株式投資

【2026年8月発表・上半期決算】オンコリスバイオファーマ(4588)売上5億円は「承認のご祝儀」——テロメライシンを売り始めた会社は、年間何人に届けば赤字が止まるのか?

本記事は2026年9月時点の公開情報に基づく個人の分析メモです。執筆には生成AIを利用していますが、数値は筆者が一次情報と照合しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

この記事でわかること

  • 上半期の売上高5億300万円(前年同期比17倍)の正体が、製品の売上ではなく「承認取得時のマイルストーン収入」であること。そして製品の売上は下半期からしか立たないこと
  • 「22億円」「90億円」「100億円」と、この薬の市場規模として並ぶ数字が、それぞれ誰が・何を基準に言った数字なのか
  • 会社の年間費用(約20〜25億円)と薬価930万円から、「年間何人に届けば営業赤字が止まるか」を逆算する型。オンコリスの取り分が未開示なので、幅で示します
  • 自己資本比率が87.6%から72.1%に下がった理由が、赤字だけでなく「製品を仕入れるための短期借入4.4億円」であること
  • この会社が2021年から2026年7月までに発行済株式数を69%増やしてきた経緯(MSワラント3回)と、2026年は希薄化を伴う調達をしないと会社が明言していること
  • 配当ゼロ・優待なしの会社で、株主が見るべき「希薄化と需給の管理情報」(残っている新株予約権、信用買残、10月のTOPIX採用見込み)

1. 前提知識:オンコリスバイオファーマはどんな会社か

「設計図を売る会社」から「自分の看板で薬を売る会社」へ

オンコリスバイオファーマを一言でいうと、20年かけて開発したがんのウイルス薬を、これまでは他社に「設計図ごと売る」つもりだったのに、途中から「自分の看板で売る」ことにした会社です。

もう少し具体的に言います。創薬ベンチャーの典型的な商売は、薬の候補をある程度まで育てて、大手製薬に権利を渡し(ライセンス)、その対価として契約一時金・開発の節目ごとのマイルストーン・売上に応じたロイヤリティをもらう、というものです。オンコリスも主力のOBP-301(テロメライシン)を2019年に中外製薬へライセンスしていました。ところが2021年12月にその契約が解消され、2022年8月に臨床試験を中外から引き取り、自分で承認申請まで持っていくことにしました。有価証券報告書はこれを「ライセンス型事業モデルと製薬会社型事業モデルのハイブリッド」と呼んでいます。

ただし「自分で売る」といっても、製造も、箱詰めも、営業も、卸も、全部他人がやります。製剤はベルギーのヘノジェン社(サーモフィッシャーグループ)が作り、日本に輸入されて神戸の三井倉庫で箱詰めされ、富士フイルム富山化学のMRが病院に売り込み、卸のSPLine社が納品します。オンコリスが自分で持っているのは「再生医療等製品製造販売業者」という許可、つまり出荷と安全性に責任を負う看板と、承認と特許、そして在庫です。従業員は45名(2026年6月末、うち研究開発27名)で、営業部門はありません。

この「看板だけ自分で持った製薬会社」という軸は、この記事の中で3回使います。強みの側では「ライセンスなら1回きりの一時金だったものが、売れるたびに供給収入が入る構造になった」を、弱みの側では「作る人と売る人は他人なので、供給価格の交渉力と在庫を抱える負担は自分に来る」を、資本政策の側では「看板を掛け替える費用を、株を刷って賄ってきた」を、同じ軸で説明できるからです。

事業構造を1つの表で

項目内容
主力品テロメライシン注(OBP-301)。がん細胞の中だけで増えて壊す「腫瘍溶解ウイルス」。2026年6月8日に食道がんで製造販売承認(通常承認)、8月13日薬価収載、8月21日販売開始
効能・効果根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道癌(手術も抗がん剤も受けられない患者に、放射線と併用して内視鏡で3回注射)
薬価1瓶310万2489円、1人(3回)930万7467円
国内販売富士フイルム富山化学が販売元。承認・販売達成に応じたマイルストーンを最大17億円受け取り、上市後はオンコリスが最終製品を供給して販売代価を得る(有報「重要な契約等」)
2つめの柱OBP-601(センサブジン)。神経難病向けに米Transposon社へ全世界ライセンス済み(総額3億ドル超)。開発費はTransposon社が全額負担
次世代OBP-702(すい臓がん、岡山大学の医師主導治験を2026年に開始予定)
海外台湾はMedigen社にライセンス済み。「年内に海外1社と新たな契約」を会社が掲げる
セグメント創薬事業の単一セグメント(非連結。米国に100%子会社2社があるが連結していない)
決算期12月
配当無配(2026年12月期予想も0円)
株主優待制度なし(有報「株主に対する特典:該当事項はありません」)

用語メモ:通常承認と「条件及び期限付き承認」 再生医療等製品には、少ない症例で早く承認する代わりに、発売後に改めて臨床試験で有効性を確かめる「条件及び期限付き承認」という制度があります。上場バイオベンチャーの先行3製品(アンジェス、サンバイオ、クオリプス)はいずれもこの形でした。テロメライシンは「通常承認」なので、発売後の追加試験が要りません。会社は説明会資料で、これを先行3社との違いとして強調しています。

直近5期の業績推移(単体)

決算期売上高経常損失当期純損失発行済株式数1株純資産自己資本比率期末現金同等物
2021年12月期642△1,500△1,61517,405千株206.86円83.6%3,209
2022年12月期976△1,163△1,14817,405千株124.20円81.2%1,466
2023年12月期63△1,913△1,93819,717千株74.35円71.5%1,287
2024年12月期31△1,663△1,68424,961千株110.40円85.8%2,165
2025年12月期28△2,051△2,05829,291千株136.38円87.6%3,429

単位:百万円(株数・円・%を除く)。出典:2025年12月期有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」。

この表のポイントは2つです。

1つめ。売上は2022年の9.7億円をピークに、2023年以降はほぼゼロです。 2024年・2025年の売上は全額がTransposon社向け(治験薬販売等)で、年間3千万円前後。つまり、この会社は直近3年間、ほぼ売上のない状態で年間16〜20億円の赤字を出し続けてきました。

2つめ。その赤字を、株を刷って埋めてきました。 発行済株式数は2021年末の1,740万株から2025年末の2,929万株へ、4年で68%増えています。増えた分はほぼ全部、行使価額修正条項付新株予約権(いわゆるMSワラント)の行使です。1株純資産が2023年の74円まで削られ、そこから110円、136円と回復して見えるのは、利益が出たからではなく、増資で純資産を積み直したからです。この話は5章で改めて扱います。

会社が示している目標

中期経営計画はありません。代わりに説明会資料と説明会の発言から、目標として拾えるのは次の3つです。

  • 2030年までに黒字化(説明会資料。「販売予測を精査中だが、2030年までに黒字化を目指す」)
  • テロメライシンを薬価ベースで年間90〜100億円の製品に(書き起こしベース。1,500例中1,000人に投与されれば約90億円、と社長が説明)
  • 年内に海外1社と新たな契約を締結(説明会資料)

通期の業績予想は開示されていません。理由は「販売提携先の富士フイルム富山化学と販売予測を精査しているため」で、2027年12月期から開示する方針だと説明会資料に書かれています。つまり、今の株価は、会社自身がまだ数字にしていない売上予測を市場が先に織り込んでいる状態です。この点は6章の株価の見方に効いてきます。

2. 決算ハイライト(2026年12月期上半期・2026年8月7日発表)

損益

項目2025年上半期2026年上半期増減
売上高28503+474
販売費及び一般管理費1,2951,270△25
うち研究開発費1,017766△251
うち研究開発費以外278504+226
営業損失△1,267△767+499
経常損失△1,311△760+551
中間純損失△1,313△762+551
1株当たり中間純損失△52.85円△26.03円

単位:百万円(百万円未満切捨て)。2025年上半期の研究開発費は決算説明会資料の数値。

見出しの「売上高17倍」に目が行きますが、この表で一番大事な行は**「研究開発費以外の販管費が2.8億円から5.0億円に増えた」**ところです。研究開発費は製法開発が終わって2.5億円減りましたが、その分がそっくり販売準備・薬事・信頼性保証などの費用に置き換わっています。「看板だけ自分で持った製薬会社」になるための固定費が、売上が立つ前に先に膨らんでいる、と読めます。

用語メモ:マイルストーン収入 ライセンスや販売提携の契約で、「承認が取れたら○円」「売上が△円に達したら□円」と節目ごとに決められた一時金です。今回の5億円は「製造販売承認の取得」という節目で富士フイルム富山化学から受け取る権利が確定した分で、6月末時点では現金ではなく売掛金として計上され、7月に入金されました。製品を1瓶も売っていない段階の収入である点に注意が必要です。

4〜6月の3か月だけを差し引くと

決算短信は累計しか載せていないので、第1四半期を差し引いた3か月分を筆者が計算しました。

項目2025年4〜6月2026年4〜6月
売上高28500
販管費510846
うち研究開発費521
営業損失△481△346
経常損失△500△347
四半期純損失△501△347

単位:百万円。筆者の差し引き(上半期累計−第1四半期累計)。百万円単位で丸められた値の差し引きなので1百万円程度の幅があります。2025年4〜6月の研究開発費は四半期の内訳が開示されていないため空欄。

4〜6月の売上500百万円は、ちょうど5億円です。 つまり上半期の売上503百万円のうち、マイルストーン以外(Transposon社向けと思われる分)は第1四半期の3百万円だけです。また、4〜6月の販管費8.5億円は、第1四半期の4.2億円の2倍です。承認直前の3か月に、製剤の追加製造や販売準備の費用が集中したと読めますが、内訳は開示されていません。

財政状態

項目2025年12月末2026年6月末増減
現金及び預金3,6743,186△488
売掛金31582+551
前払金(ヘノジェン社向け)333169△164
未収入金302445+143
資産合計4,5554,510△45
短期借入金233687+454
長期借入金6697+31
契約負債(前受金)1101100
負債合計5551,253+698
純資産3,9993,257△742
自己資本比率87.6%72.1%△15.5pt

単位:百万円。

自己資本比率が15ポイント下がった理由は、赤字(純資産△7.4億円)と借入(+4.8億円)の両方です。 借入の中身は、2026年2月にみずほ銀行から借りた4億4,000万円の短期資金で、有報の後発事象に「資金の使途:仕入資金」「返済期限:2026年7月31日」「期限一括返済」と書かれています。製品を仕入れて在庫を持つのは製造販売業者であるオンコリス自身なので、売る前に仕入れの金がいる、という製薬会社型の構造がここに出ています。7月末の返済期限を過ぎましたが、返済したのか借り換えたのかの開示は筆者が確認した範囲では見当たりません(要確認)。

未収入金4.4億円のうち、2025年末時点の3.0億円はMedigen社(台湾)向けです。台湾ライセンスの対価と思われますが、なぜ未収のまま残っているのかは開示がありません。

キャッシュ・フロー

項目2025年上半期2026年上半期
営業活動によるCF△1,037△1,017
投資活動によるCF△5+31
財務活動によるCF+42+496
現金同等物の増減△1,023△487
期末現金同等物1,1422,941

単位:百万円。

営業CFは前年並みの△10億円です。5億円の売上が営業CFにまったく効いていないのは、入金が7月だったからで、これは会計上は普通のことです。半年で10億円出ていくペースが続くと仮定すると、6月末の現預金31.9億円は1年半分です。ただし7月にマイルストーン5億円と前受金(金額非開示)が入り、下半期からは製品売上も入るので、この「1年半」は上半期の費用ペースを単純に延長した目安にすぎません。

3. 深掘り:「5億円」「22億円」「90億円」——3つの数字は同じ場所を指していない

この決算で一番わかりにくく、一番大事なのは、テロメライシンの「売上」として並ぶ数字の単位が揃っていないことです。整理します。

数字誰が言ったか何の数字かオンコリスの売上との関係
5億円決算短信(一次)承認取得のマイルストーン収入オンコリスの売上そのもの。ただし1回きり
最大17億円有報(一次)富士フイルムからの承認・販売マイルストーンの上限5億円を除くと残り最大12億円が、販売目標の達成に応じて入る(時期・条件は非開示)
22億円中医協資料(二次。複数報道で一致)ピーク時の予測販売金額。年間投与患者241人×930万円薬価ベースの市場規模。オンコリスの売上ではない
90〜100億円社長の説明会発言(書き起こしベース)放射線単独療法の1,500例のうち1,000人に投与された場合の薬価ベース金額同上。会社の目標であり、予想ではない

用語メモ:薬価ベースとメーカー売上 薬価は病院が保険請求する公定価格です。薬はメーカー→卸→病院と流れ、卸が病院に売る価格は薬価より少し安く、メーカーが卸に売る価格はさらに安くなります。テロメライシンの場合はさらに、オンコリス→富士フイルム富山化学→卸→病院と1段多く、オンコリスの売上は「富士フイルムへの供給価格」です。この供給価格は開示されていません。

中医協の「22億円」と会社の「90億円」が4倍違う理由

中医協(中央社会保険医療協議会)は薬価を決める会議で、そこに出た資料の「ピーク時241人・22億円」は、承認された効能・効果の範囲で堅めに見積もった数字です。一方、社長が説明会で言った「1,500例中1,000人」は、放射線単独療法を受けている患者のうち3人に2人にテロメライシンが使われる、という前提です。さらに社長は、免疫チェックポイント阻害剤+化学療法で効かなかった患者や、治験で対象にしなかったステージⅠ・Ⅳの患者にも「適正使用ガイドライン上は使える」と説明していますが、これは市場が広がる可能性の話であって、数字には入っていません。

どちらが正しいかは今の時点では誰にもわかりません。大事なのは、株価が織り込んでいるのがどちらの数字かです。時価総額1,682億円(9月10日終値5,710円)は、22億円の薬価ベース市場を前提にした数字ではないでしょう。

「年間何人に届けば営業赤字が止まるか」を逆算する

この会社の費用は、製品の売上に関係なくかかる固定費がほとんどです。2025年12月期の販管費は20.5億円、2026年上半期は12.7億円(年換算25.4億円)でした。研究開発費は今後も効能拡大試験やOBP-702にかかるので、この水準が急に下がるとは考えにくい。

一方、収入側は「患者1人あたり930万円×オンコリスの取り分」です。取り分(供給価格÷薬価)は非開示なので、幅で置きます。

年間固定費の前提取り分30%取り分50%取り分70%取り分100%(参考)
20.5億円(2025年実績)735人441人315人221人
25.4億円(2026年上半期の年換算)910人546人390人273人

必要患者数=年間固定費÷(930万7467円×取り分)。筆者の試算。取り分は仮定であり、会社の開示に基づくものではありません。

例:固定費20.5億円、取り分50%の場合
  1人あたりオンコリス収入 = 9,307,467円 × 0.5 = 4,653,734円
  必要患者数 = 2,052,614,000円 ÷ 4,653,734円 ≒ 441人

この表から読めることが2つあります。

1つめ。中医協のピーク予測(年間241人)では、取り分が100%でも固定費を賄えません。 241人×930万円=22.4億円で、2025年の販管費20.5億円をかろうじて上回りますが、オンコリスの取り分が100%ということはあり得ません。つまり、中医協の予測どおりなら、テロメライシンの国内販売だけでは黒字になりません。

2つめ。会社の言う「1,000人」が実現すれば、取り分が30%でも黒字化ラインを超えます。 会社が「2030年までに黒字化」と言えるのは、この1,000人の絵を前提にしているか、あるいは残り最大12億円のマイルストーン・海外ライセンスの一時金・Transposon社のイベント収入を足し込んでいるか、のどちらかです。

「看板だけ自分で持った製薬会社」の弱みがここに出ます。取り分が非開示なので、投資家は何人売れれば黒字か、を自分で計算できない。来年から開示される業績予想と、上場後初の通期決算での「製品売上高」の開示が、この表の空欄を埋める最初の材料になります。

見え方が誤解を生む数字:まとめ

  • 売上高17倍:製品売上ゼロの状態での一時金。下半期に同じ規模の一時金は予定されていない(販売マイルストーンの条件は非開示)
  • 赤字幅が半減:研究開発費の減少2.5億円と一時金5億円の合計7.5億円のうち、費用の置き換わり(販管費その他+2.3億円)で2.3億円が食われ、改善は5.0億円にとどまった
  • 営業CFが前年並み:5億円の入金が7月にずれただけ。ただし製品を仕入れる資金は今後も先に出ていく
  • 自己資本比率の低下:赤字だけでなく、仕入資金4.4億円の短期借入が原因。返済期限は7月31日で、その後の開示なし

4. イベント解説:承認から発売までに起きたこと、これから起きること

承認→薬価→発売の時系列

日付出来事
2025年12月15日製造販売承認申請
2026年2月6日減資(欠損填補)とみずほ銀行からの借入4.4億円を取締役会決議
2026年3月24日定時株主総会。減資と発行可能株式総数の3,000万株→1億株への拡大を承認
2026年5月31日減資の効力発生
2026年6月8日製造販売承認(通常承認)
2026年7月富士フイルム富山化学からマイルストーン収入と前受金を受領
2026年7月31日みずほ銀行借入の返済期限
2026年8月5日中医協で薬価案了承(1瓶310万2489円)
2026年8月13日薬価収載・保険適用
2026年8月21日販売開始
2026年10月新TOPIXの運用開始(採用見込み。東証の正式発表待ち)

薬価は「デリタクトの真似」で決まった

薬価の決め方には、似た薬の価格をもとにする「類似薬効比較方式」と、原価を積み上げる「原価計算方式」があります。テロメライシンは第一三共の脳腫瘍治療薬「デリタクト注」(同じ腫瘍溶解ウイルス製剤)を比較薬にして前者で算定され、そこに先駆加算10%・オーファン加算10%・有用性加算10%が乗りました。社長は説明会で「当社としてはこれよりかなり低い薬価が設定されると予測していた」「原価をサーモフィッシャーグループから開示してもらうことは不可能だった」と説明しています(書き起こしベース)。

投資家にとって意味があるのは、薬価が「革新的新薬薬価維持制度」の対象になった点です。市場実勢価格との乖離が大きくならない限り、薬価が毎年の改定で削られにくくなります。

サプライチェーンと在庫の話

説明会資料によれば、商用1ロット目は有効期間18か月で出荷を開始し、2ロット目はヘノジェン社で製造済みで輸入可能、3ロット目は2026年内に製造開始の計画です。有効期間は年内に24か月、2027年に36か月へ延ばす計画です。

ここで見ておくべきは、有効期間が短いほど、在庫は早く不良化するということです。マイナス80度で保管する製品を、売れる見込みが立つ前に作り置きしているのがこの会社の今の状態で、それが前払金(ヘノジェン社向け)や仕入資金の借入として貸借対照表に出ています。有効期間の延長は、地味ですが在庫リスクを直接減らす材料です。

OBP-601とTransposon社:もう1本の柱は「他人の資金調達待ち」

OBP-601はTransposon社が全額負担で開発しており、PSP(進行性核上性麻痺)のPhase3、ALSのPhase2/3、アルツハイマー病のPhase2をすべて「資金調達後に開始」としています。説明会資料によると、Transposon社は年内クローズ目標で2,000万〜3,000万ドルの調達を想定しています。社長は書き起こしの中で「リードインベスターが見つかった」「来年のIPOを目指すことを想定しているようだ」とも述べていますが、Transposon社は非上場の米国企業なので、オンコリス経由の情報しかありません。

オンコリスにとってOBP-601は、Transposon社の開発イベントやサブライセンス・IPO・M&Aが起きたときにマイルストーンが入る「オプション」です。2020年11月の第1回マイルストーン以降、大きな入金は開示されていません。上半期決算で唯一の売上先だったのがこの会社(年間約3千万円)、という事実が、この柱の現状を表しています。

TOPIX採用:10月の東証発表待ち

2026年10月から新しいTOPIXの運用が始まり、グロース市場の銘柄も「年間売買代金回転率0.2以上」かつ「浮動株時価総額の累積比率上位96%以内」なら採用対象になります。会社は9月4日の「お問い合わせへの回答」で、取引金融機関から「いずれの要件も充足した」との速報情報を得たとし、正式発表を待つよう求めています。採用されればパッシブ運用の買いが入る一方、それは業績と関係のない需給要因です。6章で扱います。

5. 資本政策・株主還元:配当ゼロ・優待なしの会社で見るべきもの

このセクションは「還元」の話ではなく、「希薄化と需給の管理情報」です。 配当も優待もない会社なので、株主が受け取るものは株価しかなく、株価は株数と需給に左右されるからです。

配当・優待・権利日

  • 配当:無配。2026年12月期予想も0円。有報の配当政策は「これまで利益配当を実施しておりません」「剰余金の配当を行う場合は、年1回期末を基準日として」
  • 株主優待:制度なし
  • 基準日:12月31日。国内株式の受渡は約定の2営業日後なので、2026年の権利付き最終日は12月29日(火)、権利落ち日は12月30日(水)です(東証の最終営業日は12月30日)。無配なので意味があるのは3月の定時株主総会の議決権だけです。説明会資料には「信用取引や貸株設定をしていると議決権行使書が届かない」という注意書きが毎回載っています

株数の推移:4年で69%増

時点発行済株式数増加の主因
2021年12月末17,405,200株
2022年12月末17,405,200株増減なし(減資のみ)
2023年12月末19,717,100株第19回新株予約権(MSワラント)行使
2024年12月末24,961,600株第19回残り1,148,100株+第20回4,000,000株の行使、譲渡制限付株式96,400株
2025年12月末29,291,600株第21回4,330,000株の行使(平均行使価額739.74円、調達32.0億円)
2026年6月末29,319,700株ストックオプション行使28,100株
2026年7月31日29,465,700株第13回・第14回ストックオプション行使146,000株(行使価額総額1億276万円)

出典:有報「発行済株式総数、資本金等の推移」、中間決算短信(後発事象)。

検算:2025年の第21回行使
  4,330,000株 × 739.74円 = 3,203,074千円 ≒ 開示の調達額3,203,084千円(端数差)
2021年末→2026年7月末の株数増加率
  29,465,700 ÷ 17,405,200 − 1 = +69.3%

用語メモ:MSワラント(行使価額修正条項付新株予約権) 証券会社に新株予約権を渡し、証券会社が株価を見ながら少しずつ行使して株を売る調達方法です。行使価額が株価に連動して下がるので、株価が下がるほど発行株数が増えます。会社にとっては確実に資金が入る一方、既存株主にとっては「いくらで何株増えるか」が事前にわからない希薄化です。オンコリスは2023〜2025年に3回(第19・20・21回)使い、この3回で約1,179万株を発行しました(2021年末からの株数増加1,188万株のうち、譲渡制限付株式96,400株を除いた分)。

2026年については、会社は「希薄化を伴う資金調達を実施する予定はない」と明言しています。 2月の決算説明会で示し、8月5日の薬価了承のお知らせと8月の説明会資料で再確認しています。根拠は、マイルストーン収入・製品販売収入と銀行借入で回す、というものです。裏を返せば、この方針は「製品が売れる」ことと「銀行が貸す」ことに依存しており、来年以降については「テロメライシンの売上によって、来期もできる限りこの状況を維持したい」(書き起こしベース)という表現にとどまります。

一方で、3月の株主総会で発行可能株式総数を3,000万株から1億株に引き上げています。総会時点の発行済2,929万株に対して残りの枠は約71万株で、ストックオプションの潜在株70万株でほぼ埋まる状態でした。「枠を7,000万株広げた」ことと「今年は使わない」ことは両立しますが、来年以降の調達余地を先に確保した、とも読めます。

残っている新株予約権

有報によれば、2025年末時点で残っていたストックオプションは第13回268,900株(行使価額696円)、第14回267,400株(712円)、第16回165,500株(776円)の合計701,800株です。2026年に入って合計174,100株が行使されたので、残りは概算527,700株(回次別の内訳は開示待ち)。行使期間はすべて2034〜2037年まで続いており、行使条件はとうに満たされているので、いつでも全部行使できます。 株価5,710円に対して行使価額は700円台ですから、1株あたり約5,000円の含み益を役職員が持っている計算です。発行済株式数の1.8%に相当し、需給に効く規模ではありませんが、決算短信の後発事象に毎回「行使による増資」が載る理由はこれです。MSワラントはすべて行使済みで、残っていません。

減資と欠損填補:数字の見え方が変わった

2026年5月31日付で資本金3.7億円と資本準備金16.2億円を減らし、その他資本剰余金に振り替えたうえで、繰越利益剰余金の欠損20.6億円を全額填補しました。この結果、6月末の貸借対照表では繰越利益剰余金が「△762百万円」と、今期の損失分だけの表示になっています。純資産の総額は1円も変わっていません。 過去の累積損失が消えたように見えるだけです。有報の後発事象は目的を「財務体質の健全化と将来の剰余金の配当等の株主還元策の実現を目指す」と書いていますが、無配の会社が配当可能な状態を帳簿上つくった、という以上の意味はまだありません。同じことを2022年と2025年にもやっています。

税務上の繰越欠損金

有報の税効果注記によれば、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は42.0億円(法定実効税率を乗じた額)で、全額に評価性引当額が付いています。税率を約3割で割り戻すと、欠損金そのものは概算で130億円台です。将来黒字になっても、当面は法人税がほぼかからない、という意味では資産です。ただし繰越期限が5年以内に来る分が合計12.8億円(税効果ベース)あり、それまでに黒字にならなければ順に期限切れになります。

借入

借入先・区分残高(2026年6月末)備考
短期借入金687百万円うちみずほ銀行4.4億円は仕入資金・7月31日期限一括返済(後発事象)。残りは1年内返済の長期借入分と思われる
長期借入金97百万円有報時点の平均利率2.65%、日本政策金融公庫分は「償却前売上高経常利益率の成功判定区分に応じて利率を決定」(成功報酬型)
担保無(みずほ借入)財務制限条項の開示なし

借入784百万円に対して現預金3,186百万円なので、純現金は24.0億円です。ただし営業CFが半年で△10億円のペースなので、「借りずに回せる期間」は上で書いたとおり1年半程度が目安です。

大株主と株主構成

2025年12月末時点の大株主上位は、アステラス製薬2.48%、モルガン・スタンレーMUFG証券2.23%、浦田社長1.77%で、上位10名合計でも13.46%です。個人株主が85.05%(所有単元ベース)、株主数16,025人という、典型的な個人主体の株主構成です。安定株主がほとんどいないので、値動きは需給に素直に出ます。

需給の現状(9月10日時点)

  • 信用買残:3,274,500株(9月4日時点)。発行済株式数の11.1%
  • 信用倍率:1,819倍(売残は1,800株しかない)
  • 9月10日の出来高:2,039,600株。発行済の6.9%が1日で回転
  • 年初来安値1,296円(1月7日)→高値5,970円(9月10日)。8か月で4.4倍

信用買残11%というのは、将来の売り圧力として小さくない水準です。TOPIX採用(10月)は買い材料として語られますが、採用が確定した後に「材料出尽くし」で信用の投げが出る、という展開も過去の他銘柄で繰り返されています。どちらに転ぶかは筆者にはわかりません。

6. 株価の見方:複数の読みを並べます

9月10日終値5,710円、時価総額1,682億円、PBR51.5倍(6月末の1株純資産110.94円で筆者計算。証券サイトのPBRは2025年末の136.38円で計算しているものもあり、数字がずれます)。PERは赤字なので計算できません。

強気側の読み

  • 通常承認は「後出しの臨床試験で失敗する」リスクを消した。 先行3社が抱える市販後試験の不確実性がない
  • 薬価930万円は会社の想定より高く出た。 3つの加算がフルに付き、薬価維持制度の対象にもなった
  • 「設計図を売る会社」なら承認時の一時金で終わっていた収入が、供給収入として続く構造になった。 効能拡大(下部直腸・肛門がん、喉頭がん)や海外ライセンス(年内1社)が乗れば、同じ製品で収入源が増える
  • 内視鏡投与の特許(2040年5月まで)は他社の腫瘍溶解アデノウイルスにも及ぶ。 食道がんの局所治療でオンリーワンの地位を築く可能性を、社長自身が語っている(書き起こしベース)
  • 2026年は希薄化を伴う調達をしない、と会社が繰り返し明言している

弱気側の読み

  • 中医協のピーク予測は241人・22億円。 この数字が正しければ、国内販売だけでは今の費用を賄えない(3章の表)。会社の「1,000人」との差は4倍あり、どちらが正しいかを判断できる材料(月次・四半期の販売数)は、まだ1つも出ていない
  • オンコリスの取り分(供給価格)が非開示。 投資家は損益分岐点を自分で計算できない
  • 作る人も売る人も他人。 製造はヘノジェン社1社、販売は富士フイルム富山化学1社への依存で、有報のリスク項目も「特定の1社依存リスク」を挙げている。「看板だけ自分で持った製薬会社」は、在庫と責任は自分で持つが、価格と販売量の決定権は持っていない
  • 8か月で株価4.4倍、PBR51倍。 承認・薬価・発売という2026年の主要イベントは8月までにほぼ消化された。次に業績で答え合わせができるのは11月の第3四半期決算(8月21日〜9月末の約6週間分の製品売上)と、来年2月の通期決算
  • 信用買残が発行済の11%。 安定株主がいない株主構成で、材料が途切れたときの下値は需給が決める
  • Transposon社の資金調達は「年内クローズ目標」が続いており、OBP-601の臨床試験はどれも開始していない

筆者の見方

個人的には、この決算は「テロメライシンが薬になった」ことを確認する決算であって、「テロメライシンが商売になるか」はまだ何もわかっていない決算だと読んでいます。売上5億円は承認のご祝儀で、下半期に製品売上が初めて計上されたとき、その金額から供給価格の水準が逆算できるようになります。そのときに3章の表の空欄が埋まります。株価がその前に4倍になっているのは、市場が会社の「1,000人・90億円」側の絵を採用しているからだ、という見方が成り立ちます。逆に、中医協の「241人」側に寄っていくなら、今の時価総額は説明しにくくなります。どちらの絵が正しいかは、来年から出る業績予想と製品売上の実績を待つしかありません。

7. 今後のカレンダーと見るべきKPI

時期予定見るべきもの
2026年10月新TOPIX運用開始・採用銘柄の東証発表採用の有無と、その前後の信用買残の動き
2026年内24か月安定性データの確認在庫の不良化リスクの低下
2026年内海外1社との新規契約(会社目標)契約一時金の有無と金額。韓国・東南アジア・英国のどこか
2026年内下部直腸・肛門がん試験の第1例投与、OBP-702医師主導治験の開始開示の有無
2026年内Transposon社の資金調達クローズ(2,000万〜3,000万ドル目標)クローズすればPSP試験開始→オンコリスへのマイルストーン
2026年11月上旬第3四半期決算初の製品売上高。8月21日〜9月30日分。金額から供給価格の水準を逆算する。みずほ借入の返済・借換の状況
2027年2月上旬2026年12月期通期決算2027年12月期の業績予想(初開示)。販売マイルストーンの条件が見えるか
2027年3月下旬有価証券報告書2026年末時点の大株主表、新株予約権の残数、販売実績の相手先別内訳
2027年3月定時株主総会発行可能株式総数1億株の枠を使う議案が出るか

KPIとして継続的に見るのは次の4つです。

  1. 四半期の製品売上高(マイルストーンと分けて開示されるか)
  2. 販管費のうち研究開発費以外(製薬会社型の固定費がどこで頭打ちになるか)
  3. 納入施設数(会社は「発売初期約80施設→300施設以上」を掲げる。ただし施設名は非公開)
  4. 借入残高と現預金の差(希薄化なしで回せているかの証拠)

8. 3行まとめ

  • 上半期の売上5億円は承認取得の一時金で、製品の売上は下半期から。赤字は半減したが、研究開発費が減った分だけ販売準備の固定費が増えている
  • 中医協のピーク予測(241人・22億円)と会社の目標(1,000人・90億円)は4倍違い、前者なら国内販売だけでは黒字にならない。オンコリスの取り分が非開示なので、損益分岐点はまだ計算できない
  • 株数は4年で69%増えたが、2026年は希薄化を伴う調達をしないと会社が明言。信用買残11%・PBR51倍・個人株主85%という需給構造の中で、11月の第3四半期決算が「商売になるか」の最初の答え合わせになる

要確認箇所(公開前に確定値へ差し替え)

  • 株価5,710円・時価総額1,682億円・年初来高値5,970円・出来高は9月10日時点。信用買残は9月4日時点。公開日の値に差し替えること
  • みずほ銀行借入4.4億円(7月31日期限)の返済・借換の状況。9月12日時点で筆者が確認した範囲では開示なし
  • 7月に受領した前受金の金額(非開示)
  • 残存ストックオプション527,700株は筆者の差し引き概算。回次別の内訳は第3四半期決算短信または次回有報で確認
  • TOPIX採用の正式発表(10月予定)
  • 権利付き最終日12月29日(火)は受渡2営業日を前提とした筆者の逆算。証券会社のカレンダーで確認

本記事は、決算短信等の公開情報をもとに、生成AIを執筆補助として用いて作成しています。論点の選定・構成の判断、および記載した数値と一次情報との照合は筆者が行っています。

本記事は投資勧誘・投資助言ではありません。数値は2026年12月期第2四半期(中間期)決算短信・同第1四半期決算短信・2025年12月期有価証券報告書・中間決算説明会資料・適時開示(製造販売承認、薬価案審議結果、薬価基準収載、お問い合わせへの回答)および報道に基づきます。「4〜6月」の数値、1株純資産、PBR、必要患者数の表、株数の増加率、残存新株予約権数は筆者の概算です。中医協の「ピーク時241人・22億円」は中医協資料を報じた複数の報道で一致する数値であり、筆者は中医協資料の原文を確認していません。決算説明会の発言は、Yahoo!ファイナンスに掲載されたログミーFinanceの書き起こしに基づいて再構成しており、原資料(説明会資料PDF・動画)での確認をお勧めします。書き起こしの有料会員限定部分はありませんでしたが、質疑応答が全文かどうかは筆者には確認できません。本記事では、富士フイルム富山化学との販売提携契約の詳細条件(供給価格、販売マイルストーンの条件)、Transposon社の財務状況、税務上の繰越欠損金の期限別内訳の詳細には踏み込んでいません。これらは有価証券報告書・今後の適時開示でご確認ください。

記載内容の正確性・完全性には注意を払っていますが、誤りや情報の陳腐化が含まれる可能性があり、これを保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。投資の最終判断は、必ずご自身で一次情報(会社IRサイト・EDINET等)をご確認のうえ、自己責任で行ってください。

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