株式投資

【2026年10月発表・第3四半期決算】不二越(6474)営業利益は7割増。それでも会社予想が「9〜11月」に置いている失速とロボット頼みの中身は?

本記事は2026年10月時点の公開情報に基づく個人の分析メモです。執筆には生成AIを利用していますが、数値は筆者が一次情報と照合しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

この記事でわかること

  • 不二越の第3四半期累計(2025年12月〜2026年8月)は、売上高+10.4%に対して営業利益+72.8%。15四半期を並べると、6〜8月の3か月の粗利率24.9%・営業利益率6.9%はいずれもこの期間で最も高い水準です
  • 営業増益48億円を「数量・率・販管費」に分けると、売上が増えた効果(約40億円)より、粗利率が上がった効果(約44億円)のほうが大きい。会社の説明でも最大の増益要因は「販売価格の適正化」(+42億円)です
  • 7月に上方修正した通期予想は据え置き。逆算すると、残り3か月(9〜11月)には売上が6〜8月から7.1%減、営業利益が18.0%減という形が置かれています。製品別に割ると、伸びを置いているのはほぼロボットだけ(6〜8月比+36.6%)です
  • 経常利益と純利益の予想は、9〜11月に営業外で約14億円のマイナス、純利益は前年同期比△45.9%という置き方になっています。第3四半期累計の税負担率31.0%で割り戻すと、純利益予想は9〜11月に約12億円の特別損失が出る前提と整合します(筆者の試算)
  • 不二越は2024年5月から2025年11月までの1年半に、立会外取引(ToSTNeT-3)で自己株式を6回、計155万株取得しています。同じ期間に、不二越自身も取引先・金融機関の株式を手放しています。株主優待は制度がありません

1. 前提知識:工場の「道具箱」を、鋼から自分で作って丸ごと売っている会社

1-1. 軸となる例え

工場の現場を思い浮かべてください。金属を削るドリルや刃物、機械の回る部分を支えるベアリング、重いものを動かす油圧の装置、部品を運んだり溶接したりするロボット、そして金属を削る工作機械。工場はこうした「道具」の集まりで動いています。

不二越は、この道具箱の中身をほぼ一社でそろえている会社です。しかも、刃物やベアリングの材料になる特殊鋼まで自社で作っています。1928年に輸入品だった金切りのこ刃を国産化するために富山で創業し、1938年には製鋼所を設けて「素材から製品までの一貫生産体制」を作った、と有価証券報告書の沿革にあります。

この記事では、不二越を「工場の道具箱を、鋼から自分で作って丸ごと売っている会社」と見立てて読み進めます。

この見立ては、強みと弱みを同じ1文で説明できます。

  • 強み:道具箱の中身が多いので、1つの業界が落ち込んでも他で支えられる。自社工場の自動化にも自社のロボットを使っている(会社は「社内の生産ラインのロボット化・自動化で得たノウハウを提供」と説明しています)
  • 弱み①(客の工場の稼働):道具が売れるかどうかは、客の工場がどれだけ動くかで決まります。有価証券報告書では、自動車・自動車関連向けが売上の約5割を占めると書かれています。会社は増減要因の説明で、この影響を「操業度」と呼んでいます
  • 弱み②(自前の工場の重さ):鋼から作る一貫体制は、工場と設備と人をたくさん抱えることでもあります。需要が落ちると固定費が残り、工場を畳むときには減損や特別退職金といった費用が出ます。不二越は3期続けて「構造改革費用」を特別損失に計上しています

この3つは、後半の深掘りで何度も使います。

1-2. 事業構造

セグメント主な製品2025年11月期 売上高営業利益営業利益率
機械工具工具・工作機械・ロボット734億07百万円42億79百万円5.8%
部品ベアリング・油圧機器・カーハイドロリクス1,472億55百万円49億98百万円3.4%
その他特殊鋼など152億40百万円4億80百万円3.1%
連結―2,359億03百万円97億73百万円4.1%

この表のポイントは2つです。

1つ目は、売上の6割強が「部品」セグメント(ベアリング・油圧機器・自動車向けの油圧部品)だということ。ロボットは会社が「事業成長の中核」と位置づけていますが、売上規模では前期252億円で、ベアリング(854億円)の3割弱です。

2つ目は、どのセグメントも営業利益率が3〜5%台にとどまっていることです。会社は有価証券報告書で、長期ビジョンのマイルストーンとして「海外売上高比率60%、営業利益率10%」を経営指標に掲げています。今期予想の営業利益率は6.0%、第3四半期累計の海外売上高比率は52.8%で、どちらもまだ距離があります。なお、この目標に達成時期は書かれていません。

用語メモ:カーハイドロリクスは、自動車用の油圧部品(パワーステアリングやトランスミッション周りなど)を指す不二越の製品区分です。補足資料では部品セグメントの内訳として、ベアリング・油圧機器と並べて売上高が開示されています。

株主優待:制度なし(有価証券報告書の「株主に対する特典」欄に「該当事項はありません」と記載。§7で詳述)

1-3. 5期の業績推移

有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」から転記しました。

決算期売上高経常利益純利益EPSROE1株配当配当性向
2021年11月期2,291億円145億円100億円418.09円8.1%100円23.9%
2022年11月期2,581億円171億円122億円513.17円8.8%110円21.4%
2023年11月期2,655億円110億円65億円276.92円4.2%110円39.7%
2024年11月期2,399億円42億円34億円144.10円2.1%100円69.4%
2025年11月期2,359億円84億円53億円233.48円3.2%100円42.8%
2026年11月期(会社予想)2,550億円133億円75億円344.20円―110円32.0%

金額は億円未満を四捨五入しています。配当性向は筆者が「1株配当÷連結EPS」で計算しました(有価証券報告書の5期表に載っている配当性向は単体ベースで、2025年11月期は25.2%です)。

この表のポイントは、2022年11月期をピークに利益が2年で約4分の1まで落ち、2025年11月期から戻り始めたことです。今期予想の純利益75億円は、2023年11月期の65億円を上回りますが、2022年11月期の122億円にはまだ届きません。ROEは3%台で、会社自身が中間決算説明資料で示した今期の計画も4.3%です。

1-4. 会社予想の達成履歴

不二越は毎年7月の中間決算と同時に通期予想を修正することが多い会社です。直近5期を並べます。

決算期期初予想(営業利益)期中修正修正後実績期初比修正後比
2022年11月期170億円なし―170億25百万円+0.1%―
2023年11月期175億円2023年7月13日(下方)165億円118億73百万円△32.2%△28.0%
2024年11月期100億円2024年7月11日(下方)60億円66億36百万円△33.6%+10.6%
2025年11月期86億円なし―97億73百万円+13.6%―
2026年11月期121億円2026年7月14日(上方)153億円―――

この表のポイントは2つです。

1つ目は、修正の方向が年によってばらばらだということです。2023年は7月に売上を上げて利益を下げ、そこからさらに28%下振れしました。2024年は7月に大きく下げたあと、実績は修正後予想を上回りました。2025年は期中に修正しないまま13.6%上振れしました。「この会社の予想は保守的」とも「楽観的」とも一方向には言えません。

2つ目は、2023年11月期の下振れが、ほぼ最後の3か月(9〜11月)で起きたことです。これは深掘り②で詳しく見ます。


2. 決算ハイライト(2026年10月5日15時30分発表)

2-1. 損益

項目2025年11月期 第3四半期累計2026年11月期 第3四半期累計増減率通期会社予想進捗率
売上高1,741億94百万円1,923億26百万円+10.4%2,550億円75.4%
売上総利益382億68百万円466億02百万円+21.8%――
営業利益66億28百万円114億57百万円+72.8%153億円74.9%
経常利益51億41百万円108億73百万円+111.5%133億円81.8%
純利益36億40百万円66億29百万円+82.1%75億円88.4%
EPS161.29円304.28円―344.20円―

通期予想は7月14日に上方修正した数字から変更されていません。配当予想も期末110円のまま据え置かれています。

会社は増益の理由を次のように書いています(原文)。

構造改革による固定費の削減、原材料価格上昇分の販売価格への転嫁、生産ラインの自動化・合理化、調達コストダウンにとり組んだ結果

この表のポイントは、経常利益の進捗率81.8%、純利益の進捗率88.4%が、営業利益の進捗率74.9%より高いことです。「最終利益の進捗が9割近いなら上方修正がありそう」と読みたくなりますが、これは予想の置き方の問題で、深掘り③で中身を分けます。

用語メモ:不二越は11月決算です。第1四半期=12〜2月、第2四半期=3〜5月、第3四半期=6〜8月、第4四半期=9〜11月です。3月決算の会社の感覚で「第3四半期=10〜12月」と読まないよう注意してください。

2-2. 経常利益と純利益のあいだ

項目前年同期今期
営業外収益17億91百万円20億54百万円
営業外費用32億78百万円26億37百万円
うち支払利息8億15百万円7億84百万円
うち休止固定資産減価償却費8億28百万円4億58百万円
特別利益19億49百万円71百万円
うち投資有価証券売却益19億33百万円46百万円
特別損失14億32百万円13億21百万円
うち構造改革費用12億72百万円8億96百万円
うち減損損失―3億31百万円
税金等調整前利益56億58百万円96億23百万円
法人税等21億16百万円29億82百万円

この表のポイントは2つです。

1つ目は、前年は政策保有株式の売却益(19億円)が特別利益を支えていたのに、今期はそれがほとんどないことです。それでも純利益が82%伸びたのは、営業段階の増益が大きかったからです。

2つ目は、構造改革費用が今期も8億96百万円出ていることです。内訳は特別退職金等1億45百万円、棚卸資産の評価損4億03百万円、棚卸資産の廃却損53百万円、その他2億93百万円。これとは別に、部品セグメントで減損損失3億31百万円を計上しています。工場の再編が今も続いているということです(軸の弱み②)。

なお、前期まで営業外費用に独立して載っていた「売上割引」(前年同期3億61百万円)は、今期の内訳には見当たりません。一方で営業外費用の「その他」は5億16百万円から9億91百万円に増えています。表示の変更なのかどうかは、短信の注記では確認できませんでした。

用語メモ:今期から不二越は「グループ通算制度」を適用し、四半期の税金費用を「年間の見積実効税率×税引前利益」で計算する方法に変えました(短信の注記)。この方法では、第3四半期累計の税負担率31.0%(29億82百万円÷96億23百万円)が、会社が見込んでいる通期の税負担率に近いと読めます。

2-3. 財政状態とキャッシュ・フロー

項目2025年11月末2026年8月末増減
現金及び預金322億04百万円390億06百万円+68億02百万円
棚卸資産(3科目合計)682億91百万円728億26百万円+45億35百万円
投資有価証券296億19百万円349億78百万円+53億59百万円
電子記録債務168億91百万円72億58百万円△96億33百万円
借入金+コマーシャル・ペーパー832億12百万円950億94百万円+118億82百万円
自己資本1,705億97百万円1,816億78百万円+110億81百万円
自己資本比率51.5%52.1%+0.6pt

第3四半期のキャッシュ・フロー計算書は作られていませんが、7月に提出された半期報告書には上半期(12〜5月)のキャッシュ・フロー計算書があります。上半期の営業キャッシュ・フローは△4億65百万円で、前年同期の+45億32百万円からマイナスに転じました。最大の要因は「仕入債務の減少」△103億06百万円です。

この2つの表から読めることは§5-3で扱います。ここでは「利益は大きく増えたが、手元の現金の増加は借入の増加でまかなわれている」とだけ押さえてください。


3. 深掘り①:48億円の増益は「量」と「値段」のどちらで生まれたか

ここから3章を使って、1つの問いを順に追います。問いは「第3四半期までの大幅増益は何でできていて、会社予想は残り3か月に何を置いているか」です。

まず、増益の中身から見ます。

3-1. 15四半期を並べる

不二越は短信で累計値しか開示していませんが、決算短信の補足資料に3か月ごとの実績が載っています。売上総利益と販管費は、各四半期の短信の累計値から筆者が差し引きました。各年度の4四半期の合計は、通期の開示値と±3百万円以内で一致することを確認しています。

四半期期間売上高粗利率販管費率営業利益営業利益率
2023年11月期 Q112〜2月658億円22.3%16.4%39億12百万円5.9%
2023年11月期 Q23〜5月694億円21.1%15.8%37億00百万円5.3%
2023年11月期 Q36〜8月649億円20.6%16.5%26億39百万円4.1%
2023年11月期 Q49〜11月653億円20.2%17.7%16億21百万円2.5%
2024年11月期 Q112〜2月593億円20.4%18.4%11億83百万円2.0%
2024年11月期 Q23〜5月594億円20.8%18.9%11億59百万円2.0%
2024年11月期 Q36〜8月607億円20.9%18.0%17億31百万円2.9%
2024年11月期 Q49〜11月605億円21.8%17.5%25億62百万円4.2%
2025年11月期 Q112〜2月567億円22.2%18.4%21億48百万円3.8%
2025年11月期 Q23〜5月592億円21.3%17.9%20億65百万円3.5%
2025年11月期 Q36〜8月583億円22.4%18.2%24億15百万円4.1%
2025年11月期 Q49〜11月617億円23.8%18.7%31億45百万円5.1%
2026年11月期 Q112〜2月602億円23.1%18.5%27億25百万円4.5%
2026年11月期 Q23〜5月646億円24.6%18.3%40億44百万円6.3%
2026年11月期 Q36〜8月675億円24.9%18.0%46億87百万円6.9%

営業利益は補足資料の3か月実績、粗利率・販管費率は筆者の差し引きです(差し引きの営業利益と補足資料の値は±2百万円で一致)。

この表のポイントは3つです。

1つ目は、粗利率が途中2回の小さな下落をはさみながら上がってきたことです。2024年11月期Q1の20.4%から、今期Q3の24.9%まで4.5ptの上昇。15四半期の中で最も高い水準です。

2つ目は、売上高はピークに戻っていないのに、営業利益率はピークを超えていることです。今期Q3の売上高675億円は、2023年11月期Q2の694億円をまだ下回っていますが、営業利益率6.9%は15四半期で最高です(2023年11月期Q1の5.9%を上回る)。

3つ目は、9〜11月(Q4)が毎年強いわけではないことです。Q4の営業利益がQ3を上回ったのは2024年・2025年の2年で、2023年は大きく下回りました。3年で同じ形が出ていないので、「9〜11月は季節的に強い」とも「弱い」とも言えません。

用語メモ:粗利率=売上総利益÷売上高、販管費率=販売費及び一般管理費÷売上高。不二越では製造部門の人件費や工場の減価償却費の多くが売上原価に入るので、工場の稼働が落ちると粗利率が下がり、稼働が上がると粗利率が上がりやすい構造です。

3-2. 増益を「数量・率・販管費」に分ける

第3四半期累計の営業増益48億29百万円を、次の3つに分けました(筆者の計算)。

  • 数量効果=売上の増加額×前年の粗利率(売上が増えたことで増えた粗利)
  • 率効果=今期の売上×(今期の粗利率−前年の粗利率)(粗利率が上がったことで増えた粗利)
  • 販管費の増減=販管費の増加はマイナス
要因第3四半期累計(12〜8月)うち6〜8月の3か月
数量効果+39億83百万円+20億56百万円
率効果+43億51百万円+17億13百万円
販管費の増加△35億06百万円△14億98百万円
合計+48億28百万円+22億71百万円
実際の営業増益+48億29百万円+22億71百万円

合計と実際の増益の差1百万円は、百万円未満の切り捨てによるものです。

この表のポイントは、第3四半期累計では「率効果」が「数量効果」を上回っていることです。売上が10.4%増えたことよりも、粗利率が22.0%から24.2%へ2.3pt上がったことのほうが、利益への貢献が大きかったということになります。

一方、6〜8月の3か月だけを見ると、数量効果(+20.6億円)が率効果(+17.1億円)を上回りました。6〜8月の売上は前年同期比+15.8%で、累計(+10.4%)より伸びが加速しています。値上げの効果が一巡しつつあり、代わりに量が効き始めた、と読める形です。

3-3. 会社の説明と並べる

会社も補足資料で、営業利益の増減要因を示しています。

会社が示した要因(第3四半期累計)金額
販売価格の適正化+42億円
操業度の改善+26億円
為替の影響+19億円
コストダウン+7億円
材料価格の値上り△38億円
固定費・販管費・その他経費の増△8億円
合計+48億円

この表のポイントは、最大の増益要因が「販売価格の適正化」(+42億円)で、そのうち大半が「材料価格の値上り」(△38億円)と打ち消し合っていることです。値上げで材料高を吸収しつつ、その差額に「操業度の改善」(+26億円)と「為替」(+19億円)が上乗せされた、というのが会社の説明です。

筆者の3分解とは区切り方が違うので、項目どうしを1対1で対応させることはできません(筆者の率効果には、価格・材料・為替・操業度の影響が混ざっています)。ただ、両方とも「売上が増えたこと」だけでは増益を説明できない、という点では同じ方向を指しています。

軸に戻ると、道具箱の中身の値段を上げられたこと(価格)と、客の工場が動き始めたこと(操業度)の両方が効いた期、と言えます。ただし為替の+19億円は、道具箱とは関係のない外部要因です。


4. 深掘り②:会社予想が「9〜11月」に置いているもの

深掘り①で、増益が値段と量の両方から来ていることを見ました。次は、会社予想が残り3か月にそれをどう置いているかです。

4-1. 残り3か月の「含み」を出す

通期予想から第3四半期累計を引くと、9〜11月の3か月に会社が置いている数字が出ます。

項目6〜8月(実績)9〜11月(会社予想の含み)前年9〜11月(実績)含みの前年比含みの6〜8月比
売上高674億93百万円626億74百万円617億09百万円+1.6%△7.1%
営業利益46億87百万円38億43百万円31億45百万円+22.2%△18.0%
営業利益率6.9%6.1%5.1%――
経常利益47億42百万円24億27百万円32億29百万円△24.8%△48.8%
純利益32億34百万円8億71百万円16億10百万円△45.9%△73.1%

(9〜11月の含みと前年9〜11月は筆者の差し引き)

この表のポイントは2つです。

1つ目は、売上の含みは前年比+1.6%しかないことです。6〜8月に+15.8%伸び、受注も+16.5%伸びている(§6-2)会社の予想としては、控えめな置き方に見えます。

2つ目は、営業利益は前年比+22.2%を置いている一方、経常利益は△24.8%、純利益は△45.9%を置いていることです。営業利益から下の段で、何かが大きく引かれています。これは深掘り③で見ます。

7月の上方修正時の為替前提は通期で1ドル154円でしたが、第3四半期までの実績は158円(6〜8月は160円)です。会社は残り期間だけの為替前提を開示していませんが、通期154円が上期実績157円を含む平均である以上、残り期間には実績より円高の水準が置かれている計算になります。売上の含みが控えめに見える理由の一部は、ここにあるのかもしれません(筆者の推測)。

4-2. 過去3年の「同じ時点の含み」と比べる

この会社の第3四半期時点の予想が、過去にどう着地したかを並べます。

決算期第3四半期時点の通期予想(営業利益)9〜11月の含み(営業利益)実際の9〜11月含みに対する達成率含みが置いていた前年比実際の前年比
2023年11月期165億円62億48百万円16億21百万円25.9%+54.6%△59.9%
2024年11月期60億円19億26百万円25億62百万円133.0%+18.8%+58.1%
2025年11月期86億円19億72百万円31億45百万円159.5%△23.0%+22.8%
2026年11月期153億円38億43百万円――+22.2%―

(前年比は前年9〜11月の営業利益との比較。いずれも筆者の差し引き)

この表のポイントは、上振れの年と大きな下振れの年が両方あることです。

2024年と2025年は、会社予想が9〜11月に置いた営業利益を実績が3〜6割上回りました。この2年だけを見ると「第3四半期時点の予想は保守的」と読めます。

ところが2023年は、9〜11月に前年比+54.6%という強い伸びを置いていたのに、実績は△59.9%で、含みの4分の1しか達成できませんでした。会社は差異の理由を「中国経済の減速などにより、産業機械・建設機械分野の需要が想定を下回り操業度が悪化した」と書いています。軸に戻ると、客の工場が止まったときに、道具箱の会社がどれだけ急に利益を失うかを示した年です。

今期の含みは前年比+22.2%で、2023年(+54.6%)ほど強気ではなく、2025年(△23.0%)ほど控えめでもありません。2年続けて上振れしたからといって、今年も同じだけ上振れするとは書けません。

4-3. 製品別に割ると、大きな伸びを置いているのはロボットだけ

会社は補足資料で、製品別の通期計画も開示しています(7月に修正した計画が、第3四半期の補足資料にもそのまま載っています)。ここから9〜11月の含みを製品別に出しました。

製品6〜8月(実績)9〜11月(含み)6〜8月比前年9〜11月前年比
工具106億25百万円91億57百万円△13.8%87億73百万円+4.4%
工作機械35億83百万円27億53百万円△23.2%30億57百万円△9.9%
ロボット73億86百万円100億86百万円+36.6%70億20百万円+43.7%
ベアリング232億34百万円213億83百万円△8.0%221億09百万円△3.3%
油圧機器127億44百万円109億17百万円△14.3%110億87百万円△1.5%
カーハイドロリクス42億81百万円50億24百万円+17.4%55億49百万円△9.5%
特殊鋼50億51百万円32億55百万円△35.6%35億28百万円△7.7%
その他5億87百万円1億02百万円△82.6%5億86百万円△82.6%
合計674億93百万円626億77百万円△7.1%617億09百万円+1.6%

(9〜11月の含みと前年9〜11月は筆者の差し引き。合計は製品別の含みの和で、連結の含み626億74百万円とは百万円単位の端数で3百万円ずれます)

この表のポイントは、9〜11月の売上の含みで6〜8月より増えるのは、ロボット(+36.6%)とカーハイドロリクス(+17.4%)だけだということです。前年比で伸びを置いているのは、工具(+4.4%)とロボット(+43.7%)だけ。金額でも伸び率でも、9〜11月の含みを支えているのはロボットです。

ロボットの通期計画314億円は、1月の期初計画から変わっていません。7月の修正で工具・工作機械・ベアリング・油圧機器・特殊鋼の計画は引き上げられ、カーハイドロリクスは引き下げられましたが、ロボットは据え置かれました。第3四半期累計のロボット売上は213億14百万円で、計画の67.9%。計画に届くには、9〜11月に100億円台が必要です。

ロボットの3か月売上を並べると、次のとおりです。

決算期Q1(12〜2月)Q2(3〜5月)Q3(6〜8月)Q4(9〜11月)Q4のQ3比
2023年11月期117億43百万円115億52百万円72億99百万円74億36百万円+1.9%
2024年11月期65億93百万円71億31百万円83億95百万円87億83百万円+4.6%
2025年11月期63億50百万円63億38百万円55億40百万円70億20百万円+26.7%
2026年11月期66億01百万円73億26百万円73億86百万円100億86百万円(含み)+36.6%

この表のポイントは、ロボットの四半期売上が100億円を超えたのは2023年11月期の上半期が最後だということです。2023年の後半に中国向けが落ち込んで以降、ロボットの四半期売上は55〜88億円の範囲で推移してきました。9〜11月に100億円という含みは、2023年11月期Q3以降の13四半期の最高(87億83百万円)を15%上回る水準です。

ただし、計画の達成を判断する材料は、筆者の手元にはありません。ロボットは案件ごとに売上が立つことが多く、受注残が開示されていれば判断できますが、不二越が開示している受注高は全社合計だけで、製品別の受注や受注残は開示されていません。会社が当四半期について説明会を開いていないこともあり(短信の表紙に「決算説明会開催の有無:無」)、ロボットの9〜11月の見通しについて会社の追加説明はありません。

2026年2月の株主総会で、ロボット事業部長だった中村成利氏が社長執行役員に就きました。会社は交代の理由を「ロボット事業を中心とした事業運営を推し進め」るためと説明しています。ロボットの計画は、新しい経営陣にとって最初の通期の答え合わせになります。

用語メモ:「含み」は、通期予想から既に終わった期間の実績を引いた残りです。会社が残り期間の予想を直接開示していなくても、この引き算で「会社がどう置いているか」が分かります。会社は製品別計画を四半期に割っていないので、9〜11月に一気に計上する前提なのか、もともと通期では届かなくてもよいと考えているのかは、開示からは判断できません。

4-4. セグメント別の含み

セグメント6〜8月 営業利益(利益率)9〜11月の含み(利益率)前年9〜11月(利益率)
機械工具16億19百万円(7.5%)22億90百万円(10.4%)17億81百万円(9.4%)
部品22億12百万円(5.5%)16億50百万円(4.4%)12億98百万円(3.4%)
その他8億57百万円(15.2%)△37百万円(△1.1%)77百万円(1.9%)

(筆者の差し引き。セグメント利益の合計と連結営業利益の差は調整額)

この表のポイントは2つです。

1つ目は、機械工具の9〜11月に、6〜8月より高い利益率10.4%が置かれていることです。ロボットの売上の伸びを、そのまま利益に置いている形です。機械工具の9〜11月の営業利益は、2024年・2025年とも年間で最も大きい四半期でした(16億22百万円、17億81百万円)。2年続けてそうだった、という事実は含みを支える材料です。

2つ目は、その他セグメント(特殊鋼など)の9〜11月が赤字の含みになっていることです。その他セグメントの第3四半期累計の営業利益16億37百万円は、通期計画16億円を既に上回っています。特殊鋼の6〜8月の売上50億円は過去15四半期で最も大きく、会社は「国内および中国で特殊鋼が増加」と説明しています。計画を据え置いたので、超過分がそのまま9〜11月のマイナスとして残っている、という計算上の結果です。会社が9〜11月に特殊鋼の赤字を見込んでいるという意味ではありません。


5. 深掘り③:経常利益と純利益の「置き方」

深掘り②で、営業利益の含みは前年比+22.2%なのに、経常利益は△24.8%、純利益は△45.9%と置かれていることを見ました。最後に、その差を分けます。

5-1. 営業外で約14億円のマイナス

期間営業外損益(経常利益−営業利益)
2023年11月期 9〜11月(実績)△2億43百万円
2024年11月期 9〜11月(実績)△2億34百万円
2025年11月期 9〜11月(実績)+84百万円
2026年11月期 6〜8月(実績)+55百万円
2026年11月期 第3四半期累計(実績)△5億84百万円
2026年11月期 9〜11月(会社予想の含み)△14億16百万円

この表のポイントは、9〜11月の含みの営業外損益△14億16百万円が、過去3年の同じ3か月(△2億〜+1億円)とかけ離れていることです。

理由は、会社が予想を据え置いたことにあります。7月の修正では、通期の営業外損益を△20億円(経常133億円−営業153億円)と置いていました。上期の実績が△6億39百万円だったので、下期に△13億61百万円が残ります。6〜8月の実績が+55百万円だったので、その差がそのまま9〜11月に押し込まれました。

これは会社が9〜11月に大きな営業外費用を見込んでいる証拠ではなく、予想を据え置いたことの計算上の結果です。6〜8月は為替差益が出ていて(第3四半期累計の為替差益92百万円)、支払利息も前年より少なくなっています。9〜11月の営業外損益が過去の同じ3か月並み(△2億〜+1億円)に収まれば、それだけで経常利益は会社予想を12〜15億円上回る計算になります(筆者の試算)。

5-2. 純利益予想は「9〜11月に約12億円の特別損失」と整合する

純利益の側は、税金と特別損失の両方が関わります。

第3四半期累計の税負担率は31.0%でした。§2-2の用語メモで書いたとおり、これは会社が見込む通期の税負担率に近い値です。この税率で、純利益予想75億円から必要な税引前利益を割り戻すと、次のようになります。

前提にした税負担率純利益75億円に必要な税引前利益経常利益予想133億円+第3四半期累計の特別損益(△12億50百万円)との差 = 9〜11月に置かれた特別損失
31.0%(第3四半期累計の実績)108億89百万円△11億61百万円
30.5%(法定実効税率)108億13百万円△12億37百万円
36.1%(前期の通期実績)117億61百万円△2億89百万円

(筆者の試算。非支配株主に帰属する利益は第3四半期累計の11百万円を年間に引き延ばした15百万円で置いた)

この表のポイントは、税負担率を今期の実績どおり31%前後と置くと、純利益予想は9〜11月に11〜12億円規模の特別損失が出る前提と整合することです。会社はそうした特別損失を予告していません。

一方で、前期の9〜11月には、構造改革費用18億46百万円を含む特別損失19億79百万円が実際に計上されました(同じ期間に投資有価証券売却益11億95百万円もありました)。不二越は3期続けて工場の再編を進めており、前期の通期決算と同時の開示では、2026年11月期以降に発生する構造改革費用について「現在精査中」と書いていました。軸の弱み②(自前の工場の重さ)が9〜11月に再び費用として出てくる可能性は、前年の実例がある以上、低いとは言えません。

つまり純利益予想75億円は、「特別損失がなければ上振れする余地」と「前年並みの構造改革費用が出れば予想どおり」の、両方の読み方ができる置き方です。どちらの読みでも数字は同じで、違うのは9〜11月に工場の再編費用が出るかどうかだけです。

5-3. 決算書の隅:電子記録債務が96億円減り、借入が119億円増えた

深掘りの最後に、貸借対照表の小さくない変化を1つ挙げます。

科目2025年11月末2026年8月末増減
支払手形及び買掛金154億78百万円168億27百万円+13億49百万円
電子記録債務168億91百万円72億58百万円△96億33百万円
短期借入金57億12百万円169億52百万円+112億40百万円
コマーシャル・ペーパー100億円150億円+50億円
長期借入金(1年内含む)675億円631億42百万円△43億58百万円

この表のポイントは、取引先への支払いに使っていた電子記録債務が約6割減り、ほぼ同じ時期に短期借入金とコマーシャル・ペーパーが計162億円増えたことです。上半期の営業キャッシュ・フローがマイナスになったのも、この支払いの前倒しが主因です。

用語メモ:電子記録債務は、取引先への支払いを電子的な手形のような形で、一定期間後に払う約束をしたものです。これが減って借入が増えたということは、「取引先を待たせていた分を、銀行から借りて先に払った」に近い形です。会社にとっては支払い条件が変わっただけで、利益には直接影響しませんが、支払利息は増える方向に働きます。

会社は、電子記録債務が減った理由を短信で説明していません。2026年1月から下請取引の支払い方法に関する新しい規制が施行されていることとの関係を指摘する見方もありえますが、会社はこれに触れておらず、本記事の推測にとどまります。

財務の余力そのものは残っています。自己資本比率は52.1%で、会社の補足資料が示すネットD/Eレシオは0.33倍、取引銀行との200億円のコミットメントラインは5月末時点で未使用です(半期報告書)。

5-4. 3つの深掘りを1本の線でつなぐ

ここまでの3章をまとめると、次のようになります。

  • 第3四半期までの大幅増益は、道具箱の値段(価格転嫁)と、客の工場の稼働(操業度)の両方から来ている。6〜8月は量の効果が値段の効果を上回り始めた
  • 会社予想は、9〜11月の売上を前年比+1.6%と控えめに置きながら、その中でロボットにだけ大きな伸び(前年比+43.7%)を置いている
  • 経常利益と純利益の予想は、営業外損益と特別損失に保守的な余地を残している。ただし特別損失のほうは、工場の再編という前年の実例がある

軸に戻ると、「道具箱の値段は上げられた。客の工場も動き始めた。会社は最後の3か月で、道具箱の中で一番大きくしたい道具(ロボット)の伸びに賭けている。自前の工場の後始末はまだ続いている」という決算です。


6. セグメントとイベント

6-1. セグメント別の第3四半期累計

セグメント売上高前年同期比営業利益前年同期比営業利益率
機械工具606億04百万円+11.1%38億10百万円+52.5%6.3%
部品1,170億77百万円+7.9%59億50百万円+60.8%5.1%
その他146億43百万円+31.6%16億37百万円+306.2%11.2%

(営業利益の前年同期比は筆者の計算。短信本文の「52.6%増」「305.8%増」は補足資料の表記と同じで、千円単位の内部値で計算されているためとみられます)

機械工具:短信は「中国・国内で工作機械の需要が減少しましたが、国内・米州の工具や米州・アセアンでロボットの需要が増加」と説明しています。工具は前年同期比+16.4%、ロボットは+16.9%、工作機械は△10.9%です。

部品:短信は「欧米・中国を中心とした建設機械向け油圧機器やアセアンの市販向けベアリングの需要が回復」「営業利益は構造改革の効果を取り込み」と書いています。油圧機器が+27.0%と大きく伸び、カーハイドロリクスは△17.9%と落ちています。部品セグメントの営業利益59億50百万円は、期初計画57億70百万円を第3四半期で既に上回っています。

その他:特殊鋼が+34.1%。前述のとおり、営業利益は通期計画を既に超えています。

6-2. 受注

四半期受注高前年同期比売上高受注÷売上
2025年11月期 Q4(9〜11月)618億50百万円+8.4%617億09百万円1.00倍
2026年11月期 Q1(12〜2月)629億01百万円+8.7%602億07百万円1.04倍
2026年11月期 Q2(3〜5月)662億57百万円+14.7%646億24百万円1.03倍
2026年11月期 Q3(6〜8月)695億64百万円+16.5%674億93百万円1.03倍

この表のポイントは、受注の前年比が四半期ごとに加速し、4四半期続けて売上を上回っていることです。第3四半期累計では、受注が売上を63億97百万円上回りました。受注残高は開示されていませんが、この差の分だけ、9〜11月以降に売上になる仕事が積み上がっていると読めます。売上の含みを前年比+1.6%と置いた会社予想に対する、最も分かりやすい反証材料です。

6-3. 地域

第3四半期累計の海外売上高は1,015億62百万円(+14.9%)、国内は907億63百万円(+5.8%)で、海外売上高比率は52.8%(前年同期50.7%)です。地域別では、インド(+35.8%)と米州(+21.0%)が伸びています。中国は+5.2%です。

会社は中間決算説明資料で、米国の営業拠点の拡充と、インドのベアリング工場の拡張(2027年下期の稼働開始予定)を取り組みとして挙げています。

6-4. 有価証券報告書の「減損の兆候」

前期の有価証券報告書の「重要な会計上の見積り」には、次の記載があります(原文)。

収益性の低下による営業損益の悪化又は事業環境の大きな変化により減損の兆候があると判断した事業について、当該事業の資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がその帳簿価額を上回っていることから、減損損失を認識しておりません。

どの事業かは書かれておらず、金額も開示されていません。将来キャッシュ・フローの見積りは「取締役会によって承認された利益計画に基づいて」いると書かれています。今期は業績が回復しているので、前期より見積りの前提は改善しているはずですが、事業名が分からない以上、本記事ではこれ以上踏み込みません。

用語メモ:減損の「兆候あり」とは、会社自身がその事業の資産について「回収できないかもしれない」と考えるきっかけがあったという意味です。兆候があっても、将来の稼ぎの見積りが帳簿価額を上回れば損失は計上しません。見積りの前提が悪化すれば、後から損失が出ることがあります。


7. 資本政策と株主還元

7-1. 配当

配当方針(有価証券報告書の原文):

連結業績、配当性向などを総合的に勘案し、安定的な配当を継続実施することを基本方針としております。

年1回の期末配当が基本で、有価証券報告書では「中間期の業績によっては中間配当を実施する所存」とされていますが、直近5期の中間配当はすべて0円です。

今期の配当:期末110円(7月14日に100円から増配予想)。

権利確定日:2026年11月30日(月)。権利付き最終日は**2026年11月26日(木)**です(基準日の2営業日前)。

配当の推移:

決算期1株配当連結EPS配当性向(連結、筆者計算)配当の決め方
2021年11月期100円418.09円23.9%安定配当
2022年11月期110円513.17円21.4%安定配当(期末に100円から増配)
2023年11月期110円276.92円39.7%安定配当
2024年11月期100円144.10円69.4%安定配当
2025年11月期100円233.48円42.8%安定配当
2026年11月期(予想)110円344.20円32.0%安定配当(7月に100円から増配)

この表のポイントは、EPSが144〜513円と3.6倍の幅で動いたのに、配当は100円と110円の2つの値しか取っていないことです。「安定的な配当」という方針文言どおりの推移です。数式の配当方針(配当性向◯%、DOE◯%)は掲げていないので、下限を計算することはできません。

利益が大きく伸びた年に配当を上げきらず、利益が落ちた年に下げきらない運営なので、配当性向は21%から69%まで動きます。今期予想の32.0%は、この6期の中では低いほうです。

配当総額の再現:今期の配当総額は、発行済株式24,919,343株から、8月末の自己株式3,123,260株(役員向け株式交付信託の分を含む)を引き、信託の分(5月末時点237,500株。会計上は自己株式ですが配当は支払われます)を足し戻した22,033,583株×110円=約24億24百万円です(筆者の計算)。前期の配当総額は、発行済株式から信託分を含まない自己株式2,911,288株を引いた22,008,055株×100円=22億00百万円で、株主総会で決議された総額2,200,805,500円と1円単位で一致しました。

7-2. 自己株式の取得:1年半で6回のToSTNeT-3

不二越は、2024年5月から2025年11月までに、自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による自己株式取得を6回行っています(適時開示の表題と有価証券報告書で確認)。本文を確認できた2025年7月と11月の開示では、取締役会で決議した日の終値で、翌朝8時45分の立会外取引で買い付ける方法がとられ、取得単価がそのまま決議日の終値になっています。

取締役会決議取得日取得株数取得総額取得単価(筆者計算)
2024年5月24日2024年5月27日56,500株1億96百万円3,470円
2024年9月2日2024年9月3日56,500株1億72百万円3,050円
2024年11月6日2024年11月7日429,200株13億78百万円3,210円
2025年2月26日2025年2月27日288,000株9億37百万円3,255円
2025年7月15日2025年7月16日168,000株5億53百万円3,290円
2025年11月11日2025年11月12日558,200株21億94百万円3,930円
合計―1,556,400株54億30百万円―

(取得単価は取得総額÷取得株数。2025年7月15日と11月11日の開示では、買付価格をそれぞれ当日の終値3,290円・3,930円と明記しています)

会社は取得の理由を、2025年7月・11月の開示とも「経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を遂行するため」と書いています。買付けは「取得予定株式数に対当する売付注文をもって」行うとされ、売り手は開示されていません。

この表のポイントは2つです。

1つ目は、1年半で発行済株式の6.25%を自己株式として取得したことです。自己株式は2026年5月末で2,885,600株(信託分を除く)、発行済株式の11.58%になりました。前期の総還元性向(配当総額22億円+自己株式取得36億86百万円)÷純利益52億50百万円は112.1%です。

2つ目は、取得の方法がいずれも、決議の翌朝に1回で終える形だったことです。ToSTNeT-3は、特定の株主がまとまった株数を売りたいときに、会社が市場の外で買い取るときに使われることが多い方法です。市場で少しずつ買う自己株式取得とは違い、株価を直接押し上げる効果は小さく、一方で1株利益を押し上げる効果は同じように残ります。

用語メモ:ToSTNeT-3(自己株式立会外買付取引)は、東証の取引時間外に、前日の終値などで会社が自己株式を買い付ける仕組みです。売り手が誰かは開示されません。

7-3. 大株主の変化と、不二越側の政策保有株式の売却

有価証券報告書の大株主表を、2024年11月末と2025年11月末、半期報告書の2026年5月末で並べます(株数は千株未満切り捨て)。

株主2024年11月末2025年11月末2026年5月末
那智わねい持株会2,686千株2,800千株2,799千株
日本マスタートラスト信託銀行(信託口)1,747千株1,910千株1,823千株
ナチ不二越従業員持株会1,416千株1,330千株1,328千株
ナチ取引店持株会1,019千株998千株1,014千株
日本生命保険793千株793千株793千株
住友生命保険754千株754千株754千株
北陸銀行865千株577千株上位10位外
三菱UFJ銀行617千株上位10位外上位10位外
三井住友信託銀行505千株上位10位外上位10位外
岡谷鋼機上位10位外485千株485千株

(2025年11月末の10位は485千株、2026年5月末の10位も485千株)

この表から読める事実を並べます。

  • 北陸銀行の持株は、2024年11月末から2025年11月末に288千株減りました。この数は、2025年2月27日の自己株式取得288,000株と一致します。ただし、取得の相手先は開示されておらず、一致は事実として示すにとどめます
  • 三菱UFJ銀行と三井住友信託銀行は、2025年11月末に上位10位から外れました(485千株未満になった)
  • 同じ2025年11月期に、不二越は政策保有株式のうち、ほくほくフィナンシャルグループ(北陸銀行の親会社)、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友トラストグループ、フルサト・マルカホールディングスなど上場7銘柄を全株売却し、MS&ADの株式を半分売却しました(有価証券報告書の「株式の保有状況」)。株式数が減った上場9銘柄の売却価額の合計は36億73百万円です

つまり、不二越が相手の株を売り、相手も不二越の株を手放した、という双方向の持ち合い解消が同じ時期に進んでいた、と事実から読めます。不二越の自己株式取得は、その受け皿の一部になっていた可能性があります。ただし、ここまでは筆者の整理で、会社は自己株式取得の相手先も目的も、この関係では説明していません。

なお、大株主の上位には「那智わねい持株会」(12.71%)、従業員持株会(6.03%)、取引店持株会(4.60%)の3つの持株会が並び、合計で23%強を持っています。有価証券報告書には名称と住所が載っているだけで、那智わねい持株会の構成員は確認できませんでした。持株会は毎月の積立で少しずつ株を買い続けるのが一般的なので、構造的な買い手が存在する、という事実だけを書いておきます。

7-4. 残っている政策保有株式:半分以上がトヨタ

銘柄株数貸借対照表計上額(2025年11月末)相手が不二越株を保有
トヨタ自動車4,663,000株146億09百万円なし
本田技研工業1,683,900株26億47百万円なし
岡谷鋼機252,800株20億57百万円あり
日本トムソン2,008,000株14億83百万円あり
日伝499,200株12億79百万円あり
その他19銘柄―48億22百万円―
上場株式合計(24銘柄)―268億97百万円―

(その他19銘柄は合計から上位5銘柄を引いた筆者の差し引き)

この表のポイントは2つです。

1つ目は、上場株式の54.3%をトヨタ1銘柄が占めていることです。自動車向けが売上の約5割を占める会社が、最大の客の1つの株を持っている構図で、自動車産業の景気が悪くなると、本業の利益と持ち株の時価が同じ方向に動きます。

2つ目は、**岡谷鋼機が「客であり株主でもある」**ことです。有価証券報告書の「主要な顧客ごとの情報」によると、岡谷鋼機への売上高は前期303億72百万円で、連結売上高の12.9%。その岡谷鋼機が不二越株を485千株(2.20%)持ち、不二越も岡谷鋼機株を持っています。

第3四半期末の投資有価証券は349億78百万円で、前期末から53億59百万円増えました。その他有価証券評価差額金の増加37億19百万円を税効果前に戻すと(÷(1−30.5%))約53億51百万円で、投資有価証券の増加とほぼ一致します。株を買い増したのではなく、持っている株の値段が上がったということです(筆者の計算)。

7-5. 株式数・潜在株式・その他

  • 潜在株式:なし(有価証券報告書・短信とも「潜在株式が存在しない」)。証券情報サイトのEPS・PERをそのまま使えるタイプです
  • 株式分割・併合:直近5期になし。調整は不要です
  • 株式報酬:取締役向けの株式交付信託があり、2026年2月に制度を継続し、信託に自己株式26,500株を処分しました(処分価格は2026年2月24日の終値5,280円)
  • 買収への対応方針:2026年2月25日の定時株主総会で継続が承認されました。賛成率は67.4%(賛成122,573個、反対58,048個)で、同じ総会の他の議案(87.6〜99.1%)より低い水準です(臨時報告書)。誰が反対したかは開示されていません
  • 株主数:11,461人(2025年11月末)。前年の13,325人から1,864人減りました
  • 株主優待:制度なし。有価証券報告書の「株主に対する特典」欄に「該当事項はありません」と記載されています。会社IRサイトの株主還元ページは本記事では確認していません

8. 株価の見方

8-1. 株価の基準点

時点株価出所
2024年11月末(概算)約3,084円有報の株価収益率21.4倍×EPS144.10円
2025年2月27日3,255円自己株式取得の取得単価(取得総額÷株数)
2025年11月11日3,930円自己株式取得の取得単価(決議日の終値。適時開示に明記)
2025年11月末(概算)約3,969円有報の株価収益率17.0倍×EPS233.48円
2026年2月24日5,280円株式報酬の自己株式処分の価格(臨時報告書)
2026年7月14日終値6,590円(高値6,830円)Yahoo!ファイナンス(報道ベース)
2026年10月5日終値5,780円Yahoo!ファイナンス(報道ベース)

この表のポイントは、株価が2025年11月の自己株式取得の価格(3,930円)から約47%上がったことです。一方、有価証券報告書の株主総利回りは、2025年11月期までの5年で104.4%(配当込みTOPIXは217.2%)でした。この1年の上昇は、それまでの長い出遅れを取り戻している途中、と見ることもできます。

8-2. 決算発表前後の値動き

決算は10月5日の15時30分(取引終了と同時刻)に発表されたので、10月5日の終値5,780円には決算の内容は含まれていません。10月5日の出来高289,400株は、9月の各営業日(3万7,800〜8万0,100株)の3.6〜7.7倍でしたが、これは発表前の取引です。

翌10月6日は、始値6,110円・高値6,140円(いずれも9時09分)で寄り付いたあと、9時18分に5,760円まで下げ、9時41分時点で5,840円(前日比+1.04%)でした。本記事の執筆時点では10月6日の終値は確定していません。

参考までに、7月14日(15時00分に上方修正を発表)は終値6,590円で、その後1週間で7月22日の5,760円まで12.6%下げました。上方修正が出た日の株価が、その後の株価の高値になった、という事実です。

8-3. 指標

10月5日終値5,780円で計算します(筆者の計算)。

指標値計算の前提
予想PER16.8倍会社予想EPS344.20円
PBR0.69倍8月末BPS8,335円(自己資本1,816億78百万円÷自己株式控除後21,796,083株)
予想配当利回り1.90%1株配当110円
時価総額(自己株式控除後)約1,260億円21,796,083株
時価総額(発行済ベース)約1,440億円24,919,343株

信用取引は、10月2日時点で買残249,900株・売残14,700株、信用倍率17.0倍です(Yahoo!ファイナンス、報道ベース)。

8-4. 強気の材料

  • 粗利率が2024年11月期Q1の20.4%から10四半期かけて24.9%まで上がり、15四半期で最高。値上げと構造改革で、同じ売上でも利益が出やすい体質になりつつある
  • 受注が4四半期続けて売上を上回り、6〜8月は前年比+16.5%。会社予想は9〜11月の売上を前年比+1.6%しか置いておらず、量の面では上振れの余地がある
  • 9〜11月の営業外損益の含み(△14億円)は、据え置きによる計算上の数字で、過去3年の同じ3か月(△2億〜+1億円)に比べて保守的
  • 第3四半期時点の会社予想は、2024年・2025年と2年続けて9〜11月に上振れした
  • PBR0.69倍。保有する投資有価証券(約350億円)は、自己株式控除後の時価総額の約28%に当たる
  • 2024年以降、発行済株式の6%強に当たる株式を自己株式として取得し、流通する株式を減らしている。持株会という構造的な買い手もいる

8-5. 弱気の材料

  • 2023年11月期には、第3四半期時点の予想が9〜11月に置いていた営業利益の26%しか達成できなかった。客の工場が止まれば、道具箱の会社の利益は急に消える
  • 9〜11月の含みは、ロボットに前年比+43.7%の伸びを置いている。ロボットの四半期売上が100億円を超えたのは2023年上半期が最後で、受注残も開示されていない
  • 純利益予想は、税負担率31%前後なら9〜11月に11〜12億円の特別損失を置いた形と整合する。前期の9〜11月にも構造改革費用18億円が出ており、工場の再編はまだ終わっていない
  • 電子記録債務の減少で上半期の営業キャッシュ・フローがマイナスになり、借入とCPが119億円増えた。支払利息は増える方向
  • 会社自身の計画でも今期のROEは4.3%、営業利益率は6.0%で、有価証券報告書に掲げた営業利益率10%との距離はまだ大きい
  • 政策保有株式の過半がトヨタ1銘柄で、売上の約5割が自動車向け。自動車産業の不調は、本業と持ち株の両方に響く
  • 7月の上方修正の直後に株価は1週間で12.6%下げた。好決算がそのまま株価の上昇につながるとは限らない
  • 信用倍率17.0倍で、買い残が売り残を大きく上回っている

9. 今後のカレンダーと見るべきKPI

時期イベント確認すること
2026年11月26日(木)期末配当の権利付き最終日予想110円
2026年11月30日(月)2026年11月期末・配当基準日―
2027年1月中旬(例年)通期決算・2027年11月期の会社予想9〜11月の実績、ロボットの通期計画314億円の達成、特別損失の有無、来期の配当予想
2027年2月下旬(例年)有価証券報告書の提出・定時株主総会大株主の変化、政策保有株式の売却、減損の兆候に関する記載
2027年下期インドのベアリング工場の拡張稼働(会社予定)―

通期決算の発表日は、前年が2026年1月14日、前々年が2025年1月14日、その前が2024年1月11日でした。

見るべきKPI

  1. ロボットの9〜11月の売上:会社予想の含みは100億86百万円。2023年11月期Q3以降の最高は87億83百万円
  2. 粗利率:6〜8月の24.9%が9〜11月も維持されるか。値上げの効果が一巡したあと、量で利益が伸びるかの確認
  3. 受注高と売上高の差:4四半期続いた「受注>売上」が続くか
  4. 構造改革費用と減損損失:9〜11月に特別損失が出るか。出た場合、純利益予想は据え置きどおりの着地になる
  5. 電子記録債務と借入金:支払い条件の変化が一巡したか
  6. 自己株式取得と大株主の変化:持ち合い解消の受け皿としての取得が続くか

10. 3行まとめ

  • 不二越は、工場の道具箱を鋼から作って丸ごと売る会社。第3四半期は、値上げと客の工場の稼働回復で、6〜8月の粗利率24.9%・営業利益率6.9%が15四半期で最高になった
  • 据え置かれた通期予想は、9〜11月に「売上は前年並み、伸びはロボットだけ、営業外と特別損失で大きく引く」という形を置いている。受注の伸びから見れば控えめ、2023年の急落から見れば妥当、の両方の読み方ができる
  • 1年半で6回のToSTNeT-3による自己株式取得と、不二越自身の政策保有株式の売却が並行して進んだ。配当は方針どおり100円と110円の間で動き、今期予想は110円

本記事は、決算短信等の公開情報をもとに、生成AIを執筆補助として用いて作成しています。論点の選定・構成の判断、および記載した数値と一次情報との照合は筆者が行っています。

本記事は投資勧誘や投資助言を目的としたものではありません。数値の出典は、株式会社不二越の決算短信(2023年11月期〜2026年11月期第3四半期)、決算短信補足資料、業績予想の修正・差異に関するお知らせ、特別損失及び特別利益の計上に関するお知らせ、代表取締役および役員の異動に関するお知らせ、2026年11月期中間決算説明資料、有価証券報告書(第142期・第143期)、半期報告書(第144期)、臨時報告書(2026年2月25日・27日提出)です。株価・信用残高はYahoo!ファイナンスの表示(報道ベース)で、2026年10月6日の値は9時41分時点の取引途中のもので終値ではありません。四半期の数値、9〜11月の含み、数量・率・販管費の分解、税負担率による逆算、配当総額の再現、自己株式の取得単価、各種指標は筆者の計算です。当第3四半期については決算説明会が開催されておらず、会社の追加説明・質疑応答は反映していません。本文中の会社の説明は、短信・補足資料のほか、2026年7月22日付の中間決算説明資料に基づきます。会社IRサイトの「2025年度決算と経営のとり組み」(2026年1月23日)は文字情報を読み取れず、内容を反映していません。電子記録債務の減少と規制の関係、為替前提が売上の含みに与える影響、自己株式取得と大株主の売却の関係に関する記述は筆者の推測・整理であり、会社の開示に基づくものではありません。自己株式取得の相手先は開示されておらず、筆者は特定していません。「売上割引」の表示の変更理由は確認できていません。株主優待の不在は有価証券報告書の記載により確認しており、会社IRサイトの株主還元ページは確認していません。有価証券報告書の「減損の兆候」がどの事業を指すかは開示されておらず、筆者は特定していません。

記載内容の正確性・完全性には注意を払っていますが、誤りや情報の陳腐化が含まれる可能性があり、これを保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。投資の最終判断は、必ずご自身で一次情報(会社IRサイト・EDINET等)をご確認のうえ、自己責任で行ってください。

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