいのは、A200HiTの顧客先での評価はこれから始まるという点です。社内でのデモ評価は良好で、装置を順次納入している段階ですが、顧客の工場での評価は8月時点で始まっていません。量産導入は「早くて年明け、2027年6月期の下期から」で、「カレンダーイヤーの今年は難しい」と社長は述べています。一方で、評価結果を待たずに他の工場・世代向けの初号機として追加オーダーやフォーキャストが来ている、という説明もありました。上限4,000億円に届くかどうかは、この評価の結果と時期にかかっています。

中国については「EUV装置が出せないので構成比は高くないが、MATRICSの引き合いは非常に強く、実額では倍近くいくかもしれない」との説明でした。DRAMの工場向けACTISは「問い合わせが増えてきた段階でフォーキャストはまだない」とのことで、来期の受注レンジには入っていません。

4. 見え方が誤解を生む数字

決算書を素直に並べたときに誤読しかねない箇所が、今回は7つあります。最後の1つは短信ではなく説明会資料でしか見えません。

4-1. 営業利益▲14.3%なのに純利益▲8.5%:為替が反転した

営業減益額は175.8億円。しかし経常利益の減益額は115.5億円で、60.3億円も差があります。

原因は営業外損益です。前期は為替差損36.8億円を計上していましたが、今期は為替差益20.7億円に転じました。この差し引き57.4億円が、減益幅を縮めています。純利益の減益率が営業利益より小さいのは、本業が持ち直したからではなく、為替の損が益に変わったからです。

外貨建ての売掛金や預金を持つ会社は、決算日の為替レートで換算し直すため、円安なら益、円高なら損が出ます。同社は売上の9割近くが海外向けなので、この影響は毎期出ます。営業利益で本業を見て、経常利益との差は為替と割り切って読むのが安全です。

4-2. 減益の8割は「攻めの費用」:研究開発費が39.5%増

研究開発費は116.8億円→162.9億円で46.2億円増。販管費増加額58.1億円の79.5%です。研究開発費を除いた販管費は137.4億円→149.3億円で+8.7%と、売上減少下でも増えていますが、伸び方は穏やかです。

会社は2027年6月期の研究開発費を200億円と計画しています(説明会資料。CFOは質疑で「200億円超」と発言)。今期も期初予想130億円に対して実績162億円と、計画を32億円上回っています。四半期別では30.7億→34.4億→40.3億→57.5億円と右肩上がりで、4Qだけで年間の35%を使っています。この4Qの水準(57.5億円)を4倍すると230億円になり、来期計画200億円は「4Qのペースをやや下回る」水準です。今期からさらに+22.8%です。売上高研究開発費率は前期4.6%→今期7.1%→来期6.9%(200億÷2,900億)で、「研究開発費が売上の7%前後」が新しい平常になったと読めます。次世代機(A300)と、1.4nm世代の検査技術開発がその中身です。

これを「利益率低下」と読むか「次の世代交代への投資」と読むかで、株価の見方が分かれます。軸に戻ると、同社の需要は世代交代の周期で来るので、次の世代の装置を先に作っておかないと、次の山に乗れません。

4-3. 営業キャッシュフローが純利益の62.6%:税金と前受金

純利益774.9億円に対し、営業CFは485.4億円。前期比▲37.7%です。純利益は▲8.5%なのに、営業CFはその4倍以上のペースで減っています。

内訳を見ると、支出の2大要因がはっきりしています。

要因金額説明
法人税等の支払額▲434.5億円前期(過去最高益)の税金を今期に納めた。前期の支払額は290.1億円
前受金の減少▲211.2億円期首に残っていた前受金が検収により売上に振り替わり、新規入金がそれに追いつかなかった

つまり、今期の営業CFは「前期の税金」と「前期以前に受け取っていた前受金の取り崩し」に食われた格好です。未払法人税等は261.2億円→127.7億円に減っており、来期の納税額は今期より軽くなる見込みです。

前受金については、「受注が2.3倍に回復したのに前受金が3割減った」のが矛盾に見えます。同社の契約は「受注時から検収までの間に前受金を受領する」形が中心ですが、受注と同時に全額入るわけではなく、入金のタイミングは案件ごとに違います。今期後半に集中した受注の前受金がまだ入っていない、という見方が成り立ちます(筆者の推測。会社は前受金の入金条件を個別には開示していません)。来期の前受金が増えるかどうかは、受注回復が本物かを裏付ける数字として見る価値があります。

4-4. 通期は会社予想を2段階で上回った:最初の予想は何だったか

時点売上高予想営業利益予想純利益予想
期初(2025年8月7日)2,000億円850億円600億円
修正(2026年1月30日)2,200億円1,000億円720億円
実績(2026年8月6日)2,304.9億円1,052.6億円774.9億円

出所:各時点の決算短信・業績予想修正のお知らせ。

実績は期初予想に対して売上115.2%、営業利益123.8%。1月の修正理由は「一部製品の売上検収の前倒しと為替変動」で、想定為替レートを1ドル135円→145円に変更しています。通期の実績為替レートは150円でした(説明会資料)。

ここで注意したいのは、「予想を大きく上回った」の中身が、検収の前倒しと円安だという点です。検収の前倒しは来期の売上を今期に持ってきただけで、総量は変わりません。円安は同社の努力ではありません。減収減益の年に「上振れ」の見出しがつくのは間違いではありませんが、上振れの質は割り引いて読む必要があります。

4-5. 減益なのに配当は据え置き:配当性向が35.1%→38.1%に上がった

年間配当は329円で前期と同額です。会社の方針は「連結配当性向35%を目安」ですが、今期の配当性向は38.1%です。減益の年に配当を維持したので、性向が3ポイント上がりました。

もっと言えば、期初(2025年8月)の時点では純利益予想600億円に対して329円を予定していたので、当時の配当性向予想は49.5%でした。利益が上振れたことで38.1%に「戻った」形です。会社は減益局面でも前期の配当額を割らない意思を、期初から示していたと読めます(ただし配当方針の文言は「業績に応じた弾力的な配当」であり、減配しないと約束しているわけではありません)。

4-6. 地域別:台湾▲29.7%、欧州▲61.8%でも全社は▲8.3%

地域2025年6月期2026年6月期前期比構成比
韓国536.5億円660.8億円+23.2%28.7%
米国679.4億円516.1億円▲24.0%22.4%
台湾652.7億円458.5億円▲29.7%19.9%
その他アジア236.2億円310.6億円+31.5%13.5%
日本206.9億円281.3億円+36.0%12.2%
欧州203.2億円77.6億円▲61.8%3.4%

出所:2026年6月期決算短信(収益認識関係)。顧客の所在地ベース。地域の合計は切捨てのため全社売上と4百万円ずれます。

台湾と米国の落ち込みを、韓国・日本・その他アジアの増加が半分ほど埋めた形です。地域別の増減は「どの顧客のどの工場が今年検収したか」でしか決まらないので、1年の数字で「台湾向けが弱い」と読むのは早計です。むしろ注目したいのはサービスの地域別で、台湾向けサービスが180.5億円と最大です。装置を納めた先には、その後何年もサービスが続く。今年の装置の減少が来年のサービスの減少にはならないのは、注文帳とは別の「据付台数の帳簿」が動いているからです。

4-7. 受注残+70億円のうち、為替が+174億円:為替を除くと注文帳は減っている

第3章で触れた論点を、数字で置き直します。

期末受注残 3,229億円 = 期首 3,159億円 + 受注 2,375億円 − 売上 2,304億円(丸め差1億円)
うち為替影響 +174億円(期首144円/ドル → 期末162円/ドル)
為替を除いた期末受注残 = 3,229 − 174 = 3,055億円(期首比 ▲104億円)

出所:決算説明会資料「受注残高の推移」。為替除きの計算は筆者の概算。

「受注残高が過去最高水準を維持」という見出しは事実ですが、その維持は円安がもたらしたもので、実需ベースでは受注が売上に追いついていません。 逆に言えば、期末レート162円から円高に振れると、受注残は何も起きなくても目減りします。同じことは売上にも当てはまり、会社の感応度は1円の円高で売上▲11億円・営業利益▲10億円です(質疑でのCFO回答)。

軸に戻ると、これは「注文が世代交代の周期で来る会社」に固有の弱点です。受注残が1年分以上あるのは事実ですが、その残高は為替でも動くし、取消でも動く。注文帳の厚みを「確定した将来売上」と読み替えるのは危険で、**受注残は「今のレートで換算した、取り消されていない注文の山」**と定義し直しておくのが安全です。

5. サービスという「もう1つの帳簿」

サービス売上586.5億円は前期比+36.5%、構成比25.4%。決算短信の収益認識の注記を見ると、「一定期間にわたり移転されるサービス」(保守契約など時間の経過で売上になるもの)が474.3億円で全社売上の20.6%を占め、前期の14.6%から6ポイント上がっています。

装置は検収のタイミングで売上が跳ねますが、保守契約は契約期間に均等に売上が立ちます。この部分が売上の2割を超えたことで、四半期ごとの売上の振れがわずかに小さくなる方向に働きます。 第2章で見た3Qの落ち込み(412.8億円)でも、サービスは前年を上回っていました。

来期のサービス計画は615億円(+4.9%)で、今期ほどの伸びは見込んでいません。据付台数の増え方がサービスの伸び方を決めるので、装置が減った今期の翌年にサービスの伸びが鈍るのは、構造として自然です。

6. 資本政策と株主還元

6-1. 配当方針・回数・権利付き最終日

  • 方針:連結配当性向35%を目安に、業績に応じた弾力的な配当(会社IRサイト「配当について」より)
  • 回数:年2回(中間・期末)
  • 2026年6月期:中間132円+期末197円=329円(期末配当は2026年9月25日の株主総会で決議予定、9月28日支払開始予定)
  • 2027年6月期予想:中間140円+期末211円=351円(予想配当性向35.0%)

権利付き最終日は基準日から逆算します(休業日次第で変わるので、必ず証券会社の情報で確認してください)。

配当基準日権利付き最終日(筆者の逆算)権利落ち日
2027年6月期 中間2026年12月31日(木・休業日)2026年12月28日(月)12月29日(火)
2027年6月期 期末2027年6月30日(水)2027年6月28日(月)6月29日(火)

12月末の基準日は取引所が休業しているため、最終営業日の12月30日を基準に2営業日前を数えます。

6-2. 配当性向は業績連動型

決算期EPS年間配当配当性向
2024年6月期655.05円230円35.1%
2025年6月期938.61円329円35.1%
2026年6月期862.99円329円38.1%
2027年6月期(予想)1,004.12円351円35.0%

「35%目安」は忠実に守られています。利益が増えれば配当も増え、利益が減れば(原則として)配当も減る型です。今期は減益でも据え置きましたが、これは35%を超えて出した例外的な年で、恒常的な下限保証ではありません。

6-3. 株式分割・併合:調整不要

2026年6月期に株式分割・併合はありません。発行済株式数は94,286,400株で前期と同じです。過去記事や他期との比較で調整は不要です。

6-4. 株数の増減とEPS

期中平均株式数は90,189,453株→89,787,809株で▲0.4%。自己株式の取得で株数が減ったため、EPSの減少率(▲8.1%)は純利益の減少率(▲8.5%)よりわずかに小さくなっています。

EPS成長率 = (1+利益成長率) ÷ (1+株数成長率) − 1
        = (1 − 0.085) ÷ (1 − 0.004) − 1
        = ▲8.1%

決算短信のEPS 862.99円と一致します。新株予約権は76千株分あり、潜在株式調整後EPSは862.26円で、希薄化は0.1%未満です。論点になる規模ではありません。

6-5. 自己株式の取得

2025年8月7日の取締役会決議で、上限100万株・120億円の自己株式取得を決めました。実績は560,600株・約120億円で、金額上限に到達して2025年12月15日に取得終了。平均取得単価は約21,400円です(筆者の概算。120億円÷560,600株。短信の自己株式取得額120.03億円には単元未満株式の買取り196株分が含まれます)。取得株数は自己株式控除後の発行済株式数の0.6%に相当します。

決算短信によれば、会社はこの自己株式を「将来のM&A等の企業価値向上に資する取組みへの活用を検討」としています。消却ではないので、株数が恒久的に減るわけではない点は押さえておく必要があります。

会社IRサイトは自己株式の取得について「現在、特に実施しておりません」と記載しており、2026年8月6日の決算発表時点で、新たな自己株式取得の決議はありません。

6-6. 総還元性向:53.5%は一時的な水準

総還元性向 = (配当総額 294.9億円 + 自己株式取得 120.0億円) ÷ 純利益 774.9億円 = 53.5%

配当だけなら38.1%です。自己株式取得は単年の決議によるもので、来期に同規模の取得が予定されているわけではありません。「総還元性向50%超の高還元銘柄」と紹介するのは誤りで、恒常的な方針は配当性向35%目安です。

6-7. 保有有価証券:論点にならない

投資有価証券は15.4億円で総資産の0.5%。今期に2.2億円の売却益が出ていますが一過性です。政策保有株が株価の論点になる規模ではありません。

6-8. 決算書の隅の小さな数字:株式給付引当金が3.6倍

固定負債の「株式給付引当金」が6.9億円→24.7億円に増え、「役員株式給付引当金」0.8億円が新設されました。これは従業員・役員に自社株を給付する制度の引当てで、会社が人材獲得に自社株を使い始めたことを示します。会社は来期にグループ従業員を207名増やして1,542名にする計画です(説明会資料。増員207名のうち155名が海外)。今期も従業員は1,163名から1,335名へ約170名増えており、増員はすでに走っています。研究開発費の増加と合わせて読むと、「人と開発に金を使う局面」に入ったことが、損益計算書だけでなく貸借対照表の小さな科目にも出ています。

6-9. 株主優待:制度なし(会社が明言)

会社IRサイトの「配当について」ページに、株主優待は「現在、特に実施しておりません」と明記されています。「記載が見当たらない」ではなく、会社が制度なしと明言しています。 最低売買単位は100株で、2026年9月2日終値ベースの投資額は約323万円です。

7. 株価の見方(判断は読者に委ねます)

7-1. 事実の整理

  • 2026年6月末の時価総額は、決算短信の「時価ベースの自己資本比率1,323.2%」から逆算すると約4.45兆円、株価換算で約49,700円(筆者の概算)
  • 決算発表当日(2026年8月6日、発表は取引終了後)の終値は43,330円
  • 翌8月7日の終値は37,460円で、前日比▲13.5%(情報サイトの株価データより。筆者は複数サイトで確認)
  • 2026年9月2日の終値は32,350円。8月6日終値から▲25.3%、6月末の逆算株価から▲34.9%(要確認)

9月2日終値ベースの指標は次のとおりです(筆者の概算。株価は証券ツールで確定値に差し替えてください)。

指標数値計算
時価総額約2.90兆円32,350円 × 89,630,666株(自己株式控除後)
PER(会社予想EPS)32.2倍32,350円 ÷ 1,004.12円
PER(実績EPS)37.5倍32,350円 ÷ 862.99円
PBR11.7倍32,350円 ÷ 2,753.84円
予想配当利回り1.1%351円 ÷ 32,350円
ネットキャッシュ/時価総額3.2%915億円 ÷ 2.90兆円

なお9月1日には日米の金利上昇を背景に半導体株全般が売られたと報じられており(報道ベース)、決算後の下落のすべてが同社固有の材料によるものとは限りません。

7-2. 強気側の見方

  • 来期は過去最高の売上・利益を会社が予想している。 売上2,900億円(+25.8%)、営業利益1,250億円(+18.8%)。受注残3,229.6億円は来期売上予想の1.11年分で、予想の裏付けは注文帳にある
  • 受注は底を打った可能性が高い。 1,052億→2,375億→来期ガイダンス3,000〜4,000億円。軸に戻れば、2nm世代の増強と次世代(高NA EUV)向け新機種の受注が同時に来る局面
  • 粗利率59.2%は崩れていない。 減益は研究開発費という「攻めの費用」によるもので、装置の競争力低下を示す数字は決算書にない
  • サービスが売上の4分の1に育った。 据付台数が増えるほど積み上がる収益で、装置の谷を埋めた実績が今期の数字にある
  • 財務は無借金・現金915億円・自己資本比率73.3%。 需要の谷を耐える体力がある
  • ACTISへの追い風を会社が具体的に説明した。 工場で発生する「大きさはあるが高さのない」異物はDUV光では見つからずEUV光なら検出できること、2nm以降で増える複雑な形状の原版(カーブリニアマスク)はDUVでは誤検出が増えること、原版の保護膜(ペリクル)が金属製になればEUV光しか透過しないこと。いずれも社長の質疑での説明で、ACTISでしか解けない問題が増えている構図
  • A200HiTは顧客先の評価前でも、他の工場・世代向けに追加オーダーやフォーキャストが来ている(社長説明)
  • 決算後に株価が25%下落し、会社予想PERは32倍台まで下がった(それでも市場平均より高い水準であることは弱気側で述べます)

7-3. 弱気側の見方

  • 注文帳の中身は数社の顧客の投資計画次第。 軸に戻れば、原版を作れる顧客は世界に数社。1社の投資延期や仕様変更で、受注はマイナスにもなる(2025年6月期のACTIS受注▲105億円がその例)。「受注3,000〜4,000億円」は会社の見込みであって確定ではない
  • 営業利益率は下がる計画。 45.7%→43.1%。研究開発費200億円・人員207名増・設備投資57億円(説明会資料。設備投資は今期の23.6億円から2.4倍)を売上増で吸収する計画だが、検収が遅れれば固定費だけが先に出る。3Qの営業利益率36.8%がその姿
  • 営業CFは純利益の62.6%、棚卸資産は総資産の半分。 受注が売上・利益・現金になるまでには製造・出荷・検収・回収の各段階があり、注文帳の数字がそのまま現金になるわけではない
  • 為替の前提は1ドル150円。 会社の感応度は1円の円高で売上▲11億円・営業利益▲10億円(説明会でのCFO回答)。10円円高なら営業利益予想の8.0%が消える計算(筆者の概算)。報道では日米の協調介入も伝えられており(報道ベース)、為替は来期の変動要因として大きい
  • PER32倍・PBR11.7倍は、利益成長が続くことを前提にした水準。 中期目標(2030年6月期4,000〜5,000億円)の達成には年率11〜20%の売上成長が要る。世代交代の周期が想定より遅れれば、成長率の前提そのものが崩れる
  • 受注ガイダンスの上限はA200HiTの評価結果次第で、その評価はまだ始まっていない。 上乗せ幅の約500億円は「精査した値ではない」と社長自身が認めている。量産導入は早くて年明けで、評価内容によっては後ずれの可能性もあると会社が述べている
  • 受注残の増加は為替。 為替を除くと期首比▲104億円(4-7)。円高局面では受注残も売上も同時に目減りする
  • 配当利回りは1.1%。 配当目的で保有する銘柄ではなく、株価変動リスクに対して配当が緩衝材になる度合いは小さい

7-4. どちらの見方にも共通すること

この会社の業績は、1年前の受注で決まります。だから**「今期の決算」を見て今期の株価を語ることは、構造的にずれています。** 2026年6月期の減収減益は2025年6月期の受注で決まっていたし、2027年6月期の増収増益予想は2026年6月期の受注で裏付けられている。2028年6月期を占うのは、これから四半期ごとに出てくる受注の数字です。決算発表のたびに、損益より先に「注文帳がどう動いたか」を見るのが、この銘柄の読み方だと考えます。

8. 今後のカレンダーと見るべきKPI

日付イベント見るべき点
2026年9月24日有価証券報告書提出予定大株主の状況(2026年6月30日時点)、事業等のリスク、研究開発活動の詳細
2026年9月25日定時株主総会期末配当197円の決議
2026年9月28日期末配当支払開始予定
2026年10月末ごろ(未発表・前年は10月31日)2027年6月期 1Q決算受注高の四半期開示があるか、装置売上の進捗、営業利益率、前受金の増減
2026年12月28日(筆者逆算)中間配当の権利付き最終日中間140円予定
2027年1月末ごろ2027年6月期 中間決算上期受注高、業績予想の修正有無、為替前提の変更
2027年4月末ごろ2027年6月期 3Q決算受注ガイダンス(3,000〜4,000億円)のレンジ見直し
2027年8月上旬2027年6月期 通期決算通期受注高・ACTIS/MATRICS内訳、2028年6月期予想、2030年目標との整合

見るべきKPI(優先順)

  1. 受注高と受注残高(三点セットの式で必ず検算。受注高−売上高がプラスなら注文帳は積み上がっている)
  2. ACTISとMATRICSの受注内訳(通期のみ開示。ACTISが動けば世代交代、MATRICSが動けば量産増強)
  3. 前受金の残高(受注回復が現金として入ってきているか)
  4. 営業利益率と研究開発費(43.1%計画に対する進捗。3Qのような落ち込みが再現するか)
  5. サービス売上(615億円計画。据付台数の帳簿が動いているか)
  6. 為替(1ドル150円前提。1円で営業利益10億円。受注残の円換算にも効く)
  7. A200HiTの顧客先評価の進捗と量産採用の有無(受注ガイダンス上限4,000億円の条件。早くて2027年年明け)
  8. 自己株式取得の新規決議の有無(現時点では予定なし)

9. 3行まとめ

  1. 2026年6月期は減収減益(売上▲8.3%・営業利益▲14.3%)だが、これは1年前の受注が半減した結果で、粗利率は59.2%と崩れていない。減益幅の8割は研究開発費の増加
  2. 受注高は2,375億円(+125.7%)に回復し、受注残3,229.6億円は来期売上予想の1.11年分。ただし受注残の増加70億円は為替影響174億円によるもので、為替を除くと期首比▲104億円
  3. 来期は過去最高の売上2,900億円を会社が予想する一方、営業利益率は43.1%に低下計画。株価は決算後に25%下落しており、注文帳の中身(数社の顧客の投資計画)と為替が最大の変動要因

本記事は、決算短信等の公開情報をもとに、生成AIを執筆補助として用いて作成しています。論点の選定・構成の判断、および記載した数値と一次情報との照合は筆者が行っています。

本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。数値は2026年6月期決算短信(2026年8月6日)、2025年6月期決算短信、2026年6月期の各四半期決算短信、業績予想修正のお知らせ(2026年1月30日)、および会社IRサイトに基づきます。製品別の売上・受注内訳、受注残の為替影響、来期受注ガイダンスとその内訳、研究開発費・設備投資・人員計画、為替前提と感応度、および経営陣の発言は、2026年8月6日の決算説明会資料と同説明会の書き起こし(質疑応答を含む)に基づきます。中期目標(2030年6月期)のみ、今回の説明会資料には記載がなく、証券会社レポート等の二次情報経由で確認しています。株価・時価総額・PER等は2026年9月2日終値ベースの筆者の概算です。本記事では、有価証券報告書で確認すべき大株主の状況(2026年6月末時点は9月24日提出予定)、顧客別売上の集中度、研究開発の具体的内容、および1on1 FAQに記載された会社の補足説明には踏み込んでいません。

記載内容の正確性・完全性には注意を払っていますが、誤りや情報の陳腐化が含まれる可能性があり、これを保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。投資の最終判断は、必ずご自身で一次情報(会社IRサイト・EDINET等)をご確認のうえ、自己責任で行ってください。

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