株式投資

タイトル:【2026年8月発表・第3四半期決算】ティアフォー(593A)——営業赤字112億円の会社に、なぜ2,000億円超の値札がつくのか?

本記事は2026年9月4日時点の公開情報に基づく個人の分析メモです。執筆には生成AIを利用していますが、数値は筆者が一次情報と照合しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

この記事でわかること

  • ティアフォーが「何を売って稼ぐ会社なのか」を、無料で配っているソフトの"面倒を見る仕事"という1つの軸で理解できる
  • 2026年9月期第3四半期(2025年10月〜2026年6月)の決算で、営業赤字68億円が経常赤字41億円まで縮む仕組み(補助金)と、その依存度
  • 通期予想(営業赤字112億円・経常赤字66億円)を据え置いた根拠。第4四半期に売上の39%が集中する構造と、その売上のうち89%が既に受注・納品済みであること
  • 2026年7月の上場で何が起きたか。公募割れ、ダウンラウンド、オーバーアロットメントの失権、ロックアップ解除日(2027年1月18日前後)
  • 上場から1か月半で株価が安値の4倍になった現在(9月3日終値3,570円・時価総額約2,268億円)を、どの数字で測ればよいか
  • 株主優待はなし(会社が明言)。配当もなし。「資本政策と株主還元」は、還元ではなく希薄化の管理として読む

1. 前提知識:ティアフォーはどういう会社か

1-1. 会社概要

項目内容
社名株式会社ティアフォー(TIER IV, Inc.)
証券コード・市場593A・東証グロース(2026年7月22日上場)
決算期9月末(第2四半期=3月末、第3四半期=6月末)
事業自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」を基盤にした、自動運転システムの開発・提供(単一セグメント)
主なパートナー・株主SOMPOホールディングス、ヤマハ発動機、いすゞ自動車、KDDI、スズキ、トヨタ・インベンション・パートナーズ、JR東海など
従業員数413名(連結・2026年4月末)
株主優待制度なし(会社IRのFAQで「ご用意はありません」と明言)
配当無配(2025年9月期実績・2026年9月期予想とも0円)
直近決算2026年9月期第3四半期(2026年8月14日発表)

出所:有価証券届出書(2026年6月9日)、決算短信、会社IRサイト。

1-2. 軸となる例え:「無料で配っているOSの"面倒を見る"仕事で稼ぐ会社」

会社のシステム部門が新しいサーバーを入れるとき、こんな光景があります。基本ソフト(OS)のLinuxはインターネットから無料で手に入るのに、わざわざ「Red Hat」という会社に年間サポート料を払って、動作保証つきの版を使う。理由は単純で、無料版をそのまま業務に使うと、不具合が出たときに誰も責任を取ってくれないからです。

ティアフォーは、自動運転の世界でこの「Red Hat」の位置にいる会社です。自動運転の頭脳にあたるソフト「Autoware」を2015年に無料で公開し、今では世界中の企業や大学が使っています(開発貢献者600人のうち68.2%はティアフォーともパートナー企業とも無関係の人たち)。ただし、無料版のAutowareをそのままバスに載せて公道を走らせることはできません。車両ごとの調整、安全性の証明、国の許認可、運用が始まってからの保守——この「面倒を見る仕事」を引き受けて対価をもらうのが、ティアフォーの商売です。

この例えは、記事の後半で3回使います。

  1. なぜ研究開発費を「規律ある水準」に抑えられると会社が言うのか(深掘りパート)
  2. なぜ売上の中身が「ワンタイム」から「リカーリング」に移るはずだと会社が言うのか(3つのサービスの読み方)
  3. なぜ「オープンソースだから強い」は、そのまま「オープンソースだから弱い」にも反転するのか(弱気材料)

1-3. 3つのサービス=サポート契約の3つの形

Red Hatに例えると、サポート契約にも「サーバーを丸ごと納品する」「顧客の技術者に開発を手伝う」「教材や部品を売る」の3種類がある、と考えると整理しやすくなります。

サービス主な顧客何を売るか2025年9月期売上(構成比)2026年9月期予想(前期比)
モビリティサービス自治体・交通事業者自動運転バスの完成車を納品し、運行・保守まで面倒を見る22.67億円(35.4%)29.41億円(+29.7%)
デベロップメントサービス自動車メーカー・特殊車両メーカーメーカーが自社で自動運転車を量産できるよう、共同開発・ライセンス提供13.30億円(20.8%)24.85億円(+86.8%)
ソリューションサービス研究機関・企業・官公庁開発ツール、車載カメラ等のハードウェア、国からの委託研究28.12億円(43.9%)30.57億円(+8.7%)
合計64.10億円84.84億円(+32.4%)

出所:有価証券届出書、上場に伴う決算情報等のお知らせ(2026年7月22日)。各サービスの合計は端数処理で1百万円ずれます。

この表のポイントは2つです。

  • いま一番大きいのは「ソリューションサービス」で、その中身の多くは国の委託研究。2025年9月期の売上のうち、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が17.8%、経済産業省が12.5%を占めます(届出書「主な相手先別の販売実績」)。
  • 一番伸びるのは「デベロップメントサービス」(+86.8%予想)。会社は「将来はここが中核になる」と届出書に書いています。量産が始まれば、売れた車1台ごとにライセンス料が入る(=面倒を見る対象が増えるほど、毎年入るお金が増える)という設計です。

用語メモ:ワンタイム収益とリカーリング収益 ワンタイムは、車両やハードウェアの販売、開発の受託など、一度きりで終わる売上。リカーリングは、ライセンス料や保守料など、契約が続く限り毎期入ってくる売上。会社の説明会資料では「開発→量産→運用」と進むほどリカーリングが積み上がる、という構造図が示されています。ただし、現時点でリカーリング売上の金額は開示されていません

1-4. 業績推移:売上は伸びているが、赤字も減っていない

項目(百万円)2024年9月期2025年9月期2026年9月期(会社予想)
売上高3,8716,410(+65.6%)8,484(+32.4%)
売上総利益1,6502,914
売上総利益率25.8%34.3%
販売費及び一般管理費12,15614,152
うち研究開発費8,5519,550
営業損失△7,229△10,506△11,239
営業外収益(主に補助金)5,5665,823
経常損失△4,834△5,504△6,593
親会社株主に帰属する当期純損失△4,834△4,799△6,736
1株当たり当期純損失(円・分割調整後)△113.35△108.29△138.03
純資産18,00713,170
自己資本比率82.1%73.5%
営業活動によるキャッシュ・フロー△4,573△7,282
現金及び現金同等物(期末)14,4206,932
従業員数(名)356392前期末比+50名規模を計画

出所:有価証券届出書、上場に伴う決算情報等のお知らせ。2024年9月期の売上総利益・販管費は届出書の連結指標に記載がないため空欄。「—」は未開示。

この表のポイントは3つです。

  • 売上総利益率が25.8%→34.3%に改善する計画。粗利の伸び(+76.6%)が売上の伸び(+32.4%)を大きく上回ります。車両を売るビジネス(原価が重い)から、開発やライセンス(原価が軽い)への構成変化が効きます。
  • 営業損失は売上より大きい。2025年9月期は売上64億円に対し営業損失105億円。研究開発費(86億円)が売上を上回っているためです。これは異常事態ではなく、この会社の平常運転です。
  • 営業損失105億円が経常損失55億円まで縮むのは、補助金50億円超が営業外収益に入るからです。ここがこの会社の損益で一番わかりにくく、一番大事な点なので、深掘りパートで扱います。

1-5. 会社が「見てほしい」と言っている数字:車両運用台数

中期経営計画という形の文書はありませんが、会社は上場後初の決算説明会(2026年8月19日)で、次の数字を目標として示しました。

指標2024年9月期2025年9月期2026年3月末目標
実証実験・実装地域数(単年)295040(半期)
車両運用台数(累計・公道)152526
車両運用台数(累計・閉鎖空間)528993
車両運用台数(累計・合計)671141192030年9月期に1,800台超
開発プロジェクト顧客数7913

出所:有価証券届出書、決算説明会書き起こし。「閉鎖空間」は持分法適用関連会社eve autonomy(ヤマハ発動機との合弁)が工場内に導入した無人搬送車で、ティアフォーは稼働台数に応じたライセンス料を受け取ります。

必要成長率を計算すると、114台→1,800台は約15.8倍(筆者の概算)。さらに会社は「累計約800台に到達することが、経常利益黒字化の目安の1つ」とも述べています(114台の約7倍)。1,800台は「市場規模から逆算した数字ではなく、すでに受注または条件付き受注したプロジェクトの量産目標を積み上げた数字」というのが会社の説明ですが、受注済みの内訳は開示されていません

なお、車両運用台数は2026年3月末で119台と、半年で5台しか増えていません。「地域数を増やす段階から、1地域あたりの台数を増やす段階に移る」というのが会社の説明で、KDDIとの協業(2030年までに累計1,000台規模の商用導入を目指す)がその中心です。


2. 決算ハイライト(2026年9月期第3四半期累計・2025年10月〜2026年6月)

2-1. 損益

前年同期は四半期の連結財務諸表を作っていないため、短信に前年比の記載はありません。会社は説明会で「売上高・売上総利益ともに前年同期比30%以上増、研究開発費はほぼ横ばい」と説明しています(書き起こしベース)。

項目(百万円)第3四半期累計参考:中間期(10〜3月)4〜6月の3か月(筆者の差し引き)
売上高5,1784,369809
売上原価3,1752,556619
売上総利益2,003(38.7%)1,812(41.5%)191(23.6%)
販売費及び一般管理費8,8295,9142,915
うち研究開発費5,9894,0441,945
営業損失△6,826△4,102△2,724
補助金収入3,6612,4981,163
持分法による投資損失918786132
経常損失△4,087△2,385△1,702
親会社株主に帰属する四半期純損失△4,174△2,470△1,704
1株当たり四半期純損失(円)△92.37△55.19

出所:第3四半期決算短信(2026年8月14日)、第2四半期決算短信(2026年7月22日)。差し引きは筆者の計算。

この表のポイントは2つです。

  • 4〜6月の3か月だけ見ると、売上は8億円しかなく、営業損失は27億円。「売上が第2四半期と第4四半期に集中する」という会社の説明どおりで、この3か月の数字を4倍しても何も見えません。
  • 累計の売上総利益率38.7%は、通期計画の34.3%より高い。逆に言えば、第4四半期は粗利率の低い売上(車両納品など)が多く乗る計画になっています(後述)。

用語メモ:営業損失と経常損失 営業損失は「本業の売上−本業の費用」。経常損失はそこに、本業以外の収益・費用(受取利息、補助金、関連会社の損益など)を足し引きしたものです。普通の会社では両者の差は小さいのですが、ティアフォーでは補助金が大きいため、営業損失より経常損失のほうが大幅に小さくなります。

用語メモ:持分法による投資損失 持分法適用関連会社(eve autonomy、マップフォー、AI教習所の3社)の赤字のうち、ティアフォーの出資比率分を営業外費用として取り込むものです。今期は関連会社側で固定資産の減損(一過性)があり、9億円と大きくなっています。会社は通期で「一過性分5.5億円」と説明しており、来期はこの分が剥落する見込みです。

2-2. 財政状態(6月末時点・上場前)

項目(百万円)2025年9月末2026年6月末増減
現金及び預金6,9329,391+2,459
売掛金及び契約資産3,0541,044△2,010
有価証券2,000△2,000
総資産17,58014,842△2,738
短期借入金2,0002,0000
長期借入金(1年内含む)832+832
契約負債226572+346
受注損失引当金17△17
純資産13,17010,037△3,133
自己資本比率73.5%66.0%△7.5pt

出所:第3四半期決算短信。

ここで押さえておきたいのは、この貸借対照表には上場で調達した資金が入っていないことです。払込は7月21日で、6月末の後です。公募増資による手取額は約174億円(引受価額の総額)なので、9月末の純資産は概算で「100億円+174億円−第4四半期の赤字26億円≒249億円」、現預金は概算で「94億円+174億円−第4四半期の資金流出」となります。上場前の貸借対照表を見て「自己資本比率が下がった」「現金が少ない」と判断すると、前提を間違えます。

小さな数字で方向性を示すものとして、契約負債が2.3億円→5.7億円に増加(前受金にあたるもので、受注が先行している兆候)、受注損失引当金1,700万円が消滅(赤字案件の見込みが解消)の2点は、会社の説明文には出てきませんが、悪い方向ではありません。

2-3. キャッシュ・フロー

第3四半期の短信にはキャッシュ・フロー計算書がありません(四半期は作成省略可)。中間期(10〜3月)の数字を載せます。

項目(百万円)2026年9月期中間期
営業活動によるキャッシュ・フロー△1,503
うち補助金の受取額+3,142
投資活動によるキャッシュ・フロー+1,353(有価証券償還+2,000、有形固定資産取得△486)
財務活動によるキャッシュ・フロー+1,951(長期借入+1,000、株式発行+1,000)
現金及び現金同等物の中間期末残高8,786

出所:第2四半期決算短信。

営業キャッシュ・フローの赤字(15億円)が、経常損失(24億円)より小さい点に注目してください。補助金は損益計算書では研究開発費の執行に合わせて計上されますが、現金は別のタイミングで入ります。中間期は補助金の受取額(31億円)が計上額(25億円)を上回ったため、現金流出が損益より軽くなりました。これは前年(2025年9月期)と逆で、前年は営業キャッシュ・フロー△73億円と経常損失△55億円より重かった。補助金の「計上」と「入金」のズレで、キャッシュは損益より荒く動く会社だと覚えておくと、四半期ごとの現預金の増減に一喜一憂せずに済みます。


3. 深掘り:営業赤字112億円が経常赤字66億円になる仕組み——研究開発費の「純負担」で読む

この会社の損益で、初見の人が一番戸惑うのは「営業損失が売上より大きいのに、最終赤字はその半分強」という点です。差を作っているのは補助金です。本節では、研究開発費のうち実際に会社の懐から出ていくのはいくらかを計算します。

3-1. 経路1:研究開発費から補助金を引く

第3四半期累計の研究開発費は59.89億円、補助金収入は36.61億円です。

研究開発費の純負担 = 研究開発費 − 補助金収入
                  = 5,989 − 3,661 = 2,328百万円
補助金でカバーされる割合 = 3,661 ÷ 5,989 = 61.1%

つまり、研究開発費の約6割は国が持ち、会社が実際に負担しているのは約23億円です。会社の説明では「補助金収入は、研究開発費の執行に応じて、各補助事業で定められた補助率を掛け合わせた金額が計上される」とのことなので、研究開発費が増えれば補助金も増える関係にあります(ただし採択済みの事業に限る)。

3-2. 経路2:営業損失と経常損失の差から逆算する

営業損失△68.26億円と経常損失△40.87億円の差は27.39億円。この差は「営業外収益−営業外費用」で説明できるはずです。

営業外収益 − 営業外費用 = 3,699 − 961 = 2,738百万円
営業損失 + 2,738 = △6,826 + 2,738 = △4,088 ≒ 経常損失△4,087(百万円未満切捨ての誤差)

営業外収益37億円のうち補助金が36.6億円(99%)、営業外費用9.6億円のうち持分法損失が9.2億円(96%)です。経路1と経路2は同じ補助金36.6億円を指しており、「本業の赤字が補助金で6割埋まり、関連会社の赤字で少し戻される」という構造が両側から確認できます。

3-3. この構造の読み方(強気側と弱気側)

強気に読むと:Red Hatの例えに戻ります。研究開発費のうち、会社が自腹で負担している部分は年間換算で30億円程度。売上85億円の会社としては重いものの、「世界中の開発者がAutowareを共同開発している(開発者の約7割が社外)」ことで、自社で全部書くより開発費を抑えられている、というのが会社の主張です。実際、届出書に載っている政府事業の契約総額は、グリーンイノベーション基金(約254億円・2031年3月まで)を筆頭に、合計で400億円規模に上ります(助成対象費用の総額であり、助成金の額ではない点に注意)。

弱気に読むと:補助金がなければ、経常赤字は年間120億円規模になります。届出書のリスク項目にも「研究開発に係る費用は一部日本政府からの補助金に依存しており、政策方針が変更になり補助金の交付が減少するような場合には、研究開発に重大な支障が生じる」と明記されています。加えて、売上側でも国の委託研究が大きい(NEDO+経済産業省で2025年9月期売上の30.3%。アイサンテクノロジーと合わせると50.2%)。費用側は補助金、収入側は委託研究と、両側で国の予算に依存していることは、この会社の「実力ベース」を考えるうえで避けて通れません。

なお、会社は「補助金収入は2026年4月時点で採択済みの補助金金額のみを積み上げて策定」と説明しており、今期予想の営業外収益58億円は、これから採択されるものを当てにした数字ではありません。この点は保守的です。

3-4. 通期予想の据え置きは妥当か:第4四半期に何が乗るか

通期予想を据え置いた根拠を、第4四半期(7〜9月)の含みで確認します。

項目(百万円)通期予想第3四半期累計実績第4四半期の含み(筆者の差し引き)
売上高8,4845,1783,306(通期の39.0%)
売上総利益2,9142,003911(粗利率27.6%)
販管費14,1528,8295,323
うち研究開発費9,5505,9893,561
営業損失△11,239△6,826△4,413
営業外収益5,8233,6992,124
経常損失△6,593△4,087△2,506

出所:上場に伴う決算情報等のお知らせ、第3四半期決算短信。差し引きは筆者の計算。下期予想(売上4,115・売上総利益1,102)から第3四半期単独を引いた値と一致することを確認済み。

読み方は3点です。

  1. 第4四半期の売上33億円のうち、会社は内訳を開示しています。受注済みで進行中の案件19.84億円+納品済み・納品予定のバス9.60億円=29.44億円。残り3.62億円が「その他の受注見込み」。つまり第4四半期売上の89.1%は既に確定的で、未受注に頼っているのは4億円弱です。据え置きの根拠としては筋が通っています。
  2. 第4四半期の研究開発費35.6億円は、第3四半期(19.5億円)の1.8倍。会社は「量産化・AIベース車両開発の追加費用、半導体開発に伴う費用増加」を理由に挙げています。研究開発費が増えれば補助金も増えるので、経常損失への影響は営業損失ほどではありませんが、第4四半期だけで営業損失44億円になる点は、次の決算(11月中旬)で驚かないよう頭に入れておく必要があります。
  3. 第4四半期の粗利率27.6%は、第3四半期累計の38.7%より低い。バスの納品(車両原価が重い)が乗るためです。通期で見た粗利率34.3%は、1年前の25.8%から改善しています。

4. イベント解説:2026年7月の上場で何が起きたか

この会社は、決算そのものより、上場前後の資本の動きのほうが株価に効いています。時系列で整理します。

4-1. 時系列

日付出来事株数・金額
2025年12月26日JR東海に第三者割当増資100,000株(分割前)・10億円=1株10,000円(分割後2,000円相当)
2026年1月〜4月転換社債の転換分割換算で計1,250,000株
2026年2月6日1株→5株の株式分割、優先株を全て普通株に転換発行済 45,324,490株に
2026年6月9日有価証券届出書提出募集金額100〜300億円
2026年7月22日東証グロース上場公募価格1,085円(引受価額1,009.05円)。公募17,449,600株(国内6,365,900・海外11,083,700)+株主の売出3,968,400株+OA売出3,212,700株。初値1,009円(公募割れ7.0%)
2026年7月21日払込完了引受価額総額174.07億円、発行済 63,524,090株に
2026年8月6日OAに伴う第三者割当増資が全株失権3,212,700株の新株発行なし
2026年8月7日上場来安値871円
2026年8月14日第3四半期決算発表
2026年8月19日決算説明会(説明資料開示)
2026年9月3日上場来高値・終値高値3,725円、終値3,570円
2027年1月18日前後ロックアップ解除(上場後180日)大株主・VC等の売却制限が外れる
2027年1月22日以降新株予約権が行使可能に(上場後6か月)潜在株6,133,000株

出所:有価証券届出書、第3四半期決算短信、第三者割当増資の結果に関するお知らせ(2026年8月6日)、株価はYahoo!ファイナンス(9月3日時点)。

用語メモ:オーバーアロットメント(OA)と失権 IPOで需要が多いとき、主幹事証券が株主から株を借りて追加で売る仕組みがOAです。借りた株は後で返す必要があり、返し方は2通り。①株価が公募価格を上回っていれば、会社に新株を発行してもらって返す(第三者割当増資)、②株価が公募価格を下回っていれば、市場で買い戻して返す(シンジケートカバー取引)。ティアフォーは②になりました。「全株失権」とは①を使わなかったという意味で、新株が発行されなかったので既存株主にとっては希薄化が起きなかった、という事実です。株価が下がっていたことの裏返しでもあります。なお貸株人は創業者の加藤CEOでした。

用語メモ:ロックアップ 上場前からの株主が、上場後一定期間は株を売らないと約束するものです。ティアフォーは上場後180日(2027年1月18日前後。数え方で1日ずれます)。対象はSOMPO、加藤CEO、ジャフコ、ヤマハ発動機、いすゞ、KDDI、スズキ、トヨタ・インベンション・パートナーズ、ソニーグループなど28者。ただし主幹事は「その裁量で解除できる」権限を持っているため、180日より前に一部解除される可能性はあります。

4-2. 「ダウンラウンド上場」という事実

上の表で気づく方もいると思いますが、JR東海が2025年12月に払った価格は分割後換算で1株2,000円、7か月後の公募価格は1,085円です。上場時の評価は直前の私募より45.8%低い、いわゆるダウンラウンドでした。公募割れ(初値1,009円)と、8月7日の安値871円は、この延長線上にあります。

その後の急騰で、9月3日終値3,570円はJR東海の取得価格を上回っています。「上場時の値付けが安すぎた」と読むか「今が高すぎる」と読むかは、後述の株価の見方で扱います。

4-3. 株価急騰の材料(報道ベース)

8月下旬からの急騰について、会社からの適時開示は決算関連以外にありません。報道で挙げられている材料は、①ルネサスとの自動運転向けチップ協業(8月21日報道)、②トヨタがレベル2++の自動運転を2028年に投入するとの報道、③9月9〜11日の展示会「Automotive World 2026」出展発表、④直近IPO銘柄の需給妙味・TOPIX採用の思惑(株探・9月2日)です。いずれも今期の業績予想を変える材料ではありません。9月3日の出来高は6,599万株で、発行済株式数(6,352万株)を1日で上回っています。

4-4. 小松市の自動運転バス接触事故(リスク事象)

石川県小松市が運行する自動運転バス(ティアフォー製システム、BYD製車両)が、2026年5月13日と8月18日の2回、駅ロータリーで縁石に接触しました。いずれも運転手が乗務するレベル2での走行中で、けが人はなし。5月の事故は「操舵システムの不具合(ハンドル操作の応答遅れ)」が原因と市が発表し、対策のうえ8月初めに運行再開した直後に2回目が起きています。市は運行を休止中(8月22日時点の報道)。

届出書は「2026年5月現在、公道における人身事故件数は0件」としており、今回も人身事故ではありません。ただし、小松市はティアフォーがレベル4認可を取得した2地域のうちの1つ(もう1つは長野県塩尻市)で、会社にとって看板案件です。決算説明会でもこの件について質問が出ています(会員限定部分のため回答内容は本記事では確認していません)。


5. 資本政策と株主還元

株主優待は制度なし、配当も無配です。この会社で「株主還元」を論じる段階ではないため、このセクションは還元ではなく、株数がどう増えるか(希薄化)と、大株主がどう動くか(需給)を管理するための情報として読んでください。

5-1. 配当・優待

  • 配当:2025年9月期0円、2026年9月期予想0円。届出書は「現時点において配当実施の可能性及びその時期につきましては未定」と明記。
  • 株主優待:会社IRのFAQに「ご用意はありません」と記載(会社の明言)。
  • 期末の株主確定日は9月30日(水)。権利付き最終日は2営業日前の9月28日(月)。配当も優待もないため、意味があるのは12月の定時株主総会の議決権だけです。

5-2. 株数の推移と希薄化

時点発行済株式数増減の内訳
2025年9月末(分割調整後)44,324,490
2026年3月末45,324,490JR東海への第三者割当(500,000)+転換社債(500,000)
2026年6月末46,074,490転換社債(750,000)
2026年7月21日(上場後)63,524,090公募増資(17,449,600)
潜在株式(新株予約権)6,133,000上場後株数の9.7%

出所:第2・第3四半期決算短信、有価証券届出書。

検算します。

44,324,490 + 500,000 + 500,000 = 45,324,490 ✓
45,324,490 + 750,000 = 46,074,490 ✓
46,074,490 + 17,449,600 = 63,524,090 ✓
公募による希薄化 = 17,449,600 ÷ 46,074,490 = 37.9%

公募増資だけで株数が37.9%増えました。1株当たり純損失が「通期予想△138.03円」と、第3四半期累計(△92.37円)から見て小さく見えるのは、通期の1株当たり指標を公募株を含む予定平均株数で計算しているからです。損失額そのものは増えています(△41.7億円→△67.4億円)。

新株予約権613万株(行使価格は分割後2円〜1,000円、一部は米ドル建て)は、上場後6か月(2027年1月22日)以降に行使可能になります。9.7%の追加希薄化が、ロックアップ解除とほぼ同時期に控えていることは、需給を考えるうえで押さえておく点です。

5-3. 大株主とVC

  • SOMPOホールディングス:届出書時点で議決権の24.1%(その他の関係会社)。公募で株数が増えた分、比率は概算17.5%程度に低下しているはずですが、上場時の売出(3,968,400株)に誰が応じたかは本記事では未確認です。届出書はSOMPOについて「ロックアップ期間経過後においては、当社株式の売却は制限されません」と明記しています。
  • VC等(ジャフコ、UTEC等):届出書時点で7,082,500株(上場前株数の15.4%、上場後換算11.1%)。届出書は「株価推移によっては全部又は一部を売却する可能性」をリスクとして挙げています。
  • 事業会社株主(ヤマハ発動機、いすゞ、KDDI、スズキ、トヨタ系、ソニー、ブリヂストン、三菱商事、大成建設など)は取引関係のある「安定株主」に近い性格ですが、いずれもロックアップは180日です。

上場後の正式な大株主表は、2026年9月末基準の有価証券報告書(12月提出見込み)まで出ません。 それまでは届出書の数字を基準に、大量保有報告書で異動を追うことになります。

5-4. 自己株式・保有有価証券

  • 自己株式:なし。取得の発表もなし。
  • 投資有価証券:6月末の「投資その他の資産」は9.46億円。その他有価証券評価差額金は0.79億円。政策保有株の論点になる規模ではありません(マップフォー株の一部売却益6.85億円が2025年9月期の特別利益に入っていますが、これは一過性です)。

5-5. 上場で調達した資金の使い道

届出書によれば、①研究開発費(AI技術・自動運転専用半導体)、②量産・事業拡張費(数千〜数万台規模の供給を見据えたサプライチェーン構築)、③組織拡張費(エンジニア採用)。金額の内訳は開示されていません。「実際の充当時期までは、安全性の高い金融商品等で運用」とのことです。


6. 株価の見方(2026年9月3日終値ベース)

指標数値備考
株価(9月3日終値)3,570円前日比+17.4%、上場来高値3,725円、上場来安値871円(8月7日)
公募価格1,085円終値は3.29倍
時価総額約2,268億円3,570円×63,524,090株(筆者の概算)
今期売上高予想84.84億円PSR(時価総額÷売上)≒26.7倍(筆者の概算)
PER算出不能赤字のため
上場後の現預金(概算)約268億円6月末94億円+公募手取174億円。第4四半期の流出は未反映
有利子負債約28億円短期借入20億円+長期借入8.3億円
期末純資産(概算)約249億円6月末100億円+174億円−第4四半期純損失26億円
PBR(概算)約9.1倍3,570円÷概算BPS392円

注:PBRや現預金の概算は、上場後の数字が確定していないため筆者の試算です。Yahoo!ファイナンス等に表示されるPBR(16倍台)は上場前のBPSで計算されており、実態より高く出ます。

用語メモ:PSR(株価売上高倍率) 時価総額を年間売上高で割ったもの。赤字でPERが使えない成長企業を比べるときに使います。「売上の何年分の値段がついているか」と読みます。ティアフォーの26.7倍は、今期の売上を27年分先取りした値段、という意味です。

6-1. 強気に読める材料

  • 第4四半期売上の89%が受注済み・納品済みで、上場後初の通期予想が下振れするリスクは低い。粗利率は1年で25.8%→34.3%へ改善する計画
  • 国の政策が追い風:2030年度までに自動運転サービス車両1万台(交通政策基本計画・2026年1月閣議決定)。ティアフォーは国内で数少ない、レベル4認可の実績を持つソフト会社
  • 上場後の手元資金約268億円は、経常赤字66億円のペースで単純計算4年分。当面の資金繰りリスクは低い(ただし営業キャッシュ・フローは損益より荒く動く)
  • OAの失権で新株発行が回避され、公募以外の希薄化は起きなかった
  • 関連会社の一過性損失5.5億円、上場関連費用5.4億円は来期に剥落する。会社は「これらを除けば今期の経常損失は前期と同水準(55億円)」と説明

6-2. 弱気に読める材料

  • 株価は1か月で安値の4.1倍。この間に業績予想の変更も新規の適時開示もない。9月3日の出来高は発行済株式数を超えており、値動きは業績ではなく需給で決まっている状態
  • PSR 26.7倍は、黒字化の時期を会社が示していない企業の水準として、投資家それぞれの判断が分かれるところ。黒字化の目安「累計800台」は現在の119台の約7倍で、達成時期は未提示
  • 費用側(補助金)と収入側(委託研究)の両方で国の予算に依存。届出書がリスクとして明記
  • ロックアップ解除(2027年1月18日前後)と新株予約権の行使開始(同1月22日)が重なる。VC等11.1%、SOMPO概算17.5%の動向次第で需給が変わる
  • オープンソースの反転リスク:Red Hatの例えに戻ると、無料のOSは競合も使えます。Autowareの知的財産は財団(The Autoware Foundation)に帰属し、ティアフォーのものではありません。届出書も「競合他社がAutowareを活用する場合」をリスクに挙げています。「面倒を見る仕事」で差がつかなくなれば、無料ソフトの上に立つ商売は値下げ競争に入ります
  • 小松市の接触事故が2回続いており、レベル4の看板案件が運行休止中。人身事故ではないが、自動運転はどこかで一度重大事故が起きれば業界全体の許認可に影響すると届出書自身が書いている

6-3. どちらでもない材料

  • 上場時の評価(1,085円)は直前の私募(2,000円相当)より45.8%低いダウンラウンドだった。現在の株価3,570円は私募価格を上回っている。「上場時が安すぎた」と「今が高すぎる」の両方の読みが成り立つ

個人的には、この銘柄は「今期の決算数字」で株価を説明できる段階にないと考えています。見るべきは決算短信の損益より、①車両運用台数の推移(半期ごと)、②デベロップメントサービスの受注(量産移行の有無)、③ロックアップ解除前後の大株主の動き、の3つだと思います。


7. 今後のカレンダーと見るべきKPI

時期イベント注目点
2026年9月9〜11日Automotive World 2026出展ルネサス製SoC上でのAutowareデモ
2026年9月28日(月)権利付き最終日(基準日9月30日)配当・優待なし。株主総会の議決権のみ
2026年11月中旬2026年9月期決算発表第4四半期の売上33億円・営業損失44億円が計画どおりか。来期予想(黒字化の道筋が数字で示されるか)
2026年12月有価証券報告書提出上場後初の正式な大株主表、サービス別売上の確定値
2026年12月下旬定時株主総会
2027年1月18日前後ロックアップ解除VC・大株主の売却の有無(大量保有報告書で追う)
2027年1月22日以降新株予約権の行使可能に潜在株613万株(9.7%)
2027年2月中旬2027年9月期第1四半期決算売上が薄い四半期。KPIの更新に注目

見るべきKPI

  1. 車両運用台数(累計):119台(2026年3月末)→ 800台が黒字化目安 → 1,800台超(2030年9月期目標)
  2. デベロップメントサービスの売上と顧客数:13社(2026年6月末)。量産移行=1台ごとのライセンス収入が始まった案件があるか
  3. 研究開発費の純負担(研究開発費−補助金収入):今期9か月で23.3億円。この数字が売上の伸びより緩やかなら、会社の言う「オペレーティングレバレッジ」が効いている
  4. 契約負債と売掛金・契約資産:受注先行の兆候
  5. 大量保有報告書:SOMPO、ジャフコ、UTECの異動

8. 3行まとめ

  • ティアフォーは「無料で配っている自動運転OSの面倒を見る仕事」で稼ぐ会社。売上は伸びているが、研究開発費が売上を上回り、営業赤字112億円のうち6割を補助金で埋めて経常赤字66億円にしている
  • 第3四半期決算は計画どおりで、第4四半期売上の89%は受注・納品済み。決算より重要なのは資本の動きで、上場時はダウンラウンド・公募割れだったが、その後1か月で株価は安値の4倍・時価総額2,268億円(PSR約27倍)まで上昇した
  • 2027年1月にロックアップ解除と新株予約権の行使開始が重なる。見るべきは損益ではなく、車両運用台数・量産移行の有無・大株主の動き

本記事は、決算短信・決算説明会(書き起こし)・有価証券届出書・適時開示および報道に基づき、生成AIを執筆補助として用いて作成しています。論点の選定・構成の判断、および記載した数値と一次情報との照合は筆者が行っています。

本記事は特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではなく、投資助言でもありません。数値は会社の一次情報(決算短信・有価証券届出書・適時開示)に基づき、筆者の概算・試算(PSR、PBR、上場後の現預金・純資産、第4四半期の含み、希薄化率、株主比率の上場後換算など)はその旨を明記しています。決算説明会の内容はログミーファイナンスの書き起こしに基づいており、原資料(会社IRサイトの説明資料・動画)の確認をお勧めします。株価急騰の材料および小松市の事故については報道ベースであり、会社の適時開示ではありません。本記事で踏み込まなかった論点として、上場時の売出株の売出人の内訳、上場後の大株主比率の確定値、リカーリング売上の金額、新株予約権の行使価格別の内訳、持分法適用関連会社3社の個別業績があり、これらは有価証券報告書(2026年12月提出見込み)でご確認ください。

記載内容の正確性・完全性には注意を払っていますが、誤りや情報の陳腐化が含まれる可能性があり、これを保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。投資の最終判断は、必ずご自身で一次情報(会社IRサイト・EDINET等)をご確認のうえ、自己責任で行ってください。

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