本記事は2026年9月時点の公開情報に基づく個人の分析メモです。執筆には生成AIを利用していますが、数値は筆者が一次情報と照合しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
この記事でわかること
- 日本化学工業がどんな会社か。「他人の工場の釜に入れる前の粉を、注文どおりの純度に磨いて納める会社」という1本の軸で、強みも弱みも資本政策も読みます
- 2026年4〜6月期の決算で、営業利益が増えたのに純利益が25%減った理由(前年にあった一過性の利益の反動)
- 累計しか開示されない四半期の数字を筆者が差し引きして並べた、直近9四半期の売上・粗利率・販管費・営業利益。前々期の最終四半期が営業赤字だった事実と、前期の7〜9月期に利益がほぼ消えていた事実がここで出ます
- 機能品事業の4〜6月期の営業利益だけで、会社が通期に見込んでいる同セグメントの営業利益を超えている、という数字の見え方
- 年間配当が120円から240円へ2倍になる決定と、その原資になっている政策保有株式の売却(特別利益40億円見込み)の関係。純利益予想45億円の中身を逆算すると、開示だけでは埋まらない差額があること
- 貸借対照表で投資有価証券が1四半期で51億円から129億円に膨らんだ理由と、それが「純資産比10%以下」という会社目標をむしろ遠ざけている構造
- 権利付き最終日(中間配当)の逆算、株主優待がないことの一次情報での確認、今後のカレンダー
1. 前提知識:日本化学工業はどういう会社か
1-1. 事業構造を1つの表で
| セグメント | 主な製品 | 誰に何を納めるか | 2026年3月期 売上高 | 同 セグメント利益 |
|---|---|---|---|---|
| 化学品事業 | クロム製品、シリカ製品、りん製品 | 自動車部品のめっき工場、製紙・土木、液晶・半導体のエッチング工程 | 179億16百万円 | 12億81百万円 |
| 機能品事業 | 電子セラミック材料(チタン酸バリウム等)、有機機能材料(ホスフィン誘導体、農薬原体)、電池・電子デバイス材料(電池材料、回路材料、高純度電子材料) | MLCC(積層セラミックコンデンサ)メーカー、半導体・光通信部材メーカー、電池メーカー、農薬メーカー | 210億10百万円 | 5億13百万円 |
| 賃貸事業 | 不動産賃貸 | テナント | 9億40百万円 | 5億59百万円 |
| その他 | 環境測定等 | — | 3億15百万円 | 0億32百万円 |
| 合計(連結) | — | — | 401億82百万円 | 24億15百万円(調整額含む) |
| 株主優待 | 制度なし(有価証券報告書「株主に対する特典:該当事項はありません」) | — | — | — |
出典:2026年3月期決算短信のセグメント情報、有価証券報告書(2026年6月25日提出)。
この表のポイントは2つです。1つは、売上の半分強を占める機能品事業の利益が、化学品事業の半分もないこと。もう1つは、売上が9億円しかない賃貸事業が、機能品事業より大きな利益を出していることです。この2つは「粉を磨く仕事の利益が、年によって大きく揺れる」という本記事の主題に直結します。
1-2. 軸となる例え:「釜に入れる前の粉を、注文どおりの純度に磨いて納める会社」
日本化学工業は1893年創業、東京・亀戸に本社を置く無機化学メーカーです。作っているものは、クロム塩、りん酸、シリカ、チタン酸バリウム、高純度赤りんといった、一般の消費者が目にすることのない粉や液体です。
イメージしやすいのは、飲食店に「下ごしらえ済みの食材」を納める業者です。店の厨房(=顧客の工場)は、鉱石をそのまま釜に入れることはできません。めっき液に溶かせる状態のクロム、液晶パネルを削れる濃度と純度のりん酸、コンデンサの中に何百層も積める粒の大きさに揃えたチタン酸バリウム。原料の石を「そのまま釜に入れられる粉」にまで磨いて、顧客の工場の前まで運ぶ。顧客が払っているのは、鉱石の代金ではなく「磨く手間と、注文どおりの純度が保証されていること」への対価です。
この軸で見ると、会社の強みと弱みが同じ場所から出てきます。
- 強みは「純度」そのもの。決算補足説明資料(2026年8月18日更新版)は、高純度赤りんについて「6N(99.9999%)の超高純度」「世界的にも数少ない供給者の一社」「新規参入が容易でない分野」と説明しています。磨く工程の精度が参入障壁になっているという意味です
- 弱みは「粉の量と値段を、自分で決められない」こと。粉を磨く工場は動かし続けなければならず(固定費)、定期修繕で止まる月もあります。一方で、粉が何トン売れるかはMLCCや半導体の顧客の稼働次第、値段は電池材料のように資源価格に連動して動きます。前期の営業利益が28%減ったのも、電池材料の「原材料市況価格の変動と販売価格への転嫁にタイムラグ」(短信)が主因でした。手間賃で稼ぐ商売なのに、手間賃の単価が原料相場に振らされる、という構造です
- 資本政策も同じ軸で読めます。粉を納める相手(村田製作所、ADEKAなど)の株式を「取引関係の維持」のために長年持ってきました。それが今期、本業の年間営業利益(28億円予想)を上回る規模の特別利益(40億円見込み)を生む売却対象になっています。磨く手間で稼ぐ会社が、今年は「持っていた石」を売って純利益の3分の1以上を作る。この点は第5章で扱います
軸は3か所以上で回収します。第3章(四半期の利益の振れ)、第4章(製品別)、第5章(政策保有株式)、第6章(弱気材料)です。
1-3. 直近5期の業績推移
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 | 純利益 | EPS(円) | ROE | 自己資本比率 | 年間配当(円) | 期末株価PER |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 372億75百万円 | 38億64百万円 | 37億35百万円 | 424.47 | 9.2% | 59.4% | 85 | 5.68倍 |
| 2023年3月期 | 380億75百万円 | 14億12百万円 | 8億55百万円 | 97.13 | 2.0% | 57.9% | 70 | 20.39倍 |
| 2024年3月期 | 385億38百万円 | 23億83百万円 | 15億90百万円 | 180.35 | 3.6% | 58.9% | 70 | 13.71倍 |
| 2025年3月期 | 388億43百万円 | 31億99百万円 | 25億59百万円 | 290.62 | 5.6% | 61.8% | 92 | 7.65倍 |
| 2026年3月期 | 401億82百万円 | 23億75百万円 | 28億94百万円 | 331.39 | 6.0% | 64.1% | 120 | 8.51倍 |
出典:有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」。営業利益は2025年3月期33億42百万円→2026年3月期24億15百万円(短信)。
読み方のポイントは2つです。売上は5年で7%しか伸びていない一方、経常利益は14億円台から38億円台の間で上下しています。「売上が安定していて利益が不安定」なのは、固定費の大きい装置産業で、粉の値段が原料相場に連動する会社の典型です。もう1つ、2026年3月期は経常利益が26%減ったのに純利益は13%増えています。固定資産売却益5億4百万円と投資有価証券売却益10億29百万円という特別利益が乗ったためで、この「本業は減益、最終利益は増益」という形が、今期はさらに大きな規模で繰り返される予定になっています。
用語メモ:経常利益と純利益 経常利益は、本業の利益(営業利益)に受取配当や支払利息などを加減したもので、毎年繰り返し発生する損益です。純利益はそこから、その年限りの損益(固定資産や株式の売却益、除却損など)と税金を差し引いたものです。純利益が経常利益を大きく上回る年は、たいてい何かを売っています。
1-4. 中期経営計画との距離
会社は2024〜2026年度の中期経営計画で、最終年度(2027年3月期)に売上高490億円・営業利益33億円・EBITDA80億円・ROE6%を目標にしています。2030年度のありたい姿は営業利益60億円・ROE8%です。
今期の会社予想は売上高408億円・営業利益28億円・EBITDA70億円。会社自身が決算説明会資料(2026年5月22日)で「中期経営計画目標には未達となる見込」と明記しています。未達幅は営業利益で5億円(△15.2%)、売上で82億円です。
ここで注意したい見え方があります。同じ資料の1Q版(8月18日更新)では、今期予想のROEが6.0%から8.7%へ上がっています。分子の純利益が特別利益込みの45億円になったためで、中計のROE6%目標は「株を売ることで」達成される形になります。特別利益を除いた修正前の純利益30億円で計算すると、ROEは5.5%程度(筆者の概算、分母は期首・期末純資産の平均を仮定)です。
2030年度の営業利益60億円は、今期予想の28億円から4年で年率21%の成長が必要な水準です(筆者の計算)。中計の33億円ですら届かない今期の数字と並べると、この距離は読者が自分で測っておくべきものです。
2. 決算ハイライト(2027年3月期 第1四半期=2026年4〜6月)
2-1. 損益
| 項目 | 2025年4〜6月 | 2026年4〜6月 | 増減額 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 109億49百万円 | 110億36百万円 | +0億86百万円 | +0.8% |
| 売上総利益 | 24億4百万円 | 25億67百万円 | +1億63百万円 | +6.8% |
| 粗利率(筆者の計算) | 22.0% | 23.3% | +1.3pt | — |
| 販管費 | 12億93百万円 | 14億2百万円 | +1億9百万円 | +8.4% |
| 営業利益 | 11億10百万円 | 11億65百万円 | +0億55百万円 | +5.0% |
| 営業利益率 | 10.1% | 10.6% | +0.4pt | — |
| 経常利益 | 11億34百万円 | 12億32百万円 | +0億98百万円 | +8.7% |
| 特別利益 | 5億8百万円(固定資産売却益) | — | △5億8百万円 | — |
| 特別損失 | 0億93百万円 | 0億2百万円 | △0億91百万円 | — |
| 税金等調整前純利益 | 15億49百万円 | 12億30百万円 | △3億19百万円 | △20.6% |
| 法人税等合計 | 3億46百万円 | 3億26百万円 | △0億20百万円 | — |
| 親会社株主に帰属する純利益 | 12億3百万円 | 9億3百万円 | △2億99百万円 | △24.9% |
| 1株当たり純利益 | 137.74円 | 104.13円 | — | — |
出典:2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月10日発表)。
この表のポイントは2つです。
1つ目、純利益△24.9%は本業の悪化ではありません。 前年の4〜6月には固定資産売却益5億8百万円が乗っていました。今年はそれがない。経常利益の段階では+8.7%の増益です(前年11億34百万円→今年12億32百万円)。特別損益を除けば、税引前の利益も同じだけ増えています。「純利益が25%減った」という見出しだけを見ると、前年の一過性の利益の反動を本業の減速と読み違えます。
2つ目、売上が0.8%しか増えていないのに営業利益が5.0%増えたのは、粗利率が1.3ポイント上がったからです。 短信は「売上構成の変化により収益性が改善」、補足資料は加えて「定期修繕前の生産効率の向上も寄与」と説明しています。補足資料の営業利益増減要因は、価格差異+4億円、数量差異△1億円、原価差異0、販管費他△3億円(億円単位の丸め)。売上構成の変化=「利幅の薄い電池材料や車載向けが減り、AIサーバー関連や触媒原料が増えた」ことが、粗利率に出た形です。ただし販管費も8.4%増えており、増益の半分以上は販管費で相殺されています。
用語メモ:粗利率と販管費 粗利率(売上総利益÷売上高)は「粉1トンを売ったときに、原料と工場のコストを引いて残る割合」。販管費は営業・物流・本社などの費用で、売上が動いてもすぐには変わりません。粉の値段や構成が変わると粗利率が動き、それが営業利益の増減の大半を説明する、というのが素材メーカーの決算の読み方の基本です。
2-2. 財政状態(貸借対照表)
| 項目 | 2026年3月末 | 2026年6月末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 現金及び預金 | 81億12百万円 | 62億31百万円 | △18億81百万円 |
| 売掛金 | 105億18百万円 | 118億87百万円 | +13億68百万円 |
| 棚卸資産(商品及び製品+仕掛品+原材料及び貯蔵品) | 110億56百万円 | 115億74百万円 | +5億18百万円 |
| 有形固定資産 | 345億64百万円 | 339億71百万円 | △5億93百万円 |
| 投資有価証券 | 51億26百万円 | 128億85百万円 | +77億58百万円 |
| 総資産 | 784億57百万円 | 858億37百万円 | +73億79百万円 |
| 支払手形及び買掛金 | 32億33百万円 | 44億24百万円 | +11億90百万円 |
| 未払法人税等 | 10億48百万円 | 1億5百万円 | △9億43百万円 |
| 設備関係未払金 | 19億38百万円 | 11億79百万円 | △7億58百万円 |
| 有利子負債(短期借入金+長期借入金) | 144億円 | 144億円 | ±0 |
| 繰延税金負債 | 23億56百万円 | 49億76百万円 | +26億20百万円 |
| 利益剰余金 | 356億76百万円 | 360億59百万円 | +3億82百万円 |
| その他有価証券評価差額金 | 25億85百万円 | 78億45百万円 | +52億59百万円 |
| 純資産 | 503億21百万円 | 558億43百万円 | +55億22百万円 |
| 自己資本比率 | 64.1% | 65.1% | +1.0pt |
出典:同短信。第1四半期はキャッシュ・フロー計算書が作成されていません(短信注記)。減価償却費は10億42百万円(前年同期9億52百万円)。
見るべき場所は太字の3行です。投資有価証券が1四半期で2.5倍になり、それに対応して評価差額金と繰延税金負債が増えています。 売却したのではなく、持っている株の時価が上がった分が貸借対照表に載ったということです。検算すると、評価差額金の増加52億59百万円+繰延税金負債の増加26億20百万円=78億79百万円で、投資有価証券の増加77億58百万円とほぼ一致します(差額約1億円は他の科目に係る繰延税金の増減と考えられます。筆者の概算)。
つまり純資産の増加55億円のうち、本業で稼いで積み上がった利益剰余金は3億82百万円で、残りの52億円は「持っている株が値上がりした」分です。自己資本比率が64.1%から65.1%に上がったのも、同じ理由です。第5章で、この動きが会社の政策保有株式の縮減目標にどう影響するかを扱います。
現金が18億81百万円減った理由は、未払法人税等(△9億43百万円)と設備関係未払金(△7億58百万円)と賞与引当金(△3億27百万円)の支払いです。3月期決算の会社が第1四半期に前期の税金・ボーナス・設備代金を払うのは毎年のことで、資金繰りの悪化ではありません。
3. 深掘り:累計しか開示されない四半期を差し引くと、何が見えるか
3-1. なぜ差し引くのか
日本化学工業の決算短信は、他の多くの日本企業と同じく「累計」で開示されます。第2四半期の短信には4〜9月の6か月分、第3四半期には4〜12月の9か月分しか載っていません。7〜9月の3か月だけの営業利益は、どこにも書かれていない。読者が自分で引き算するしかありません。
用語メモ:四半期の差し引き 単独四半期の数字=当四半期累計−前四半期累計。たとえば7〜9月の営業利益=上半期累計の営業利益−第1四半期の営業利益。4つの単独四半期を足すと通期の開示値に一致するかどうかで、引き算の間違いを確認できます。本記事の差し引きは、2025年3月期・2026年3月期ともに4四半期の合計が通期短信の値と一致することを確認しています(筆者の検算)。
3-2. 直近9四半期の損益(筆者の差し引き)
| 四半期 | 売上高 | 売上総利益 | 粗利率 | 販管費 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2024年4〜6月 | 103億79百万円 | 30億47百万円 | 29.4% | 13億59百万円 | 16億88百万円 | 16.3% |
| 2024年7〜9月 | 102億99百万円 | 19億92百万円 | 19.3% | 12億78百万円 | 7億13百万円 | 6.9% |
| 2024年10〜12月 | 101億93百万円 | 23億47百万円 | 23.0% | 13億96百万円 | 9億52百万円 | 9.3% |
| 2025年1〜3月 | 79億72百万円 | 13億67百万円 | 17.1% | 13億77百万円 | △0億11百万円 | △0.1% |
| 2025年4〜6月 | 109億49百万円 | 24億4百万円 | 22.0% | 12億93百万円 | 11億10百万円 | 10.1% |
| 2025年7〜9月 | 100億49百万円 | 17億57百万円 | 17.5% | 14億77百万円 | 2億80百万円 | 2.8% |
| 2025年10〜12月 | 94億44百万円 | 20億13百万円 | 21.3% | 14億17百万円 | 5億97百万円 | 6.3% |
| 2026年1〜3月 | 97億40百万円 | 18億26百万円 | 18.7% | 13億97百万円 | 4億28百万円 | 4.4% |
| 2026年4〜6月 | 110億36百万円 | 25億67百万円 | 23.3% | 14億2百万円 | 11億65百万円 | 10.6% |
出典:各四半期の決算短信の累計値から筆者が差し引き。百万円未満切捨ての開示のため、差し引きした値には±1百万円の幅があります。
この表から読めることを4つに絞ります。
第1に、第1四半期(4〜6月)が毎年いちばん利益が出る四半期です。 2024年、2025年、2026年の4〜6月の営業利益はそれぞれ16億88百万円、11億10百万円、11億65百万円で、いずれもその年度の残りの四半期を大きく上回っています。今期の4〜6月の11億65百万円を4倍して「年間46億円のペース」と読むのは、この会社では的外れです。補足資料に「定期修繕前の生産効率の向上も寄与」とあるとおり、定期修繕で工場を止める四半期が後に来ます。
第2に、2025年1〜3月は営業赤字(△11百万円)でした。 2025年3月期は通期では営業利益33億42百万円で、前の期から48%の大幅増益。しかし最終四半期だけを見ると、売上が80億円台に落ち、粗利率が17.1%まで下がり、販管費13億77百万円を粗利で賄えていません。会社は当時の短信で棚卸資産の評価損の影響を説明しています(本記事では前々期の詳細には踏み込みません)。「増益率48%の期」の中に、営業赤字の四半期が埋まっていた。これは通期の数字だけ見ていると絶対に気づけません。
第3に、2025年7〜9月の営業利益は2億80百万円で、直前の4〜6月の4分の1です。 売上が9億円減り、粗利率が22.0%から17.5%に落ち、販管費は逆に1億84百万円増えました。短信は「電池材料における原材料市況価格の変動と販売価格への転嫁にタイムラグ」と「棚卸資産の評価損の減少効果が剥落」を挙げています。粉の値段が原料相場に連動して動き、その転嫁が遅れる、という第1章の弱みがそのまま数字になった四半期です。
第4に、粗利率の振れ幅は年間で12ポイント(17.1%〜29.4%)あります。 売上の振れ幅は2割程度なのに、粗利率がこれだけ動く。この会社の営業利益は「売上がいくら増えたか」ではなく「粗利率が何ポイント動いたか」でほぼ決まります。今期の4〜6月は粗利率23.3%で、直近9四半期では2024年4〜6月の29.4%に次ぐ水準です。会社が通期の営業利益予想28億円を据え置いた(1Qで41.6%進捗)のは、この粗利率が残り3四半期も続くとは見ていない、と読むのが自然です。
3-3. セグメント別の単独四半期(2026年3月期、筆者の差し引き)
| 四半期 | 化学品 売上 | 化学品 利益 | 機能品 売上 | 機能品 利益 | 賃貸 利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025年4〜6月 | 47億83百万円 | 3億91百万円 | 58億70百万円 | 5億77百万円 | 1億39百万円 |
| 2025年7〜9月 | 42億96百万円 | 2億46百万円 | 54億37百万円 | △1億19百万円 | 1億36百万円 |
| 2025年10〜12月 | 44億36百万円 | 4億55百万円 | 46億84百万円 | △0億24百万円 | 1億39百万円 |
| 2026年1〜3月 | 44億1百万円 | 1億89百万円 | 50億19百万円 | 0億79百万円 | 1億45百万円 |
| 2026年4〜6月 | 49億95百万円 | 4億1百万円 | 57億41百万円 | 6億20百万円 | 1億52百万円 |
出典:各四半期短信のセグメント情報から筆者が差し引き。セグメント利益の内訳合計と連結営業利益の差(調整額)は各四半期±3百万円以内で、切捨て誤差の範囲です。
ここで出てくる事実は1つです。機能品事業は、2025年7〜12月の半年間、セグメント利益が赤字でした。 売上210億円で会社の半分強を占める主力セグメントが、年度の真ん中の2四半期で利益を出せていない。一方の賃貸事業は毎四半期1億4千万円前後を淡々と出しています。第1章の表で「売上9億円の賃貸事業が、売上210億円の機能品事業より利益が大きい」と書いたのは、この振れ幅の話です。
今期の4〜6月の機能品利益6億20百万円は、前年同期比+7.5%。会社が5月に出した機能品事業の通期セグメント利益予想は6億円です。4〜6月の3か月だけで、通期のセグメント利益予想を超えています(進捗103%)。化学品事業は4億1百万円で通期予想16億円に対し25.1%。賃貸は1億52百万円で5億70百万円に対し26.7%。合計で見ると41.6%ですが、中身は「機能品が通期分を稼ぎ終わり、化学品が通常ペース」という組み合わせです。
これをどう読むかは2通りあります。1つは「機能品事業の予想が保守的すぎる」。もう1つは「機能品事業は残り3四半期で利益が消える四半期があると会社が見ている」。前期の7〜12月に実際に赤字を出しているセグメントなので、後者を切り捨てる材料はありません。会社は業績予想の修正理由で「外部環境の変化による影響を慎重に見極める必要があるため、売上高、営業利益および経常利益の予想値は前回公表値を据え置いております」と書いています。
3-4. 進捗率を前年と並べるときの注意
| 2025年4〜6月 | 2026年4〜6月 | |
|---|---|---|
| 営業利益(単独四半期) | 11億10百万円 | 11億65百万円 |
| 通期予想(分母) | 期初予想14億円(2025年5月14日) | 28億円(2026年5月13日) |
| 進捗率 | 79.3% | 41.6% |
| (参考)前年の8月修正後予想32億円に対して | 34.7% | — |
| (参考)前年の実績24億15百万円に対して | 46.0% | — |
前年の4〜6月は、期初予想14億円に対して79%という異常な進捗率になり、会社は8月7日に通期営業利益予想を14億円→32億円へ128.6%上方修正しました。しかし実際に着地したのは24億15百万円で、修正後予想を7億85百万円(24.5%)下回っています。第3四半期の短信(2026年2月10日)の時点でも予想は32億円のまま据え置かれ、下方修正の開示はありませんでした(決算短信の「修正の有無:無」と、適時開示一覧に修正のお知らせがないことから筆者が確認)。
つまり前年は「第1四半期の好調を見て大幅に上げ、最後に届かなかった」年です。今年、会社が第1四半期の41.6%進捗で予想を据え置いたのは、この経験の裏返しと読めます。進捗率を前年と並べるときは、前年の分母が期中に2回変わっていることを踏まえないと、「今年は進捗が悪い」という逆の結論になります。
4. 製品別に見る4〜6月期:何が伸びて何が落ちたか
4-1. 化学品事業
| 製品 | 2025年4〜6月 | 2026年4〜6月 | 増減率 | 会社コメント(補足資料) |
|---|---|---|---|---|
| クロム製品 | 14億54百万円 | 14億17百万円 | △2.5% | めっき向け低調 |
| シリカ製品 | 6億15百万円 | 6億8百万円 | △1.2% | 堅調 |
| りん製品 | 17億10百万円 | 16億91百万円 | △1.1% | 堅調 |
| その他 | 10億3百万円 | 12億78百万円 | +27.4% | — |
| 合計 | 47億83百万円 | 49億95百万円 | +4.4% | セグメント利益+2.6% |
出典:決算補足説明資料(2026年8月18日更新版)。製品別の合計は短信のセグメント売上高と±2百万円以内で一致することを確認しています(筆者の検算)。
主力3製品はすべて微減で、増収分はすべて「その他」(+2億74百万円)です。「その他」の中身は資料に記載がなく、本記事では踏み込めません。化学品事業は5月の通期予想でクロム製品△4.7%、りん製品△2.7%と減収を見込んでおり、4〜6月の主力3製品はその見込みどおりの動きです。
4-2. 機能品事業
| 製品群 | 2025年4〜6月 | 2026年4〜6月 | 増減率 | 通期予想(5月) | 1Q進捗 | 会社コメント(補足資料) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 電子セラミック材料 | 26億21百万円 | 24億65百万円 | △6.0% | 109億円 | 22.6% | AIサーバー関連など通信向け大幅伸長も車載向けで低調 |
| 有機機能材料 | 16億56百万円 | 15億8百万円 | △9.0% | 38億円 | 39.7% | ホスフィン誘導体は触媒向けが大幅伸長、農薬原体は原材料納入遅延に伴う生産調整 |
| 電池・電子デバイス材料 | 11億91百万円 | 12億87百万円 | +8.1% | 50億円 | 25.7% | 高純度電子材料がAIサーバー関連を中心に大幅伸長、電池材料は価格改定(下落) |
| その他 | 4億円 | 4億79百万円 | +19.7% | 16億円 | 29.9% | — |
| 合計 | 58億70百万円 | 57億41百万円 | △2.2% | 213億円 | 27.0% | セグメント利益+7.5% |
出典:同資料。前年同期の進捗は電子セラミック材料25.1%、有機機能材料40.7%、電池・電子デバイス材料25.3%(前年実績を分母にした筆者の計算)。
読み方のポイントは2つです。
1つ目、「AIサーバー関連が好調」という会社の説明と、電子セラミック材料の売上△6.0%は両立しています。 電子セラミック材料はMLCCの主原料であるチタン酸バリウムが中心で、車載向けと通信向けの両方に出ています。通信向け(AIサーバー)が大幅に伸びても、車載向けの落ち込みのほうが大きかった。「AIサーバー関連」という言葉だけを拾うと増収に見えますが、製品群の合計は減収です。
2つ目、売上が減った機能品事業で利益が増えた理由は、製品の構成にあります。 減ったのは車載向け電子セラミック材料、農薬原体(原材料の納入遅延による製造スケジュール調整)、電池材料(資源価格の下落による価格改定)。増えたのは海外向け触媒・有機合成用触媒原料(ホスフィン誘導体)、高純度電子材料、回路材料(資源価格上昇に伴う価格改定)。第1章の軸で言えば、「値段を自分で決めにくい粉」が減って、「純度で値段が通る粉」が増えた四半期です。粗利率1.3ポイント改善の正体はここにあります。
ただし、農薬原体の落ち込みは「原材料納入遅延等に伴う製造スケジュール調整」という供給側の事情であり、需要が消えたわけではありません。有機機能材料の1Q進捗が39.7%と高いのは前年も40.7%だったので季節性で、農薬原体の回復が下期に乗るかどうかは今後の四半期で確認する項目です。
4-3. 会社が決めた設備投資(8月18日更新の補足資料)
補足資料には、政策保有株式の売却で創出した資金の使い道として、2件の能力増強が「決定」と記載されています。
| 投資 | 内容 | 用途 | 稼働開始 | 投資金額 |
|---|---|---|---|---|
| 高純度赤りん | 生産能力を現行比約60%増強 | AIデータセンター向け高速光通信用InP(リン化インジウム)系化合物半導体の原料 | 2027年度(予定) | 記載なし |
| チタン酸バリウム(電子セラミック材料) | AIサーバー向け需要対応能力を現行比約1.5倍へ、福島第一工場で | MLCC向け | 2027年度(予定) | 約5億円 |
高純度赤りんの投資金額は資料に記載がありません。今期の設備投資予想は59億円(前期実績43億87百万円、+34.5%)で、減価償却費予想は42億円。設備投資が減価償却費を17億円上回る計画です。EBITDA予想70億円に対し、設備投資59億円+配当約21億円(後述)で80億円を使う計算になり、本業のキャッシュだけでは足りない年です。その差を埋めるのが政策保有株式の売却代金、という位置づけになっています。
用語メモ:EBITDA 営業利益+減価償却費。会社は「簡易版」と注記しています。工場を持つ会社が1年に本業で生み出す現金の目安で、ここから設備投資・配当・借入返済を賄えるかを見ます。
5. 資本政策と株主還元
株主優待はありません。有価証券報告書(2026年6月25日提出)の「提出会社の株式事務の概要」に「株主に対する特典:該当事項はありません」と明記されています。この章は、優待のない会社の受け皿として、配当・自己株式・政策保有株式・株主構成を扱います。
5-1. 年間配当120円→240円:何が2倍になったのか
| 中間 | 期末 | 年間 | |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 実績 | 46円 | 46円 | 92円 |
| 2026年3月期 実績 | 60円 | 60円 | 120円 |
| 2027年3月期 期初予想(2026年5月13日) | 60円 | 未定 | 未定 |
| 2027年3月期 修正予想(2026年7月30日) | 120円 | 120円 | 240円 |
出典:配当予想の修正に関するお知らせ(2026年7月30日)、決算短信。株式分割・併合はなく、調整は不要です。
会社の配当方針は「総還元性向40%またはDOE2%のいずれか高い方を基準」で、2026年度(今期)までの方針です。この方針を今期の数字に当てると、下限はいくらになるか計算してみます(筆者の計算、株数は2026年6月末の自己株式控除後8,676,751株)。
- DOE2%×期首純資産503億21百万円=10億6百万円 → 1株116円
- 総還元性向40%×純利益予想45億円=18億円 → 自己株式取得5億円を含めれば配当は13億円 → 1株150円
方針の下限は116〜150円程度で、240円はその1.6〜2倍です。 会社は7月30日の開示で「政策保有株式の縮減をはじめとする資本効率の改善にも取り組んでおります。こうした取り組みの一環として、株主の皆様への利益還元を一層充実させるため」と説明しています。方針の数式で出た答えではなく、経営判断で上に置いた金額と読むのが正確です。
用語メモ:DOE(純資産配当率)と総還元性向 DOE=年間配当総額÷純資産。利益ではなく純資産を基準にするので、利益が振れる年でも配当が安定しやすい指標です。総還元性向=(配当総額+自己株式取得額)÷純利益。日本化学工業は「どちらか高い方」を採用しているので、利益が出た年は総還元性向が、利益が薄い年はDOEが下限になります。
240円の配当総額は約20億82百万円(筆者の計算)。これを今期の予想数値に当てると、
| 指標 | 純利益予想45億円(特別利益込み)で計算 | 特別利益を除いた修正前予想30億円で計算 |
|---|---|---|
| 配当性向 | 46.3% | 69.4% |
| 総還元性向(+自己株式5億円) | 57.4%(会社資料「56%程度」) | 86.1% |
| DOE(期首純資産ベース) | 4.14%(会社資料「4%程度」) | 同左 |
特別利益を除いて計算すると、今期は稼いだ利益の86%を株主に返す年です。 本業の利益だけでこの配当を続けるのは難しい水準で、会社自身も配当方針を「2026年度までの基本方針」と期限つきで書いています。来期以降の方針は、2027年5月頃に公表される次の中期経営計画で示されると考えられますが、現時点で開示はありません。
なお、中間配当120円の基準日は2026年9月30日(水)です。国内株式の受渡しは約定日から2営業日後(T+2)なので、権利付き最終日は2営業日前の9月28日(月)、権利落ち日は9月29日(火)です(筆者の計算。取引所の臨時休業があれば変わります)。期末配当120円の基準日は2027年3月31日(水)で、権利付き最終日は3月29日(月)になります。
用語メモ:権利付き最終日 配当を受け取るには基準日に株主名簿に載っている必要があり、株を買ってから名簿に載るまで2営業日かかります。基準日が水曜なら、月曜の取引終了時点で持っている人が配当を受け取れます。
5-2. 自己株式取得:上限11万株・5億円
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 決議日 | 2026年7月30日 |
| 上限株数 | 110,000株(自己株式を除く発行済株式総数の1.27%) |
| 上限金額 | 5億円 |
| 取得期間 | 2026年8月12日〜2027年3月31日 |
| 8月末までの実績 | 17,100株、93,130,000円(平均5,446円/株、筆者の計算) |
| 上限に対する進捗 | 株数15.5%、金額18.6% |
出典:自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ(7月30日)、自己株式の取得状況に関するお知らせ(9月4日)。
株価が5,000円台なら、5億円÷5,350円=約93,000株で金額上限が先に効きます(筆者の計算)。前期も2025年12月23日決議で上限10万株・2億6千万円の取得を行い、79,400株・2億59百万円で金額上限に達して終了しています。「上限」は約束ではなく枠であり、今回も株数上限の11万株まで届かない可能性があります。
自己株式は2026年6月末で246,024株(発行済の2.75%)。潜在株式(新株予約権等)は存在せず(有報・短信ともに「潜在株式が存在しないため記載しておりません」)、譲渡制限付株式報酬として毎年7月に2万株程度の自己株式処分があるだけです。EPSの分母が新株発行で膨らむ心配のない会社で、証券情報サイトのEPS・PERをそのまま使える数少ないタイプです。
5-3. 政策保有株式の売却:特別利益40億円の見込みと、純利益予想の中身
ここが今期の資本政策の中心です。時系列で並べます。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年12月23日 | 上場有価証券3銘柄の売却を決議、売却益10億円見込み(2026年3月期の投資有価証券売却益は通期で10億29百万円) |
| 2026年3月2日 | 退職給付信託設定株式の売却を開示 |
| 2026年5月13日 | 2027年3月期予想:経常利益27億円、純利益30億円、配当は期末未定 |
| 2026年6月25日 | 有価証券報告書。特定投資株式4銘柄(計上額43億57百万円)、みなし保有株式4銘柄(同38億93百万円) |
| 2026年7月30日 | 配当予想を年間240円へ、自己株式取得5億円を決議 |
| 2026年8月10日 | 上場有価証券1銘柄の売却(売却益40億円見込み)と退職給付信託拠出株式4銘柄の売却(売却価額60億円見込み)を決議。純利益予想を30億円→45億円へ修正 |
| 2026年8月12日〜2027年3月末 | 売却期間 |
出典:各適時開示、有価証券報告書。
有価証券報告書に載っている2026年3月末時点の特定投資株式は次の4銘柄です。
| 銘柄 | 株式数 | 計上額(2026年3月末) | 保有目的(有報の記載要旨) |
|---|---|---|---|
| 村田製作所 | 942,690株 | 32億13百万円 | 機能品事業の取引先。前期に20万株を売却 |
| ADEKA | 280,000株 | 10億10百万円 | 化学品事業の取引先 |
| 保土谷化学工業 | 36,400株 | 0億90百万円 | 化学品事業の取引先、郡山市の化学企業同士 |
| 岡三証券グループ | 52,000株 | 0億42百万円 | 金融取引 |
みなし保有株式(退職給付信託に拠出)は三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、東邦銀行の4銘柄(同38億93百万円)です。8月10日の開示で「退職給付信託拠出株式4銘柄」を売却するとあるので、みなし保有株式は全銘柄が対象です。一方、売却益40億円を見込む「上場有価証券1銘柄」がどれかは開示されていません。3月末の計上額で特定投資株式の74%を占めるのが村田製作所ですが、銘柄名は会社が開示していないため本記事でも特定しません。
ここで、貸借対照表の話に戻ります。投資有価証券は3月末51億26百万円→6月末128億85百万円へ77億58百万円増えました。有報の特定投資株式43億57百万円と非上場株式1億47百万円を引いた残り約6億円が関係会社株式等と考えられ(筆者の推定)、増加分のほぼすべては上場4銘柄の時価上昇です。保有銘柄の株価が3か月で大きく上がり、その結果として売却益の見込みも膨らんだ、という順序です。
この動きは、会社の目標に対して皮肉な効果を持ちます。会社は「政策保有株式の純資産比率を2026年度までに15%以下、2030年度までに10%以下」を目標にしています。3月末時点の投資有価証券÷純資産は10.2%で、すでに目標圏内でした。ところが6月末は128億85百万円÷558億43百万円=23.1%(筆者の計算。会社の定義とは範囲が異なる可能性があります)。売らずに持っていただけで、比率が2倍以上に跳ねた。売却を決めた背景には、この比率の逆行を止める必要もあったと読めます。補足資料は「2026年度末の純資産比は8%程度を見込む(2026年8月公表分の売却実行後)」としています。
5-4. 純利益予想45億円を逆算する
ここは本記事でいちばん読者に確認をお願いしたい箇所です。
| 経常利益予想 | 特別利益 | 純利益予想 | 逆算 | |
|---|---|---|---|---|
| 5月13日時点 | 27億円 | 開示なし | 30億円 | 純利益が経常利益を3億円上回っている |
| 8月10日修正後 | 27億円 | 40億円(見込み) | 45億円 | 純利益の増分は15億円 |
まず5月時点の予想で、純利益30億円が経常利益27億円を上回っています。特別損益がゼロで税率30%なら純利益は19億円程度になるはずで、期初の予想にすでに何らかの特別利益か税効果が織り込まれていたことになります。5月の決算短信・説明会資料にはその内訳の記載がありません。
次に8月の修正で、特別利益40億円(税引前)を追加したのに純利益は15億円しか増えていません。税率30%なら28億円増えるはずです。差額の13億円について、会社は「今回の親会社に帰属する当期純利益予想の上方修正は、この特別利益の計上見込みを反映したものとなります」と書いているだけで、他の減益要因や、期初予想に含まれていた特別利益との重複については説明していません。
筆者の推測を1つだけ書きます。5月の純利益30億円に、その時点で予定していた株式売却益(たとえば十数億円)が織り込まれており、8月の40億円はそれを含んだ「合計」として開示された、と読めば数字はおおむね整合します。ただしこれは推測で、会社の開示に基づくものではありません。 読者には、会社IR(経理部)への確認か、11月の中間決算短信で特別利益の実績額を見ることをお勧めします。
いずれにしても、EPS518.63円のうち特別利益由来の部分は、少なく見ても173円(15億円÷8,676,751株)、多ければ300円超になります。PERを計算するときにどのEPSを使うかで、答えが1.5倍変わる会社です(第6章)。
5-5. 株主構成:個人が半分、取引先持株会が筆頭
| 区分(2026年3月末) | 株主数 | 所有株式数の割合 |
|---|---|---|
| 個人その他 | 9,605名 | 50.45%(自己株式2.75%を含む) |
| 金融機関 | 17 | 20.60% |
| 外国法人等 | 89 | 13.49% |
| その他の法人 | 134 | 10.67% |
| 金融商品取引業者 | 36 | 4.76% |
| 大株主(2026年3月末) | 所有株式数 | 割合(自己株式除く) |
|---|---|---|
| 日本化学工業取引先持株会 | 911千株 | 10.50% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 894千株 | 10.31% |
| 明治安田生命保険 | 353千株 | 4.07% |
| INTERACTIVE BROKERS LLC | 267千株 | 3.08% |
| 松井証券 | 223千株 | 2.57% |
| 上位10位合計 | 3,521千株 | 40.58% |
出典:有価証券報告書。
筆頭株主が「取引先持株会」である点は、第1章の軸に直結します。粉を納める相手(取引先)が集まって株を持っている会社です。2025年6月20日に持株会の議決権比率が10.00%に達して「主要株主」になったことが、2025年7月24日に遅れて開示されています(会社は開示の遅延を謝罪しています)。持株会は「継続的に市場で当社株式の買い付けを行う」と会社が説明しており、市場での買い手が構造的に1つ存在する形です。
個人株主が50%を超え、株主数は9,895名。外国法人は13.5%です。第6章で触れる株価の値動きの荒さは、この構成と無関係ではないと考えられますが、これは筆者の見方です。
5-6. 借入金
| 区分(2026年3月末) | 残高 | 平均利率 | 返済期限 |
|---|---|---|---|
| 短期借入金 | 79億円 | 1.5% | — |
| 1年内返済予定の長期借入金 | 23億75百万円 | 0.5% | — |
| 長期借入金(1年内を除く) | 41億25百万円 | 1.2% | 2027〜2031年 |
| 取引積立金(その他の流動負債) | 16億25百万円 | 1.9% | — |
出典:有価証券報告書「借入金等明細表」。連結貸借対照表上の短期借入金102億75百万円は1年内返済予定の長期借入金を含みます。長期借入金の返済予定は2027年度21億25百万円、2028年度10億円、以降5億円ずつ。有利子負債(借入金)144億円に対し自己資本558億円でD/Eレシオは0.26倍、会社が「目安」とする0.4〜0.5倍を大きく下回っています。借入余力を残したまま、株式売却代金で投資と配当を賄うという資本配分です。取引積立金(取引先からの預り金と考えられます)に1.9%の利率が付いている点は、決算書の隅の数字として記録しておきます。
6. 株価の見方(複数の解釈を併記)
要確認箇所:本節の株価は2026年9月1日終値5,350円(Yahoo!ファイナンスのキャッシュ、報道ベース)を基準にしています。公開前に証券ツールの確定値へ差し替えてください。 本記事の株価に依存する数字はすべてこの節に集めています。
| 指標 | 数値 | 計算 |
|---|---|---|
| 株価(2026年9月1日終値) | 5,350円 | — |
| 時価総額 | 約477億円 | 5,350円×8,922,775株 |
| PER(会社予想EPS518.63円) | 10.3倍 | 特別利益込み |
| PER(修正前予想EPS345.75円) | 15.5倍 | 特別利益を除いた目安 |
| PER(前期実績EPS331.39円) | 16.1倍 | — |
| PBR(6月末BPS約6,436円) | 0.83倍 | 保有株の時価上昇を反映後 |
| PBR(3月末BPS5,799.58円) | 0.92倍 | — |
| 配当利回り(年間240円) | 4.49% | — |
| 年初来安値→高値 | 2,790円(3月30日)→6,360円(6月2日) | 2.28倍 |
出典:株価はYahoo!ファイナンス(報道ベース、キャッシュ日付に注意)。EPS・BPSは短信。
株価の事実だけを並べます。年初来安値2,790円(3月30日)から6月2日の高値6,360円まで、2か月で2.3倍になっています。配当2倍の発表(7月30日)より前の動きで、発表当日の終値5,550円から翌日5,930円(+6.8%)。第1四半期決算と特別利益の発表(8月10日)後は、5,620円から8月12日の5,180円(△7.8%)へ下げています。7月16日〜8月14日の20営業日のうち、日中の高値と安値の差が10%を超えた日が複数あります(Yahoo!ファイナンスの時系列から筆者が確認)。
強気に読む材料
- 4〜6月期は増収・営業増益で、粗利率が直近9四半期で2番目に高い水準。売上構成が「純度で値段が通る粉」に寄っている
- 機能品事業の4〜6月の利益だけで、会社の通期セグメント利益予想を超えている。会社予想が保守的である可能性
- 年間配当240円、自己株式取得5億円。DOEは前期2.2%から4%程度へほぼ2倍。方針の下限(116〜150円程度)を大きく上回る配当を会社が選んだ
- 高純度赤りん(+60%)とチタン酸バリウム(1.5倍)の能力増強を決定。AIサーバー・光通信向けの需要が続けば、2027年度から売上に乗る
- 政策保有株式の縮減で純資産比8%程度へ。PBR1倍割れの是正を会社が経営課題として明示している
弱気に読む材料
- 第1四半期が毎年いちばん利益の出る四半期で、前々期の最終四半期は営業赤字、前期の7〜9月は営業利益2億80百万円。4〜6月の利益を四半期あたりの実力として読むと、この会社では必ず外れます
- 特別利益を除いたPERは15倍台。前期実績EPSに対しても16倍で、株価は本業の利益に対して安くはない(筆者の見方)
- 配当240円は特別利益を除いた利益の69%、総還元性向は86%。配当方針は「2026年度まで」の期限つきで、来期の配当水準は開示されていない
- 中期経営計画の営業利益33億円に届かない見込みで、2030年度60億円には年率21%の成長が必要
- 純利益予想45億円の中身が開示だけでは逆算できない(第5-4節)
- 保有株の時価が3か月で2.5倍になったことが純資産を55億円押し上げている。売却前に保有銘柄の株価が下がれば、特別利益40億円の見込みも、PBR0.83倍の分母も同時に縮む。会社も「株価変動などにより不確実性を含みます」と注記している
- 軸の反転:粉を磨く手間賃は、粉の量(顧客の稼働)と値段(資源価格)を自分で決められない。AIサーバー関連が「想定を上回る需要」であることと、車載向けが「低調」であることは、どちらも顧客側の事情で、会社が動かせる変数ではない
判断は読者に委ねます。
7. 今後のカレンダーと見るべきKPI
| 時期 | イベント | 見るべき点 |
|---|---|---|
| 2026年9月28日(月) | 中間配当(120円)の権利付き最終日(筆者の計算) | 基準日9月30日 |
| 2026年8月12日〜2027年3月末 | 政策保有株式の売却期間、自己株式取得期間 | 毎月上旬の「自己株式の取得状況」開示で進捗を確認 |
| 2026年11月上旬〜中旬 | 中間決算(前年は11月11日) | 7〜9月単独の営業利益(前年2億80百万円)、機能品セグメントの単独利益(前年△1億19百万円)、特別利益の計上額 |
| 2027年2月上旬 | 第3四半期決算 | 通期予想の修正有無。前年は3Qまで32億円を据え置き、24億15百万円で着地 |
| 2027年3月29日(月) | 期末配当(120円)の権利付き最終日(筆者の計算) | 基準日3月31日 |
| 2027年5月中旬 | 通期決算、次期中期経営計画・配当方針 | 現行の「総還元性向40%またはDOE2%」は2026年度まで |
| 2027年度 | 高純度赤りん・チタン酸バリウムの能力増強稼働 | 投資金額(赤りんは非開示)と売上寄与 |
見るべきKPI
- 単独四半期の営業利益と粗利率(累計から差し引く)。特に7〜9月期
- 機能品事業の単独四半期のセグメント利益がプラスを維持するか
- 電子セラミック材料の売上(車載向けの回復と通信向けの持続)
- 特別利益の計上額と、純利益予想45億円との整合
- 投資有価証券の残高と純資産比率(会社目標8%程度)
- 自己株式取得の進捗(金額上限5億円に対して)
- 設備投資額と減価償却費の差(59億円vs42億円の計画)
8. 3行まとめ
- 2026年4〜6月期は増収0.8%・営業増益5.0%。純利益△24.9%は前年の固定資産売却益の反動で、本業は粗利率改善による増益。ただしこの会社は第1四半期がいちばん利益が出る四半期で、前期には営業利益がほぼ消えた四半期と機能品事業が赤字の半年がある
- 年間配当は120円→240円、自己株式取得5億円。原資は政策保有株式の売却益40億円(見込み)で、特別利益を除くと総還元性向86%。配当方針は今期までの期限つき
- 保有株の時価上昇で投資有価証券が3か月で2.5倍、純資産比23%へ。売却でこれを8%程度に戻す計画だが、純利益予想45億円の中身は開示だけでは逆算しきれない。PERは使うEPSで10倍にも16倍にもなる
免責事項
本記事は、決算短信等の公開情報をもとに、生成AIを執筆補助として用いて作成しています。論点の選定・構成の判断、および記載した数値と一次情報との照合は筆者が行っています。
本記事は投資勧誘・投資助言を目的としたものではありません。数値の出典は、日本化学工業株式会社の2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月10日)、2026年3月期決算短信(2026年5月13日、6月12日付訂正を反映)、2026年3月期第1四半期・第2四半期・第3四半期決算短信、有価証券報告書(2026年6月25日提出)、各適時開示(配当予想の修正、自己株式取得、政策保有株式の売却、業績予想の修正、主要株主の異動、連結子会社の解散)、および会社ウェブサイト掲載の決算補足説明資料(2026年8月18日更新版)・決算説明会資料(2026年5月22日)です。単独四半期の数値、進捗率、比率、権利付き最終日はすべて筆者がこれらの開示値から算出したもので、「筆者の計算」「筆者の差し引き」「筆者の概算」と明記しています。決算補足説明資料の製品別売上高は、短信のセグメント売上高との合計一致(±2百万円)を確認したうえで使用しています。株価・時価総額・PER・PBR・配当利回り・年初来高値安値は株価情報サイト(Yahoo!ファイナンス)のキャッシュに基づく報道ベースの数値で、基準日を明記していますが、キャッシュが古い可能性があります。本記事で踏み込まなかった論点:2025年3月期以前の四半期変動の原因(棚卸資産評価損の詳細)、化学品事業「その他」の内訳、高純度赤りん増強の投資金額、売却対象となる上場有価証券1銘柄の特定、5月時点の純利益予想30億円に織り込まれていた特別損益の内容、退職給付信託拠出株式の売却が退職給付会計に与える影響、海外子会社・持分法適用会社の業績、2026年8月10日提出の臨時報告書の内容。第5-4節の純利益予想の逆算に関する記述は筆者の推測であり、会社の開示に基づくものではありません。
記載内容の正確性・完全性には注意を払っていますが、誤りや情報の陳腐化が含まれる可能性があり、これを保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。投資の最終判断は、必ずご自身で一次情報(会社IRサイト・EDINET等)をご確認のうえ、自己責任で行ってください。