本記事は2026年9月30日時点の公開情報に基づく個人の分析メモです。執筆には生成AIを利用していますが、数値は筆者が一次情報と照合しています。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
1. この記事でわかること
- 売上は増えているのに営業利益が2割減る予想になっている理由と、その「減益」がどこで起きているのか
- 主力の求人メディア「Green」で、広告宣伝費が売上の6割を超えてしまった構造(四半期ごとに差し引いて確認します)
- 組織力向上プラットフォーム「Wevox」の売上が急に伸びた中身を、「契約社数」と「1社あたり単価」に割った結果
- 2026年9月30日付で役職員が新株予約権を放棄し、特別利益373百万円が計上される見込みであること。その意味と、残る潜在株式
- 会社予想の1株当たり利益(55.28円)と、証券情報サイトの表示(53.34円)が違う理由
- 1年で3回引き上げられた配当、2回打ち出された自己株式取得、減資、そして新設・拡充された株主優待をまとめて整理したもの
- 株主総会の議決権基準日と配当基準日が9月末から10月末へ動いたこと。権利付き最終日がいつになるのか
2. 前提知識:人の気持ちを数字にして売る会社
アトラエ(6194、東証プライム)は、一言でいえば 「人の気持ちを数字にして売る会社。そして、自分の会社の気持ちの数字も外に出している会社」 です。
もう少し具体的な情景に落とします。転職しようかな、という気持ちを持った人をインターネット広告で集め、求人企業とマッチングさせ、入社が決まったときにだけ企業に請求する。これが成功報酬型求人メディア「Green」です。入社したあとは、その会社の従業員に毎月アンケートを配り、ひとり月額600円で「いまの職場をどう感じているか」を点数にして返す。これが組織力向上プラットフォーム「Wevox」です。
採用の前と後、どちらも従来は「人事部長の勘」や「上司が飲みに連れて行って聞き出すこと」に任されていた領域です。アトラエはそれを、データとアンケートの点数に置き換えて売っています。
そして特徴的なのは、この会社が 自社の数字も開示している ことです。決算説明資料には、自社の離職率(2023年9月期6.5%→2024年9月期6.4%→2025年9月期6.4%)と、自社の期中平均エンゲージメントスコア(89→89→87)、全社員参加の組織に関するディスカッション時間(毎年48時間)が載っています。自分たちの組織そのものが商品のショーケースになっている会社です。
この「軸」は、記事の後半で強みの説明にも弱みの説明にも使います。
用語メモ:成功報酬型求人メディア 求人広告を掲載してもらった時点ではなく、その求人経由で採用が決まった時点で費用が発生する課金モデルです。企業側は無駄打ちが少ない一方、メディア側は求職者を集める広告費を先に払い、売上は後から立ちます。アトラエの場合、「入社人数」が売上に直結する最重要KPIになります。
用語メモ:エンゲージメント 組織に対する自発的な貢献意欲や、主体的に仕事に取り組んでいる心理状態を数値化した指標です。有価証券報告書でもこの定義で説明されています。離職率や生産性との関係が注目され、人的資本開示の広がりとともに導入企業が増えています。
事業の構成(2026年9月期 第3四半期累計)
| 事業 | 売上高(千円) | 前年同期比 | 全体に占める比率 |
|---|---|---|---|
| Green(成功報酬型求人メディア) | 3,069,670 | △8.7% | 51.1% |
| Wevox(組織力向上プラットフォーム) | 2,908,877 | +29.9% | 48.4% |
| その他(Yenta等・開示のない区分) | 30,556(筆者の差し引き) | △27.4%(筆者の概算) | 0.5% |
| 合計(短信開示) | 6,009,103 | +6.5% | 100.0% |
この表のポイントは2つです。1つは、GreenとWevoxの売上がすでにほぼ並んだこと。もう1つは、「その他」が全体の0.5%しかなく、事実上この会社は2つの事業でできているということです。なお「その他」は会社が個別に開示していないため、合計から2事業を差し引いた筆者の計算値です。
会計上は「People Tech事業」の単一セグメントであり、セグメント情報の注記はありません。2024年9月期までは連結決算でしたが、プロバスケットボールクラブを運営する株式会社アルティーリの株式を一部譲渡したことで連結子会社がなくなり、2025年9月期からは非連結(単体)の決算になっています。したがって、2024年9月期以前の連結数値と、2025年9月期以降の単体数値は、そのまま比較できません。
直近5期の業績推移(有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」より、提出会社ベース)
| 期 | 第18期 2021/9 | 第19期 2022/9 | 第20期 2023/9 | 第21期 2024/9 | 第22期 2025/9 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 4,464,611 | 6,336,793 | 7,299,491 | 7,641,907 | 7,634,032 |
| 経常利益(千円) | 1,061,789 | 1,107,442 | 850,717 | 1,646,110 | 1,812,734 |
| 当期純利益(千円) | 706,296 | 702,029 | 267,017 | 704,660 | 1,171,609 |
| 1株当たり当期純利益(円) | 26.44 | 26.14 | 10.06 | 27.95 | 49.34 |
| 1株当たり配当額(円) | - | - | - | 21.00 | 31.00 |
| 発行済株式総数(株) | 26,779,200 | 26,961,200 | 27,021,200 | 24,047,141 | 22,827,141 |
| 1株当たり純資産(円) | 190.50 | 214.72 | 199.48 | 194.28 | 190.61 |
| 自己資本比率(%) | 79.4 | 77.9 | 73.1 | 64.6 | 60.3 |
| 自己資本利益率 ROE(%) | 14.9 | 12.9 | 4.9 | 14.4 | 26.0 |
| 株価収益率 PER(倍) | 90.20 | 62.13 | 104.37 | 30.41 | 15.63 |
| 従業員数(人) | 70 | 86 | 91 | 109 | 124 |
| 株主総利回り(%) | 155.1 | 105.6 | 68.3 | 56.7 | 53.5 |
| (比較指標:配当込みTOPIX、%) | 127.5 | 118.4 | 153.7 | 179.2 | 217.8 |
| 最高株価(円) | 3,560 | 2,710 | 1,759 | 1,125 | 950 |
| 最低株価(円) | 1,760 | 1,308 | 702 | 410 | 557 |
この表は、この記事の前提としていちばん重要だと個人的には考えています。読み方は3つあります。
第一に、売上は5年で1.7倍になっているのに、株価は下がり続けています。株主総利回りは第18期を100としたときの水準で、直近は53.5%です。同じ期間に配当込みTOPIXは217.8%になっています。5年で見て、この会社の株を持っていた人の資産はおよそ半分になり、市場平均を持っていた人はおよそ2倍になった ということです。最高株価も3,560円→2,710円→1,759円→1,125円→950円と、5期連続で切り下がっています。
第二に、純資産と1株当たり純資産が減り続けています。利益は出ているのに純資産が減るのは、自己株式の取得と消却を大量に行っているためです。発行済株式総数は5期で26,779,200株から22,827,141株へ、約15%減っています。
第三に、ROEが第20期の4.9%から第22期の26.0%へ跳ね上がっています。これは利益が増えたことに加えて、分母である自己資本を自社株買いで削ってきた結果でもあります。
中期の目標として会社が掲げている数字
中期経営計画という体裁の文書は公表されていませんが、2026年7月31日開示の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について(アップデート)」で、次の数字が示されています。
- 売上高成長率のターゲットは、2027年9月期以降 前年比+30%以上
- 2027年9月期は「営業利益成長による増益局面」と位置づけ
- ROE/ROICの目標水準は 20%以上(2025年9月期実績 ROE 26.0% / ROIC 25.7%、2026年9月期見込みは両方とも20%以上)
- 比較として、プライム市場の全産業平均ROE 9.27%、非製造業平均ROE 11.41%を上回る水準と記載
今期(2026年9月期)の会社予想売上高8,250百万円から、翌期に+30%を達成するなら10,725百万円が必要になります。今期の売上が前期比+8.1%の見込みであることを考えると、この+30%はかなり大きな段差です。どこからその増分が出てくるのかは、記事の後半(Wevoxの単価とSMBC Wevox経由の販売)で扱います。
3. 2026年9月期 第3四半期の決算ハイライト(2026年8月12日発表)
損益
| 項目 | 2026年9月期3Q累計 | 2025年9月期3Q累計 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高(千円) | 6,009,103 | 5,643,563 | +6.5% |
| 売上原価(千円) | 234,831 | 145,399 | +61.5% |
| 売上総利益(千円) | 5,774,272 | 5,498,164 | +5.0% |
| 販売費及び一般管理費(千円) | 4,673,691 | 4,158,197 | +12.4% |
| 株式報酬控除前営業利益(百万円) | 1,318 | 1,582 | △16.7% |
| 営業利益(千円) | 1,100,580 | 1,339,966 | △17.9% |
| 経常利益(千円) | 1,068,736 | 1,330,408 | △19.7% |
| 特別利益(新株予約権戻入益、千円) | 56,465 | 8,819 | - |
| 税引前四半期純利益(千円) | 1,125,201 | 1,339,227 | △16.0% |
| 四半期純利益(千円) | 781,082 | 881,035 | △11.3% |
| 1株当たり四半期純利益(円) | 34.55 | 36.92 | △6.4% |
この表の読み方は3つです。
1つ目。増収なのに減益です。売上が6.5%増えている一方で、販管費が12.4%増えています。会社の説明では「Greenの再成長及びWevoxの認知拡大を目的とする広告宣伝費の増加と社員の給与水準向上による人件費の増加」が理由です。
2つ目。純利益の減り方(△11.3%)が営業利益の減り方(△17.9%)より小さく、1株当たり利益の減り方(△6.4%)はさらに小さくなっています。 純利益が相対的に良く見えるのは特別利益(新株予約権戻入益)56,465千円が乗っているためで、1株当たり利益がさらに良く見えるのは、自社株買いで期中平均株式数が23,864,375株から22,609,817株へ5.3%減っているためです。つまり、「本業の利益は2割近く減っているが、1株当たりで見れば6%の減少で済んでいる」 という構図です。これは資本政策が効いている姿でもあり、同時に本業の減速を見えにくくしている姿でもあります。
3つ目。株式報酬控除前営業利益という独自指標が併記されています。
用語メモ:株式報酬控除前営業利益 会計上の営業利益に、現金の支出を伴わない費用である譲渡制限付株式及びストック・オプションによる株式報酬費用を足し戻した数字です。会社は「恒常的な経営成績を理解するために有用」として、短信の本表に載せています。3Q累計では営業利益1,100百万円に対して株式報酬控除前営業利益が1,318百万円なので、差額の217百万円が株式報酬費用ということになります。現金は出ていきませんが、株式の希薄化という形で株主が負担している費用であり、「現金が出ないから無視してよい費用」ではない点は押さえておきたいところです。
財政状態(2026年6月30日時点)
| 項目 | 2025年9月30日 | 2026年6月30日 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 現金及び預金(千円) | 4,160,593 | 3,813,868 | △346,724 |
| 売掛金(千円) | 677,603 | 786,215 | +108,612 |
| 投資有価証券(千円) | 1,101,394 | 1,230,062 | +128,668 |
| 関係会社株式(千円) | 178,000 | 178,000 | ±0 |
| 総資産(千円) | 7,217,962 | 7,165,365 | △52,596 |
| 契約負債(千円) | 434,186 | 615,962 | +181,775 |
| 有利子負債合計(千円) | 500,000 | 741,620 | +241,620 |
| 純資産(千円) | 5,197,089 | 4,961,334 | △235,755 |
| うち新株予約権(千円) | 845,963 | 913,436 | +67,473 |
| 自己資本(千円) | 4,351,988 | 4,047,896 | △304,092 |
| 自己資本比率 | 60.3% | 56.5% | △3.8pt |
ここで注目したい点は3つあります。
第一に、契約負債が181,775千円増えています。 契約負債は、先に代金を受け取っていてまだサービスを提供していない部分です。Wevoxのような月額課金・年間契約のサービスが増えるほど積み上がります。すでに受け取ったお金が翌期以降の売上になって出ていくので、契約負債の増加はWevoxの拡大とセットで読める数字です。
第二に、有利子負債が増えています。 前期末は短期借入金500,000千円だけでしたが、3Q末は短期借入金500,000千円に加えて1年内返済予定の長期借入金100,080千円と長期借入金141,540千円が乗っています。ただし現金及び預金が3,813,868千円あるので、差し引きの手元資金は約30.7億円のネットキャッシュです。財務が苦しいという話ではありません。借入については資本政策の章で改めて触れます。
第三に、純資産のうち913,436千円が「新株予約権」です。 自己資本(4,047,896千円)とは別枠で、これは社員・役員に付与したストック・オプションの累積計上額です。純資産5,000百万円弱の会社で900百万円強を占めており、この会社の資本構成を考えるうえで無視できない大きさになっています。この913百万円のうち373百万円が今期に利益へ振り替わる見込みであることは、第8章で詳しく扱います。
なお、第1四半期・第3四半期はキャッシュ・フロー計算書が作成されていません。短信の注記によれば、3Q累計の減価償却費(無形固定資産に係る償却費を含む)は23,688千円(前年同期25,552千円)です。前期通期の営業キャッシュ・フローは1,868,794千円、投資△457,324千円、財務△1,613,090千円でした。
通期予想は4回動いています
今期の通期業績予想は、期初から数えて3回修正されています。表にすると次のようになります(単位:百万円、1株当たり当期純利益は円)。
| 開示日 | 売上高 | 株式報酬控除前営業利益 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 1株当たり当期純利益 | 年間配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025年11月13日(期初) | 8,600 | 1,472 | 1,100 | 1,053 | 756 | 33.12 | 33円 |
| 2026年6月10日 | 8,600 | 1,586 | 1,300 | 1,243 | 908 | 40.69 | 34円 |
| 2026年7月31日 | 8,250 | 1,686 | 1,400 | 1,336 | 966 | 43.29 | 37円 |
| 2026年8月12日(3Q短信) | 8,250 | 1,686 | 1,400 | 1,336 | 966 | 44.28 | 37円 |
| 2026年9月10日(最新) | 8,250 | 1,746 | 1,460 | 1,389 | 1,206 | 55.28 | 39円 |
| (参考)2025年9月期実績 | 7,634 | 2,173 | 1,853 | 1,812 | 1,171 | 49.34 | 31円 |
この表からは、素直に読むと見誤りやすい点が3つ出てきます。
(1)売上は下方修正、利益は上方修正が同時に起きています。 7月31日の修正では、売上高を8,600百万円から8,250百万円へ350百万円(△4.1%)下げる一方、営業利益を1,300百万円から1,400百万円へ100百万円(+7.7%)上げています。会社の説明は「Greenはプロダクト改善による成果が想定ほど得られず売上高を下方修正」「収益性の高いSMBC Wevox経由の案件受注が想定を上回り、営業利益を上方修正」です。売上の質が入れ替わったことを示す修正であり、単に「上方修正が出た」と読むと中身を取り違えます。
(2)期初に置いた通期営業利益1,100百万円は、第3四半期までですでに到達しています。 3Q累計の営業利益が1,100,580千円ですから、期初予想に対する進捗率はちょうど100.0%です。期初予想がいかに低く置かれていたかを示しています。
(3)当期純利益だけが前期を上回る予想になっています。 最新予想を前期実績と並べると、売上高+8.1%、株式報酬控除前営業利益△19.7%、営業利益△21.2%、経常利益△23.3%、それなのに当期純利益は+3.0%、1株当たり当期純利益は+12.0%です。営業段階で2割減っているものが最終段階で増益に転じるのは、特別利益373百万円(新株予約権戻入益)が入るためと、自己株式の取得・消却で分母が減るためです。「最終増益」という言葉だけを見て本業が伸びていると読むのは誤りです。
会社が公表している費用の内訳
アトラエは、通期の営業費用の内訳を金額で開示している、めずらしいタイプの会社です。期初(2025年11月13日の決算短信)と、6月10日・7月31日の修正時点、そして3Q累計の実績を並べます(単位:百万円)。
| 項目 | 2025/9期実績 | 期初計画 | 6/10修正 | 7/31修正 | 3Q累計実績 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7,634 | 8,600 | 8,600 | 8,250 | 6,009 |
| Green | 4,425 | 4,430 | 4,430 | 4,086 | 3,069 |
| Wevox | 3,154 | 4,125 | 4,125 | 4,125 | 2,908 |
| その他 | 55 | 45 | 45 | 39 | 32 |
| 営業費用 | 5,781 | 7,500 | 7,300 | 6,850 | 4,909 |
| 売上原価 | 253 | 73 | 263 | 275 | 234 |
| Green広告 | 2,284 | 2,580 | 2,802 | 2,600 | 1,920 |
| Wevox広告 | 436 | 762 | 817 | 605 | 389 |
| 人件費(株式報酬を含む) | 1,406 | 1,984 | 1,665 | 1,650 | 1,173 |
| (うち株式報酬費用) | (320) | (372) | (286) | (286) | (217) |
| その他 | 1,402 | 2,101 | 1,753 | 1,720 | 1,193 |
| 営業利益 | 1,853 | 1,100 | 1,300 | 1,400 | 1,100 |
各列の内訳合計が営業費用と一致することは筆者が確認しています(期初7,500、6/10 7,300、7/31 6,850、3Q累計4,909で、いずれも一致します)。
この表を並べて初めて見えてくるのは、期初計画と6月10日修正のあいだで、費用の中身がかなり大きく組み替えられている ということです。売上高の予想は8,600百万円のまま変わっていないのに、売上原価は73百万円から263百万円へ190百万円増え、人件費は1,984百万円から1,665百万円へ319百万円減り、その他は2,101百万円から1,753百万円へ348百万円減っています。会社はこの組み替えの理由を個別には説明しておらず、「戦略的投資を順調に実行しつつも、効率的な投資により費用を当初想定よりも抑制できました」という説明にとどまります。期初の費用計画は、費目単位で見るとかなり粗い置き方だったと読むこともできますし、期中に実際の資源配分を変えたと読むこともできます。どちらなのかは、今回の開示だけでは判断できません。
そして、この表でいちばん目を引くのは Green広告の絶対額 です。2025年9月期の実績で2,284百万円、今期の計画で2,600百万円。Greenの売上(今期計画4,086百万円)に対して63.6%にあたります。次の章では、これを四半期に割って見ていきます。
4. 【深掘り】広告費を引いたあとのGreenとWevox
ここがこの決算でいちばんわかりにくく、いちばん大事な論点だと個人的には考えています。
アトラエは累計でしか損益を開示しない会社ですが、決算説明資料の参考資料に「四半期別業績推移」という表があり、2024年9月期から2026年9月期第3四半期までの11四半期分が、事業別売上と費目別営業費用まで分けて載っています。ここではそれを使います。
用語メモ:なぜ四半期に割る必要があるのか 決算短信の数字は「累計」です。第3四半期決算短信に載っている売上6,009百万円は、10月から6月までの9か月の合計です。そのままでは「直近の3か月でどうだったか」がわかりません。累計から前四半期までの累計を引けば単独四半期が出ます。会社が四半期別の表を出している場合はそれを使い、出していない場合は自分で引き算します。この作業をすると、累計では見えない「特定の四半期だけ利益が消えている」といった事実が出てきます。なお四半期に割った数字と通期の開示値が一致するかは必ず確認すべきで、本記事でも各四半期の費用内訳合計が営業利益と一致することを確認しています。
単独四半期の推移(会社資料より、単位:百万円)
| 項目 | FY25 1Q | FY25 2Q | FY25 3Q | FY25 4Q | FY26 1Q | FY26 2Q | FY26 3Q |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,742 | 1,822 | 2,079 | 1,991 | 1,758 | 2,063 | 2,188 |
| Green | 1,026 | 1,090 | 1,245 | 1,064 | 958 | 1,023 | 1,088 |
| Wevox | 701 | 718 | 820 | 915 | 789 | 1,029 | 1,090 |
| その他 | 15 | 14 | 14 | 12 | 11 | 11 | 10 |
| 売上原価 | 21 | 20 | 104 | 108 | 14 | 165 | 55 |
| Green広告 | 557 | 562 | 548 | 617 | 598 | 653 | 669 |
| Wevox広告 | 68 | 176 | 93 | 99 | 166 | 149 | 74 |
| 人件費 | 358 | 371 | 337 | 340 | 403 | 343 | 427 |
| (うち株式報酬費用) | (85) | (81) | (76) | (78) | (77) | (72) | (68) |
| その他費用 | 371 | 374 | 344 | 313 | 407 | 355 | 431 |
| 営業利益 | 367 | 319 | 653 | 514 | 170 | 398 | 532 |
| 営業利益率 | 21.1% | 17.5% | 31.4% | 25.8% | 9.7% | 19.3% | 24.3% |
検算をしておきます。2025年9月期の4四半期を合計すると、売上高7,634百万円、営業利益1,853百万円となり、通期の開示値と一致します。Greenは4,425百万円、Wevoxは3,154百万円で、こちらも通期開示値と一致します。2026年9月期の3四半期の合計は売上6,009百万円、営業利益1,100百万円で、短信の累計値と一致します。各四半期の費用内訳の合計も、すべて開示されている営業利益と一致します。
Green:広告費を引くと何が残るのか
成功報酬型求人メディアは、求職者を集める広告費を先に払い、入社が決まったときに売上が立ちます。ですから 「Greenの売上からGreen広告を引いた残り」 が、この事業がどれだけ稼いでいるかの目安になります。これは会計上の利益ではなく、筆者が四半期表から計算した参考値です。
| 四半期 | Green売上 | Green広告 | 広告/売上 | 売上−広告 |
|---|---|---|---|---|
| FY25 1Q | 1,026 | 557 | 54.3% | 469 |
| FY25 2Q | 1,090 | 562 | 51.6% | 528 |
| FY25 3Q | 1,245 | 548 | 44.0% | 697 |
| FY25 4Q | 1,064 | 617 | 58.0% | 447 |
| FY26 1Q | 958 | 598 | 62.4% | 360 |
| FY26 2Q | 1,023 | 653 | 63.8% | 370 |
| FY26 3Q | 1,088 | 669 | 61.5% | 419 |
読み取れることは明快です。広告費を売上で割った比率が、44%〜58%のレンジから、62%前後のレンジへ一段上がったまま戻っていません。 そして「売上−広告」は、前年同期の697百万円から419百万円へ、40%減っています。
同じ3か月を3通りの言い方で表現できます。Greenの売上は「前四半期比では+6.4%」、「前年同期比では△12.6%」、「広告費を引いた後では前年同期比△39.9%」です。会社が説明資料の見出しに掲げているのは1つ目と2つ目で、3つ目は会社の言葉としては出てきません。
なお、この「売上−広告」には人件費もサーバー費用も含まれていません。事業単位の正確な利益ではなく、広告というアクセルをどれだけ踏んだら、どれだけ売上が返ってきたか を見るための比率だと理解してください。
Wevox:広告費を引くと何が残るのか
同じ計算をWevoxに対して行います。
| 四半期 | Wevox売上 | Wevox広告 | 広告/売上 | 売上−広告 |
|---|---|---|---|---|
| FY25 1Q | 701 | 68 | 9.7% | 633 |
| FY25 2Q | 718 | 176 | 24.5% | 542 |
| FY25 3Q | 820 | 93 | 11.3% | 727 |
| FY25 4Q | 915 | 99 | 10.8% | 816 |
| FY26 1Q | 789 | 166 | 21.0% | 623 |
| FY26 2Q | 1,029 | 149 | 14.5% | 880 |
| FY26 3Q | 1,090 | 74 | 6.8% | 1,016 |
こちらは正反対の絵になります。直近四半期のWevoxは、売上の6.8%しか広告を使っていません。そして「売上−広告」は1,016百万円で、同じ四半期のGreenの419百万円の2.4倍です。
売上高ではGreen 1,088百万円 対 Wevox 1,090百万円でほぼ並んでいますが、広告費を引いた後では2.4倍の差がついています。 この会社の稼ぎ頭は、すでにWevoxだと言ってよい状態です。
冒頭に置いた軸に戻ります。「人の気持ちを数字にして売る会社」のうち、**転職したいという気持ちを広告で買いに行くGreenは、買値が上がり続けています。**一方、**すでに入社した人の気持ちを毎月測るWevoxは、広告をほとんど打たずに売れています。**自社がフラットな自律分散型組織で、自社のエンゲージメントスコアを開示しているという「使用例」そのものが、Wevoxの営業材料になっているとも読めます。
5. Wevoxはなぜ急に伸びたのか──社数と単価に割る
前章で、Wevoxが広告を打たずに伸びていることを確認しました。では、その伸びはどこから来ているのでしょうか。ストック型のサービスを読むときの基本は、「契約社数」と「1社あたり単価」に割る ことです。
会社は決算説明資料でWevoxの導入社数を開示しています(10社単位に丸めた数字です)。
| 四半期 | 導入社数 | Wevox売上(百万円) | 1社あたり月額(筆者の概算) |
|---|---|---|---|
| FY25 1Q | 3,670 | 701 | 約63,700円 |
| FY25 2Q | 3,810 | 718 | 約62,800円 |
| FY25 3Q | 3,950 | 820 | 約69,200円 |
| FY25 4Q | 4,100 | 915 | 約74,400円 |
| FY26 1Q | 4,200 | 789 | 約62,600円 |
| FY26 2Q | 4,300 | 1,029 | 約79,800円 |
| FY26 3Q | 4,450 | 1,090 | 約81,600円 |
1社あたり月額は、四半期売上を3で割り、さらに期末導入社数で割った筆者の概算です。導入社数が10社単位に丸められているため、誤差を含みます。
この数字を使って、直近四半期の前年同期比+270百万円(820→1,090百万円)を分解します。
- 数量効果=(4,450社−3,950社)×前年の1社あたり四半期売上(約207.6千円)= 約104百万円
- 単価効果=4,450社×(当期の1社あたり四半期売上−前年の1社あたり四半期売上)= 約166百万円
- 合計=約270百万円(実際の増加額270百万円と一致)
伸びの約62%は単価によるもので、社数によるものは約38%です。 導入社数は前年同期比+12.7%しか増えていません。売上が+32.9%伸びたのは、1社あたりの単価が約18%上がったためです。
単価が上がった理由は、料金プランの一本化にあります
決算説明資料に、料金プランの刷新が明記されています。
- スタンダードプラン(600円/月)が新機能追加により「チームサクセスプラン」(600円/月)へ進化
- ベーシックプラン(300円/月)の提供を終了し、有料プランを一本化
- 2025年11月1日以降の新規契約からチームサクセスプランを提供開始
- 既存顧客は2026年3月末までの移行期間を経た後、2026年4月1日より原則としてチームサクセスプランへ一本化
- チームサクセスプランは月額9万円から利用可能(150名まで)。150名未満の利用の場合でも月額9万円が発生。151名以降は1名あたり月額600円で追加利用が可能
時系列が、売上の動きときれいに一致します。
| 時期 | できごと | Wevox売上の前年同期比 |
|---|---|---|
| FY26 1Q(2025年10〜12月) | 11月1日から新規契約のみ新プラン | +12.6% |
| FY26 2Q(2026年1〜3月) | 既存顧客の移行期間 | +43.3% |
| FY26 3Q(2026年4〜6月) | 4月1日から原則一本化完了 | +32.9% |
つまり、今期のWevoxの伸びのかなりの部分は、値上げ(正確には下位プランの廃止による単価の押し上げ)です。 これは持続するタイプの伸びなのか、一度きりの段差なのかを考える必要があります。段差である以上、一本化が一巡した2027年9月期の2Q以降は、前年同期比の伸び率が落ち着く可能性があります。会社が掲げる「2027年9月期以降 前年比+30%超」の目標を、単価の段差なしで達成できるかどうかが論点になります。
ここで1つ、説明のつかない数字があります
会社の料金表によれば、チームサクセスプランの下限は 月額9万円 です。ところが、直近四半期のWevox売上を導入社数で割った1社あたり月額は 約81,600円 で、下限を下回ります。2026年4月1日に原則一本化が完了しているはずの四半期での話です。
考えられる説明はいくつかあります。「導入社数」に無償利用や試験導入の企業が含まれている、移行が完了していない契約が残っている、大口顧客向けの個別料金がある、四半期の途中で契約が始まった社が期末社数に含まれている、などです。会社はこの点を開示していないため、ここから先は筆者の推測になります。 導入社数と売上が同じ資料に並んでいる以上、読者が割り算をすれば必ず出てくる差なので、次回以降の決算説明会や会社IRへの確認事項として挙げておきたいところです。
用語メモ:ストック型サービスで見るべき4つの数字 一般に、月額課金型のサービスは「契約社数」「1社あたり単価(ARPU)」「年間経常収益(ARR)」「解約率(チャーンレート)」の4つで骨格を作ります。アトラエは導入社数と売上高、そして「月次チャーンレート1.0%未満」を開示しています。月次1.0%は年換算でおよそ11%強の解約に相当し、SaaSとしては良好な水準と一般に言われます。ARRとARPUは開示されていないため、本記事では売上と社数から筆者が逆算しています。
6. Greenに何が起きているのか──会社自身のKPI評価
Greenの側に戻ります。決算説明資料には、Greenの主要KPIについて 会社自身が○△×で状況を整理した表 が載っています。これは開示としてはかなり率直な部類です。
| KPI | 会社の評価 |
|---|---|
| アクティブユーザー数 | △ |
| 応募人数・応募率 | △ |
| 書類選考通過率 | △ |
| 累計登録企業数 | ○ |
| 期末掲載求人数 | △ |
| 入社人数 | × |
売上に直結する最終KPIである「入社人数」に、会社自身が×を付けています。
実際の数字を並べます。
| 期間 | 入社人数 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| FY26 1Q累計 | 728人 | △8.4% |
| FY26 2Q累計 | 1,499人 | △8.3% |
| FY26 3Q累計 | 2,328人 | △10.1% |
| (参考)FY25通期 | 3,368人 | △15.7% |
| FY26 3Q単独 | 829人 | △13.2% |
2期連続で二桁近い減少が続いており、しかも減少幅は縮まらずに拡大しています。ファネルの上流を見ると、アクティブユーザー数は前年同期比+1.9%、応募人数は前年同期比+8.8%で、応募率は過去最高水準とされています。つまり 入り口の人数は増えているのに、入社まで到達する人数が減っている ということです。中間の「書類選考通過率」は3Qで20.7%に着地し、この数年で見ると低下傾向にあります。
会社の説明は「プロダクト改善に加え、Wevox・Greenのセールス・CS組織の統合による活用促進を通じて書類選考通過率の向上を図る」というものです。求職者の数ではなく、求人企業側が書類選考で通す率 がボトルネックになっているという診断です。
ここで、軸に戻ります。Greenは「この人とこの会社は合うか」という人事の見立てを、データとサイトに置き換えたサービスです。応募は増えているのに通過しないということは、置き換えたはずの「見立て」の精度が、いまの採用市場では足りていない と読むこともできます。会社はこれに対して、広告費をさらに積むこと(3Q単独で669百万円、売上の61.5%)と、AIキャリアエージェント「Qooa」という新サービスを投入することで応えようとしています。
Greenの市場ポジションについて、会社は次の数字を示しています。
| 区分 | 人材紹介市場規模 | Green換算市場規模 | Greenの占有率 |
|---|---|---|---|
| 全業種 | 4,490億円(前年4,110億円) | 2,690億円(前年2,460億円) | 1.3%(前年1.2%) |
| IT業界 | 1,340億円(前年1,230億円) | 800億円(前年730億円) | 4.5%(前年3.9%) |
占有率はまだ低く、伸びしろがあるという整理です。ただし、その占有率を上げるための手段がいまのところ広告費の積み増しであり、その広告費が売上の6割を超えているという事実は、同じ表と並べて読むべきだと個人的には考えています。
なお、上記の3Q単独の入社人数829人は、説明資料のグラフから筆者が読み取った値ですが、短信の累計値(3Q累計2,328人−中間累計1,499人=829人)と一致することを確認しています。
7. SMBC Wevoxという合弁会社と、新会社MICOTH
今期の利益上振れの主因として、会社は繰り返し 「収益性の高いSMBC Wevox株式会社経由の案件獲得」 を挙げています。6月10日、7月31日、9月10日の3回の修正開示すべてに、この表現が出てきます。では、SMBC Wevox株式会社とは何なのでしょうか。
有価証券報告書の「関係会社の状況」に記載があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | SMBC Wevox株式会社 |
| 所在地 | 東京都港区 |
| 資本金 | 50,000千円 |
| 主要な事業の内容 | 企業の組織力や企業価値向上支援 |
| アトラエの議決権所有割合 | 直接45%(関連会社) |
| 関係内容 | 業務受託取引 |
| 設立 | 2024年7月(株式会社三井住友フィナンシャルグループとの合弁会社) |
ここが重要です。SMBC Wevoxはアトラエの子会社ではありません。 アトラエの出資比率は45%で、過半数は三井住友フィナンシャルグループ側が持っています。アトラエの決算には、この会社の売上も費用も連結されません(そもそもアトラエは非連結決算です)。アトラエの業績に乗ってくるのは、SMBC Wevoxとの「業務受託取引」を通じた売上です。
会社の説明資料によれば、SMBC Wevoxを通じた展開の中身は次のとおりです。
- SMBCグループの全従業員 約10万人によるWevoxの利用
- SMBCグループの役職員がユーザーとしての体験を基に、全国5万社のクライアントにアプローチ
- 東名阪100以上の営業所によるアウトバウンドセールスを展開
- 既存の販路は「主にインバウンドによる流入のみ」だったと明記
つまり、これまで待ちの営業しかしてこなかった会社が、メガバンクの営業網という「攻めの販路」を手に入れた という構図です。今期の利益上振れの説明としては極めて納得感があります。
同時に、これは弱気材料にもなります。この会社の成長のいちばん太い導線を、自社では過半数を持っていない合弁会社が担っている からです。合弁契約の条件や期間、収益配分は開示されていません。有価証券報告書の「重要な契約等」も「該当事項はありません」となっており、合弁契約が重要な契約として記載されているわけでもありません。SMBC側の方針が変わったときに何が起きるのかは、現状の開示では読み取れません。この点は、強気・弱気の両方に置いておくべき事実だと考えます。
新設子会社「株式会社MICOTH」
2026年8月12日の取締役会で、子会社の設立が決議されています。3Q短信の後発事象に記載があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 株式会社MICOTH(ミコス) |
| 所在地 | 東京都港区麻布十番一丁目10番10号(アトラエ本社と同じ) |
| 代表者 | 代表取締役CEO 森山 雄貴 |
| 資本金 | 2,500千円(予定) |
| 設立年月日 | 2026年11月(予定) |
| 出資比率 | アトラエ51% / 設立する子会社の取締役4名 合計49% |
設立の目的は、「日本の労働人口の過半を占める工場等の現場領域へ『Wevox』の対象市場を拡張し、新たな成長ドライバーとして事業拡大を図る」ことです。
この出資構成は特徴的です。アトラエが51%、新会社の取締役4名が合計49%を持ちます。資本金が2,500千円と極小であるため金額的な重要性はありませんが、アトラエは2025年9月期から非連結決算になっていたところに、再び連結子会社を持つことになります。 2026年11月設立予定ですから、影響が出るのは2027年9月期からです。翌期の決算では連結財務諸表が作成される可能性があり、その場合は今期までの単体数値との比較可能性がまた一段落ちます。この点は翌期の決算を読むときの注意点として挙げておきます。
新サービス「Qooa」
説明資料では、Greenに加えて 「Qooa」(AIキャリアエージェント) が People Tech Services の一角として紹介されています。「Green×Qooaで、人と企業の最適かつ理想のマッチング体験を生み出し、マーケットシェア獲得を目指す」とされています。現時点で売上や導入実績の開示はなく、損益上の位置づけはまだ確認できません。Greenの入社人数が減り続けているなかで投入される新しい打ち手であり、次の通期決算での説明が注目点になります。
8. 資本政策と株主還元
この会社は、今期に限っても資本政策のイベントが異常な密度で並んでいます。時系列で整理します。
| 日付 | できごと |
|---|---|
| 2025年11月13日 | 通期決算発表。期末配当を31円→33円予想へ。資本金及び資本準備金の額の減少を決議(総会付議) |
| 2025年11月13日 | 定款の一部変更(議決権基準日・配当基準日を9月末→10月末へ)を決議 |
| 2025年11月17日 | 定款変更に関する補足説明資料を開示 |
| 2025年12月19日 | 第22期定時株主総会で減資・定款変更を承認 |
| 2026年1月14日 | 第13回新株予約権(従業員120名・465,000株)と譲渡制限付株式(取締役2名180,000株・従業員18名8,200株)の発行を決議 |
| 2026年1月30日 | 減資の効力発生。資本金896,793千円・資本準備金1,257,793千円をその他資本剰余金へ振替 |
| 2026年2月2日 | 譲渡制限付株式188,200株(1株700円)の発行完了。第13回新株予約権の行使価額が685円に確定 |
| 2026年2月10日 | 自己株式の取得(上限700,000株・630百万円)と消却を決議 |
| 2026年3月10日 | 自己株式700,000株の取得完了(総額500,757,700円) |
| 2026年3月31日 | 自己株式700,000株を消却。発行済株式総数22,315,341株へ |
| 2026年4月28日 | 代表取締役CEO新居佳英氏が保有株1,250,000株を自身の資産管理会社へ譲渡(1株656円) |
| 2026年5月14日 | 株主優待制度の新設を発表 |
| 2026年6月10日 | 通期業績予想を上方修正、配当予想を33円→34円へ |
| 2026年7月10日 | 株主優待制度の変更(拡充)を発表 |
| 2026年7月31日 | 通期業績予想を修正(減収・増益)、配当予想を34円→37円へ。資本コスト経営のアップデートを開示 |
| 2026年8月12日 | 3Q決算発表。自己株式の取得(上限500,000株・500百万円)と消却を決議。子会社MICOTH設立を決議 |
| 2026年9月1日 | 自己株式の取得状況を開示(8月13日〜8月31日の取得実績 0株・0円) |
| 2026年9月10日 | 通期業績予想を上方修正、配当予想を37円→39円へ。新株予約権戻入益373百万円の計上見込みを開示 |
| 2026年9月28日 | 「期末配当・株主優待・定時株主総会における議決権の基準日に関する補足説明資料」を開示。権利付き最終日を10月28日(水)と明示 |
| 2026年9月30日 | 2026年9月期の期末。第8回・第9回新株予約権458,300株が消滅(予定) |
以下、論点ごとに見ていきます。
8-1. 配当は1年で3回上がりました
| 時点 | 1株当たり年間配当 | 会社が示した配当性向 |
|---|---|---|
| 2025年11月13日(期初予想) | 33円 | 99.6% |
| 2026年6月10日 | 34円 | 83.6% |
| 2026年7月31日 | 37円 | 85.5% |
| 2026年9月10日 | 39円 | 70.6% |
| (参考)2025年9月期実績 | 31円 | 62.8% |
| (参考)2024年9月期実績 | 21円 | 75.1% |
配当性向が上下しているのは、分子(配当)と分母(1株当たり当期純利益)の両方が動いているためです。期初の99.6%という数字は、利益予想がいちばん低かった時点で、配当をほぼ利益と同額まで出すと宣言していた ことを意味します。その後、利益予想が上がるたびに配当も上げたので、結果として配当性向は70.6%まで下がりました。
配当方針そのものは、有価証券報告書に次のように書かれています。
新規事業の早期展開、事業拡大、事業効率化のための投資を行いながら、各期の経営成績及び財政状態等を総合的に勘案した上で、配当を継続的に実施していくことを基本方針としております。
配当性向やDOEの数値目標は設定されていません。年1回(期末配当)が基本方針で、中間配当を行うことができる旨は定款に定められているものの、実施実績はありません。剰余金の配当は会社法第459条第1項に基づき取締役会決議で決定できる体制です。
あわせて、7月31日の資料には 「来期FY2027においても37円以上とし、積極的な株主還元を継続」 と明記されています。配当方針に数値目標がない会社が、翌期の下限を具体的な金額でコミットしているのは注目すべき点です。今期は39円まで上がりましたが、来期の下限として示されているのは37円である点には注意が必要です。
初めて配当を出したのは2024年9月期(21円)です。会社の資料には「FY2026は37円(2024年5月公表の初配予想15円から22円増配)」とあり、2年余りで配当が2.5倍になった計算になります。
配当金総額の実額も見ておきます。2024年9月期504百万円、2025年9月期707百万円。今期は39円×発行済株式数22,315,341株=約870百万円ですが、予定どおり自己株式500,000株を取得すれば21,815,341株となり、約851百万円になります。
ここで1つ、細かいけれど押さえておきたい点があります。会社は7月31日の資料では配当金総額を「37円×22,315,341株=825百万円」と計算し、8月12日の資料では「807百万円」としています。同じ37円なのに総額が18百万円減っているのは、8月12日に決議した自己株式取得500,000株を分母から引いたためです。同じ配当単価でも、どの時点の株数を使うかで総額が変わります。
8-2. 自己株式の取得──枠は出したものの、8月末時点で1株も買っていません
自己株式取得の履歴を並べます。
| 決議日 | 取得枠 | 実際の取得 | 平均取得単価(筆者の計算) | 消却 |
|---|---|---|---|---|
| 2023年5月 | - | 999百万円 | - | 実施 |
| 2024年2月 | - | 486百万円 | - | 実施 |
| 2024年8月 | - | 815百万円 | - | 実施 |
| 2025年2月12日 | 600,000株/600百万円 | 600,000株/459,556,600円 | 765.93円 | 実施 |
| 2025年8月12日 | 800,000株/800百万円 | 800,000株/645,744,000円 | 807.18円 | 実施 |
| 2026年2月10日 | 700,000株/630百万円 | 700,000株/500,757,700円 | 715.37円 | 2026年3月31日に消却 |
| 2026年8月12日 | 500,000株/500百万円 | 8月31日時点で0株・0円 | - | 2026年11月30日に消却予定 |
過去3回はいずれも 株数の上限に到達して終了 しており、金額の上限には届いていません。2025年2月の枠は金額ベースで23.40%が未消化、2025年8月の枠は19.28%が未消化のまま終わっています。株価が想定より安かったため、同じ株数をより少ない金額で買えたということです。
ところが直近の枠については、取得期間が2026年8月13日から10月30日であるにもかかわらず、8月31日時点(約定ベース)の取得実績が0株・0円 です。過去3回はいずれも決議の翌営業日から取得を開始し、2025年2月の枠は約3週間、2026年2月の枠も約1か月で株数上限に到達していました。今回だけ約19日間、1株も買っていないのは、それ自体が事実として記録に値します。理由は開示されていません。9月に入ってから取得を始めた可能性もありますし、株価が当時の年初来高値圏(8月12日に926円)にあったことが関係している可能性もありますが、いずれも筆者の推測の域を出ません。9月分の取得状況は、本記事の更新時点(2026年9月30日)ではまだ開示されていません。10月上旬の開示が最初の確認ポイントになります。
取得のペースが間に合うかどうかも確認しておきます。仮に9月中も1株も取得していなかった場合、10月1日から取得期間最終日の10月30日までの営業日は21日で、500,000株を取り切るには1日あたり約23,800株が必要です。9月の1日平均出来高は約228,000株(Yahoo!ファイナンスの時系列から筆者が計算)で、その約10%にあたります。市場での自己株式取得には、1日の買付数量を直近の平均売買高の25%以内に抑える目安があり、この水準であれば出来高の面から取り切れないペースではありません。なお、株価950円(9月30日終値)で500,000株を買うと約475百万円で、金額上限(500百万円)より株数上限が先に効きます。
ここで重要なのは、会社の通期予想の1株当たり当期純利益55.28円は、この500,000株の取得と消却が実行される前提で計算されている ということです。1,206百万円÷55.28円=21,815,341株となり、これは現在の発行済株式数22,315,341株から500,000株を引いた数と一致します。買わなければ、分母は減りません。
8-3. 1株当たり当期純利益の「分母」問題
この会社の1株当たり当期純利益は、どの株数で割るかによって大きく変わります。純利益予想1,206百万円を、いくつかの分母で割ってみます。
| 分母の取り方 | 株数 | 1株当たり利益 |
|---|---|---|
| 会社予想の前提(自己株式取得・消却後) | 21,815,341株 | 55.28円 |
| 現在の発行済株式数 | 22,315,341株 | 54.04円 |
| 3Q累計の期中平均株式数 | 22,609,817株 | 53.34円 |
| 前期の期中平均株式数 | 23,744,910株 | 50.79円 |
会計上、実績として計上される1株当たり当期純利益は 期中平均株式数 で計算されます。前期(2025年9月期)の実績EPS 49.34円も、期中平均株式数23,744,910株で計算されたものです。一方、会社が業績予想で示すEPSは、期末近くの想定株数で計算されています。期初予想の33.12円は756百万円÷22,826,087株で、これは前期末の発行済株式数に近い数字です。
したがって、今期の実績として最終的に開示される1株当たり当期純利益は、会社予想の55.28円より低く出る公算が大きい と考えられます。筆者が簡便に計算すると、仮に第4四半期に自己株式を1株も取得しなかった場合、通期の期中平均株式数は約22,536,000株となり、EPSは約53.5円です。500,000株を8月13日から均等に取得した場合でも約53.6円で、大きくは変わりません。これは筆者の概算であり、会社の開示に基づくものではありません。
実際、証券情報サイトの表示は会社予想と食い違っています。2026年9月30日時点のYahoo!ファイナンスでは、会社予想EPSが 53.34円、PERが17.81倍と表示されています。53.34円は1,206百万円÷22,609,817株(3Q累計の期中平均株式数)です。同じ純利益予想を、会社は21,815,341株で、情報サイトは22,609,817株で割っています。 どちらが間違っているという話ではなく、分母の定義が違うだけです。PERで言えば17.19倍と17.81倍の差になります(株価950円・9月30日終値)。
もう1点、細かい食い違いがあります。9月10日の修正開示の「前回発表予想(A)」欄には、1株当たり当期純利益43.29円と記載されています。しかし8月12日の第3四半期決算短信に載っている同じ通期予想のEPSは44.28円です。43.29円は7月31日時点(自己株式取得の決議前)の株数で計算した値、44.28円は8月12日の決議を織り込んだ値です。9月10日の修正開示は、7月31日時点の数字を「前回発表予想」として並べています。 その結果、43.29円→55.28円で+27.7%の増加に見えますが、8月12日の短信の44.28円と比べれば+24.8%で、これは当期純利益の増加率(966→1,206百万円、+24.8%)とぴったり一致します。修正開示でEPSの増減率が「―」と表示されているのは、この分母の違いによるものと読めます。
8-4. 新株予約権の放棄と、特別利益373百万円
今期の最終利益を押し上げるいちばん大きな要因が、これです。
2026年9月10日、会社は「2026年9月期通期業績予想の修正、配当予想の修正(増配)及び特別利益(新株予約権戻入益)の計上に関するお知らせ」を開示しました。内容は次のとおりです。
過去に付与した新株予約権の一部につきまして、行使価額と現在の株価との乖離が大きく、将来において権利行使が現実的には期待しにくい状況となっております。今般、将来の株式希薄化懸念を払拭し、適正な株価形成を通じた企業価値向上を図る観点から、対象となる新株予約権を保有する当社の役職員等より、2026年9月30日をもって保有する新株予約権を権利放棄することに関する申し出を受領した
消滅する新株予約権の内訳です。
| 回次 | 決議日 | 行使価額(1株) | 残存 | 消滅 | 消滅後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第8回 | 2021年1月15日 | 1,402円 | 1,549個(309,800株) | 1,489個(297,800株) | 60個(12,000株) |
| 第9回 | 2022年1月14日 | 2,038円 | 1,677個(167,700株) | 1,605個(160,500株) | 72個(7,200株) |
合計458,300株分が2026年9月30日付で消滅し、純資産の部に計上していた新株予約権を取り崩して 新株予約権戻入益373百万円 を特別利益に計上する見込みです。
ここで、会社の説明を一次情報と突き合わせてみます。
(1)放棄されたのは、もともと行使される見込みが薄かった分です。 第8回の行使価額は1株1,402円、第9回は2,038円です。2026年9月30日の終値950円に対して、それぞれ1.48倍、2.15倍の水準です。会社が言うとおり「権利行使が現実的には期待しにくい」のは事実ですが、逆に言えば、これらは株価が上がらない限り希薄化を起こさない新株予約権でした。 「将来の株式希薄化懸念を払拭」という説明は、経済的な実態としては控えめに読むのが妥当だと個人的には考えます。
(2)放棄されなかった新株予約権のほうが大きく、しかも行使価額が株価を下回っています。 有価証券報告書のストック・オプション注記と、その後の発行開示を合わせると、現在の残高は次のようになります。
| 回次 | 対象株式数 | 行使価額(1株) | 株価950円との関係 | 権利行使期間 |
|---|---|---|---|---|
| 第8回(放棄後) | 12,000株 | 1,402円 | 株価を上回る | 2023年2月2日〜2030年2月1日 |
| 第9回(放棄後) | 7,200株 | 2,038円 | 株価を上回る | 2024年1月16日〜2032年1月14日 |
| 第10回 | 295,000株 | 1,272円 | 株価を上回る | 2025年2月1日〜2033年1月13日 |
| 第11回 | 654,400株 | 694円 | 株価を下回る | 2026年2月1日〜2034年1月12日 |
| 第12回 | 600,000株 | 724円 | 株価を下回る | 2027年2月1日〜2035年1月12日 |
| 第13回 | 465,000株 | 685円 | 株価を下回る | 2028年2月1日〜2036年1月14日 |
| 合計 | 2,033,600株 | - | - | - |
放棄前の潜在株式は2,491,900株で、発行済株式数22,315,341株に対して11.17%でした。放棄後は2,033,600株、9.11%になります。希薄化率は11.2%から9.1%へ2.1ポイント下がるだけです。 そして、残る2,033,600株のうち 1,719,400株(発行済の7.71%)は、現在の株価で行使価額を下回っており、経済的には行使される可能性が高い部分 です。第11回はすでに2026年2月1日から行使可能になっています。
(3)373百万円という金額の意味です。 458,300株分の新株予約権の帳簿価額が373百万円ですから、1株あたり約814円です。これは付与時点の公正な評価単価(ブラック・ショールズ等で算定した理論価格)の累計であり、現在の価値ではありません。会計上は「費用として計上済みだったものが、権利が消滅したので利益に戻る」という処理です。 現金は1円も入ってきません。
用語メモ:新株予約権戻入益 ストック・オプションを付与すると、その公正な評価額が付与時から権利確定日までの期間にわたって費用(株式報酬費用)として計上され、同額が純資産の部の「新株予約権」に積み上がります。権利が行使されずに失効すると、この積み上げた新株予約権を取り崩し、「新株予約権戻入益」として利益に振り替えます。過去に計上した費用を取り消す会計処理であり、現金の動きはありません。アトラエの場合、前期(2025年9月期)にも8,819千円、今期3Q累計でも56,465千円の戻入益が発生しています。
(4)純利益の増え方が、特別利益の大きさに対して小さく見えます。 ここは筆者が逆算した部分なので、丁寧に書きます。
7月31日予想では、経常利益1,336百万円、当期純利益966百万円でした。3Q累計ですでに計上されている特別利益56百万円を加えると税引前は約1,392百万円となり、税負担率は30.6%になります。これは3Q累計の実績税負担率(344,119千円÷1,125,201千円=30.6%)と一致します。
9月10日予想では、経常利益1,389百万円に特別利益(56+373=429百万円)を加えて税引前は約1,818百万円。当期純利益1,206百万円との差は612百万円で、税負担率は33.7%になります。
差分だけを見ると、税引前が426百万円増えたのに対し、当期純利益は240百万円しか増えていません。差分に対する税負担率は43.7% となり、法定実効税率(会社がROIC算定で用いている30.62%)を大きく上回ります。仮に30.6%を当てはめれば当期純利益は約1,262百万円になるはずで、会社予想の1,206百万円とは56百万円の差が出ます。
会社の開示は「特別利益(新株予約権戻入益)373百万円を計上する見込みとなったこと等から、前回発表予想を上回る見通しとなった」という書き方で、「等」の中身は説明されていません。税務上の取り扱いの違いなのか、他に見込まれている費用があるのか、あるいは単に保守的に置いているのか。ここは筆者の逆算であり、会社の開示に基づくものではありません。 通期決算で税金費用の実額が出たときに検証できる論点として挙げておきます。
8-5. 減資は「資本政策の柔軟性」と「分配可能額の充実」のため
2025年11月13日に決議され、2026年1月30日に効力が発生した減資の内容です。
| 項目 | 減少前 | 減少額 | 減少後 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 1,396,793千円 | 896,793千円 | 500,000千円 |
| 資本準備金 | 1,382,793千円 | 1,257,793千円 | 125,000千円 |
減少額の全額をその他資本剰余金に振り替えたもので、発行済株式総数は変わらず、純資産の総額も変わりません。 会社が挙げた目的は「資本政策の柔軟性及び機動性の向上並びに分配可能額の充実」です。
これは、ここまで見てきた株主還元の強化と一体で読むべき開示です。配当や自己株式取得の原資となる分配可能額を厚くしておけば、利益水準にかかわらず還元を続けやすくなります。総還元性向が100%を大きく超える状態(後述)を続けるには、この手当てが必要だったと読めます。
なお、減資後の資本金は500,000千円です。実際には2026年2月2日の譲渡制限付株式発行で65,870千円増えたため、3Q末の資本金は565,870千円となっています。資本金1億円以下ではないため、中小企業向けの税制上の扱いが変わるといった話ではありません。
8-6. 総還元性向と、借入による自己株式取得
会社が7月31日および8月12日に開示した還元指標です。
| 項目 | FY2023 | FY2024 | FY2025 | FY2026(会社の7月31日時点見込み) |
|---|---|---|---|---|
| 配当金総額 | - | 504百万円(21円) | 707百万円(31円) | 825百万円(37円) |
| 配当性向 | - | 72.2% | 62.8% | 85.5% |
| 自己株式の取得及び消却 | 999百万円 | 1,301百万円 | 1,104百万円 | 500百万円(その後1,001百万円へ) |
| 総還元性向 | 298.9% | 246.4% | 154.7% | 137.3%(8月12日時点では187.2%) |
| 株主優待制度 | - | - | - | 新設+拡充 |
会社は比較として「プライム市場の全産業平均の配当性向38.0%」(日本取引所グループ「決算短信集計結果」2025年度)を併記しています。
総還元性向とは「(配当金総額+自己株式の取得総額)÷当期純利益」です。4期連続で100%を超えており、直近でも150%前後です。 稼いだ利益より多くを株主に返している状態が続いているということで、その原資は過去の内部留保と手元資金です。前提知識の表で見たとおり、純資産が5期連続で減っているのは、この還元の結果です。
9月10日の増配(39円)と純利益の上方修正(1,206百万円)を反映して筆者が計算し直すと、配当851百万円(21,815,341株ベース)+自己株式1,001百万円=1,852百万円を当期純利益1,206百万円で割って 総還元性向は約153.5% となります。会社が8月12日に示した187.2%より低く見えますが、これは還元が減ったからではなく、利益予想が上がったために分母が大きくなったから です。
そしてもう1点、8月12日の資料に記載された次の一文は、この会社の資本政策の方向を示す重要な情報です。
上限5億円・上限50万株(発行済の2.2%)の自己株式の取得・消却を決議/自己株式取得資金と同額の最大5億円の借入を実行予定
手元に約38億円の現金がありながら、自己株式取得の資金として借入を実行する方針です。7月31日の資本政策資料には「Debtの有効活用により、成長資金を確保しつつ最適な資本構成を追求し、資本コストの低減とROE/ROICの持続的な向上を目指す」とあります。無借金に近かった会社が、意図的に負債を入れて資本構成を組み替えている段階だと読めます。3Q末に長期借入金が計上されていたのも、この流れの一部と考えられます。
強気に読めば、資本コストを意識した合理的な財務運営です。弱気に読めば、本業の営業利益が2割減る見通しの年に、借金をして自社株を買い、配当を3回上げている という姿でもあります。どちらの読み方も同じ事実から出てきます。
8-7. 議決権基準日と配当基準日が、9月末から10月末に動きました
この会社を見るうえで、見落としやすく、しかも実務的に効いてくる変更です。
決算期は9月のままですが、2025年12月19日の定時株主総会で定款が変更され、株主総会の議決権基準日および期末配当の基準日が9月30日から10月31日へ変更されました。
2025年11月17日に開示された補足説明資料に、理由がはっきり書かれています。
この定款変更の目的は、株主の皆様が、総会の前に、意思決定に有用な情報が豊富に含まれる有価証券報告書を十分に確認・検討できる時間を確保する事です。……2026年9月期以降は、有報の総会前の早期開示を更に推し進め、総会の3週間以上前に有報の提出を行いたいと考えております。
金融庁が設置する「有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会」でも、議決権基準日の後倒しによる総会開催日の後倒しが選択肢として提案されており、それに沿った対応です。アトラエは今後、定時株主総会を毎年1月に開催する方針 としています。
株主から見ると、次の3つが変わります。
- 配当を受け取るための基準日が、9月30日ではなく 10月31日 になりました
- 株主総会の議決権基準日も 10月31日 になりました
- 株主優待の基準日も 10月31日 です(後述)
- 定時株主総会は、2026年12月ではなく 2027年1月 に開催される見込みです
そして、いちばん実務的に重要なのが権利付き最終日です。
用語メモ:権利付き最終日 配当や株主優待、議決権を受け取るには、基準日の時点で株主名簿に名前が載っている必要があります。日本の株式の受渡しは約定日を含めて3営業日目(T+2)に行われるため、基準日の 2営業日前 までに買っておく必要があります。この日を「権利付き最終日」、その翌営業日を「権利落ち日」と呼びます。
2026年10月31日は土曜日です。したがって株主名簿は直前の営業日である10月30日(金)時点で確定します。そこから2営業日さかのぼると、権利付き最終日は2026年10月28日(水)、権利落ち日は10月29日(木) となります。
この日程は、会社が2026年9月28日に開示した「2026年9月期の期末配当・株主優待・定時株主総会における議決権の基準日に関する補足説明資料」でも明示されています(基準日10月31日(土)、権利付き最終日10月28日(水)、権利落ち日10月29日(木))。同資料には「2026年9月末時点では、2026年9月期の期末配当、株主優待及び第23期定時株主総会における議決権は確定いたしません」「権利落ち日(2026年10月29日)より前に当社株式を売却された場合、これらの権利を受領できなくなります」とあり、会社自身が9月決算の一般的な日程との取り違えに注意を促しています。
なお、無配だった時期が長い会社ですが、現在は配当・優待・議決権のすべてがこの1日に集約されています。中間配当は定款上は可能ですが、実施実績はありません。
8-8. 株主構成と、CEOの株式譲渡
2025年9月30日時点の大株主です(有価証券報告書より)。
| 株主名 | 所有株式数 | 発行済株式(自己株式を除く)に対する割合 |
|---|---|---|
| 合同会社ラウレア | 6,840,000株 | 29.96% |
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 2,006,700株 | 8.79% |
| 新居 佳英 | 1,587,200株 | 6.95% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 537,100株 | 2.35% |
| 鎌田 和彦 | 430,200株 | 1.88% |
| 鈴木 秀和 | 357,000株 | 1.56% |
| THE BANK OF NEW YORK MELLON 140040 | 302,400株 | 1.32% |
| MORGAN STANLEY & CO. LLC | 270,340株 | 1.18% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 510598 | 234,500株 | 1.02% |
| BNP PARIBAS NEW YORK BRANCH | 231,500株 | 1.01% |
合同会社ラウレアは、代表取締役CEOである新居佳英氏が代表社員であり、実質的な支配権を有する資産管理会社です。ラウレアと新居氏個人の合計は8,427,200株、36.91% になります。
そのうえで、2026年5月7日に「大株主の当社株式譲渡に関するお知らせ」が開示されています。新居氏が保有株のうち 1,250,000株(発行済株式総数の5.60%)を、1株656円(2026年4月23日終値)で、市場外取引によりラウレアへ譲渡 したというものです。受渡日は2026年4月28日。会社は「市場を介さない直接取引であるため、市場における当社株式の需給及び市場価格への直接的な影響は生じておりません」「ラウレアは安定株主として長期保有する予定」としています。
これは 売却ではなく、個人から自身の資産管理会社への移管 です。実質的な保有比率は変わりません。ただし、事実として記録しておくべき点が2つあります。1つは、この取引によって創業者個人の直接保有分が1,587,200株から337,200株へ減り、資産管理会社への集約が進んだこと。もう1つは、譲渡価格656円が、開示された一次情報としての株価の記録になっている ことです。
所有者別状況(2025年9月30日、有価証券報告書)は、金融機関12.18%、金融商品取引業者3.12%、その他の法人30.40%、外国法人等13.14%、個人その他41.15%、株主数5,929名(単元ベース)です。説明資料によれば、FY2025通期からFY2026 2Qにかけて海外投資家比率が1.6ポイント上昇しています。
8-9. 政策保有株式は論点になる規模ではありません
有価証券報告書の「株式の保有状況」によれば、政策保有株式(純投資目的以外)は非上場株式4銘柄119,791千円、上場株式1銘柄(株式会社ユカリア)116,064千円の計235,855千円です。純投資目的の投資株式は「該当する株式はありません」とされています。
貸借対照表の投資有価証券は3Q末で1,230,062千円あり、政策保有株式との差額の大半は投資事業組合等への出資と見られます。損益計算書には「投資事業組合運用損」が営業外費用として計上されており(前期45,662千円、今期3Q累計31,259千円)、この運用損益が経常利益を押し下げる要因になっています。営業利益1,100,580千円に対して経常利益が1,068,736千円と小さくなっているのは、支払利息7,108千円とこの投資事業組合運用損31,259千円が主因です。
会社の保有方針は「政策保有の上場株式を保有しないことを基本方針」としており、規模から見ても、この会社の投資判断において政策保有株式は論点になりません。
9. 株主優待──新設からわずか2か月で大幅拡充されました
この会社には、2026年5月まで株主優待制度がありませんでした。2026年5月14日に新設が発表され、その2か月後の7月10日に内容が拡充されています。制度の開始は2026年10月末日の株主名簿基準です。
制度の概要
- 運営:株式会社ウィルズが提供する「デジタル優待倶楽部」
- 1ポイント=1円相当として、Amazonギフトカード(電子マネー)、商品、サービス等と交換可能
- 基準日:毎年10月末日
- 進呈時期:毎年12月(予定)
- 対象:500株(5単元)以上を保有する株主
- ポイントの翌年度への繰越は不可
ポイント表(2026年7月10日の拡充後/変更前との比較)
| 保有株式数 | 変更後ポイント | 変更前ポイント | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 500株〜699株 | 10,000ポイント | 3,000ポイント(500〜599株)/5,000ポイント(600〜699株) | 約2〜3倍 |
| 700株〜999株 | 20,000ポイント | 8,000ポイント | 2.5倍 |
| 1,000株〜1,499株 | 30,000ポイント | 12,000ポイント | 2.5倍 |
| 1,500株〜1,999株 | 48,000ポイント | 25,000ポイント | 1.92倍 |
| 2,000株以上 | 65,000ポイント | 30,000ポイント | 2.17倍 |
新設から2か月での拡充は異例です。会社が挙げた理由は「株主の皆様の日頃のご支援に一層感謝するとともに、当社株式への投資魅力をさらに高め、より多くの株主の皆様に中長期的に当社株式を保有いただくこと」です。背景の説明はそれ以上ありませんが、株主総利回りが5年で53.5%まで下がっていること、そして流通する株式の約4割を個人株主が持っていることを踏まえると、個人株主の維持・拡大を強く意識した施策だと読むのが自然だと個人的には考えます。
名目の利回りを計算してみます
2026年9月30日の終値950円を使い、配当39円(会社予想)と合わせて計算します。これはあくまで 名目の利回り であり、実際の価値は交換先によって変わります。
| 保有株数 | 投資金額 | 優待ポイント | 名目優待利回り | 年間配当 | 配当利回り | 合計利回り | 1株当たり優待 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 500株 | 475,000円 | 10,000pt | 2.11% | 19,500円 | 4.11% | 6.21% | 20.0円 |
| 600株 | 570,000円 | 10,000pt | 1.75% | 23,400円 | 4.11% | 5.86% | 16.7円 |
| 700株 | 665,000円 | 20,000pt | 3.01% | 27,300円 | 4.11% | 7.11% | 28.6円 |
| 800株 | 760,000円 | 20,000pt | 2.63% | 31,200円 | 4.11% | 6.74% | 25.0円 |
| 900株 | 855,000円 | 20,000pt | 2.34% | 35,100円 | 4.11% | 6.44% | 22.2円 |
| 1,000株 | 950,000円 | 30,000pt | 3.16% | 39,000円 | 4.11% | 7.26% | 30.0円 |
| 1,500株 | 1,425,000円 | 48,000pt | 3.37% | 58,500円 | 4.11% | 7.47% | 32.0円 |
| 2,000株 | 1,900,000円 | 65,000pt | 3.42% | 78,000円 | 4.11% | 7.53% | 32.5円 |
会社も7月31日の資料で同様の表を出しており、そちらは2026年7月24日終値822円で算出した数字(2,000株で総合利回り〜8.5%、500株で〜6.9%)です。株価が上がった分、いまの利回りは会社の表より少し低くなっています。
この表の読み方は3つあります。
第一に、株数の区切りのすぐ上を狙うほど効率が良くなります。 500株、700株、1,000株、1,500株、2,000株が区切りの起点です。600株、800株、900株で持つと、1株当たりの優待価値が下がります。600株で持つと名目優待利回りは1.75%まで下がり、500株の2.11%を下回ります。100株多く買うことで利回りが下がる区間が存在します。
第二に、この優待は保有株数が増えるほど1株当たりの価値が上がる、やや珍しい設計です。 多くの企業の優待は、上位区分にいくほど1株当たりの価値が下がります。アトラエの場合、500株で1株あたり20.0円、2,000株で32.5円と、上位区分のほうが有利です。配当39円と比べると、2,000株保有時の優待は配当の83%に相当する規模になります。「より多くの株主に中長期的に保有いただく」という目的から見ると、株数を増やす方向へのインセンティブが明確に設計されていると読めます。
第三に、名目と実質のギャップです。 ポイントはAmazonギフトカードに1ポイント=1円で交換できるため、換金性はかなり高い部類です。ただし、翌年度への繰越はできないこと、交換手続きが必要なこと、そして税務上の扱い(一時所得等)が配当と異なることは、名目利回りには反映されていません。
継続保有条件と、初回取得の実質的な締切
ここがいちばん重要な注意点です。
- 初年度(2026年)のみ、継続保有期間の制限はありません。 2026年10月末日の株主名簿に500株以上保有する株主として記載されていれば対象です
- 2027年以降は、「前年10月末日(起算日)」「当年4月末日」「当年10月末日」の株主名簿に、同一株主番号で連続3回以上記載され、かつ500株以上を継続保有していること が条件になります
つまり、2027年12月の優待を受け取るためには、2026年10月末日の株主名簿に500株以上で載っている必要があります。 権利付き最終日は前述のとおり2026年10月28日(水)です。
この日を逃した場合にどうなるかを具体的に考えます。たとえば2027年3月に500株を買って保有し続けた場合、2027年4月末日と2027年10月末日には名簿に載りますが、起算日である2026年10月末日には載っていないため、2027年12月の優待は受け取れません。次に条件を満たすのは、2027年10月末日を起算日とする判定、すなわち 2028年12月の進呈 になります。
2026年10月28日は、2026年分の優待を受け取る最終日であると同時に、2027年分の優待の判定起算日でもあります。 この構造は開示資料を読まないと気づきにくいため、強調しておきます。
もう1点、会社が太字で注意喚起している事項があります。証券会社の貸株サービスを利用していると株主番号が変わり、優待の対象外になります。 名義変更や相続で株主番号が変わった場合も同様です。高い配当利回りの銘柄は貸株に回されやすいので、優待を狙うなら貸株設定を外しておく必要があります。
優待コストはどのくらいになりそうか
会社は優待制度に要する費用の見込みを開示していません。参考までに、筆者が仮定を置いて試算します。以下は筆者の試算であり、会社の開示に基づくものではありません。
有価証券報告書の所有者別状況(2025年9月30日)によれば、個人その他の保有は93,890単元=9,389,000株、株主数は5,777名(個人その他5,735名+外国法人等の個人42名)です。1人あたり平均は約1,625株になります。
| 仮定:対象となる株主数 | 1人あたり平均ポイント | 優待コスト合計 | 配当総額(851百万円)に対する比率 |
|---|---|---|---|
| 2,000名 | 15,000pt | 30百万円 | 3.5% |
| 3,000名 | 15,000pt | 45百万円 | 5.3% |
| 4,000名 | 15,000pt | 60百万円 | 7.1% |
| 4,000名 | 20,000pt | 80百万円 | 9.4% |
1人あたり平均ポイントは、区分ごとの分布が不明なため仮に置いたものです。いずれのケースでも、優待コストは配当総額の1割以内に収まる規模と見られます。利益へのインパクトという観点では大きくありませんが、制度の継続性という観点では、株主数が増えるほどコストが膨らむ設計 であることは押さえておく必要があります。とりわけ、拡充後の利回りの高さから個人株主が大きく増えた場合、この費用は数年かけて重くなっていく可能性があります。
なお、キャッシュ・フロー計算書に「株主優待引当金の増減額」が現れるかどうかは、通期決算で確認できます。制度が始まったばかりなので、引当計上の方法も含めて通期の開示を待つ必要があります。
10. 見え方が誤解を生む数字のまとめ
ここまでに出てきた「素直に読むと取り違えやすい数字」を一覧にします。決算資料を自分で読むときのチェックリストとしても使えると思います。
| 見え方 | 実際 |
|---|---|
| 「最終増益」(当期純利益+3.0%) | 営業利益は△21.2%。差の大半は特別利益373百万円(新株予約権戻入益)と自己株式消却による分母減 |
| 「1株当たり利益は6.4%減にとどまる」(3Q累計) | 純利益は11.3%減。期中平均株式数が5.3%減ったため1株当たりでは軽く見える |
| 「上方修正」(7月31日) | 売上高は△4.1%の下方修正、利益は上方修正。増えたのではなく中身が入れ替わった |
| 会社予想EPS 55.28円 | 自己株式500,000株の取得・消却を前提とした株数で計算。8月末時点で取得実績は0株 |
| 修正開示のEPSが43.29円→55.28円(+27.7%) | 43.29円は7月31日時点の株数ベース。8月12日短信の44.28円と比べれば+24.8%で、純利益の伸びと一致する |
| 証券情報サイトのPER 17.81倍(9月30日) | EPS 53.34円(3Q累計の期中平均株式数ベース)で計算。会社予想EPS 55.28円ならPERは17.19倍 |
| 「Greenの3Q売上は前四半期比+6.4%」 | 前年同期比では△12.6%、広告費を引いた後では前年同期比△39.9% |
| 「Wevoxの3Q売上は前年同期比+32.9%」 | 導入社数は+12.7%。伸びの約62%は下位プラン廃止による単価上昇 |
| 「新株予約権の放棄で希薄化懸念を払拭」 | 消滅するのは行使価額1,402円・2,038円の分。株価950円で行使価額を下回る1,719,400株(発行済の7.71%)はそのまま残る |
| 特別利益373百万円を上積み | 当期純利益の増加は240百万円。差分に対する税負担率は43.7%となり、法定実効税率を上回る(筆者の逆算) |
| 配当金総額825百万円(7月31日)→807百万円(8月12日) | 配当単価は同じ37円。分母の株数から自己株式取得予定分500,000株を引いたため |
| 総還元性向187.2%(8月12日)→153.5%(筆者の再計算) | 還元が減ったのではなく、利益予想が上がって分母が大きくなったため |
| 期初の通期営業利益予想1,100百万円 | 第3四半期までで進捗100.0%。期初予想がいかに低く置かれていたかを示す |
| 自己資本比率60.3%(証券情報サイトの実績値) | 前期末の数字。3Q末は56.5%。なお分子の自己資本には新株予約権913百万円は含まれない |
| 減資で資本金が1,396百万円→500百万円 | 純資産の総額は不変。勘定科目の振替で、目的は分配可能額の充実 |
| 「配当基準日は9月30日」(決算期からの類推) | 2026年9月期から10月31日。権利付き最終日は2026年10月28日(水)。会社も9月28日に補足説明資料で注意喚起 |
| 600株保有時の優待利回り1.88% | 500株(2.25%)より低い。100株多く買うと利回りが下がる区間がある |
| 売上原価が61.5%増 | 金額は234百万円で売上の3.9%。期初計画では73百万円と置かれていたが、6月10日の修正で263百万円に組み替えられている |
11. 株価の見方
株価に関する数値は、この節の冒頭にまとめます
以下の数値は 2026年9月30日の終値950円 を基準にしています。株価は日々変わりますので、必ずご自身で最新値をご確認ください。
| 指標 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 終値 | 950円 | 2026年9月30日(前日比+37円、+4.05%) |
| 時価総額 | 約212億円 | 発行済22,315,341株 |
| 年初来高値 | 952円 | 2026年9月30日(ザラ場。それまでの高値は8月12日=3Q決算発表日の926円) |
| 年初来安値 | 634円 | 2026年3月23日 |
| PER(会社予想EPS 55.28円) | 17.19倍 | 自己株式取得・消却後の株数ベース |
| PER(期中平均株式数ベースEPS 53.34円) | 17.81倍 | 証券情報サイトの表示 |
| PER(筆者概算の実績ベースEPS 約53.5円) | 約17.8倍 | 通期の期中平均株式数を筆者が概算 |
| PBR(3Q末BPS 181.40円) | 5.24倍 | 自己資本4,047,896千円÷22,315,341株 |
| 配当利回り(39円) | 4.11% | 会社予想 |
| 優待込み総合利回り(500株) | 6.21% | 名目、筆者の計算 |
| 優待込み総合利回り(2,000株) | 7.53% | 名目、筆者の計算 |
| 信用買残 | 654,500株 | 2026年9月25日時点 |
| 信用売残 | 792,200株 | 同上 |
| 信用倍率 | 0.83倍 | 同上 |
一次情報として確認できる過去の株価の記録も並べておきます。株価情報サイトのキャッシュに依存しない、開示書類から取れる数字です。
| 日付・期間 | 価格 | 出所 |
|---|---|---|
| 2024年2月1日 | 701円 | 譲渡制限付株式の発行価格(有価証券報告書) |
| 2025年2月3日 | 728円 | 譲渡制限付株式の発行価格(有価証券報告書) |
| 2025年2月〜3月 | 平均765.93円 | 自己株式600,000株/459,556,600円 |
| 2025年8月〜9月 | 平均807.18円 | 自己株式800,000株/645,744,000円 |
| 2026年2月2日 | 700円 | 譲渡制限付株式の発行価格 |
| 2026年2月2日 | 685円 | 第13回新株予約権の行使価額(割当日終値) |
| 2026年2月〜3月 | 平均715.37円 | 自己株式700,000株/500,757,700円 |
| 2026年4月23日 | 656円 | CEOから資産管理会社への譲渡価格(終値) |
| 2026年7月24日 | 822円 | 会社が優待利回りの算出に用いた終値 |
強気に読む材料
(1)稼ぎ頭がWevoxに入れ替わりつつあります。 広告費を引いた後で見れば、直近四半期のWevoxはGreenの2.4倍を稼いでいます。月額課金のストック型で、月次チャーンレートは1.0%未満。契約負債も積み上がっています。Greenが横ばいでもWevoxが伸びれば全社は伸びるという構造に、すでになりつつあります。
(2)SMBC Wevoxという販路が効き始めています。 これまでインバウンド(待ちの営業)だけだった会社が、東名阪100以上の営業所を持つメガバンクグループの営業網を使えるようになりました。今期の利益上振れは3回とも、この要因で説明されています。会社が示す潜在市場(全就業者6,725万人、月額1人600円で年間4,800億円超)に対して、現在の導入社数は4,450社です。
(3)株主還元の水準が高く、手段も多様です。 配当利回り4.11%、優待込みで6.21〜7.53%(名目)。総還元性向は4期連続で100%超。加えて、翌期も37円以上という下限が示されています。減資による分配可能額の手当ても済んでいます。
(4)今期は会社自身が「投資の年」と位置づけた期です。 期初から営業利益を4割減で置き、2027年9月期以降の売上成長率+30%超を目標に掲げています。7月31日の資料では2027年9月期を「営業利益成長による増益局面」と明記しています。減益は計画されたものだという整理が成り立ちます。
(5)財務に余裕があります。 現金3,814百万円に対し有利子負債742百万円。自己資本比率56.5%。ROE 26.0%(前期実績)。
弱気に読む材料
(1)主力のGreenが止まりません。 入社人数は3Q累計で前年同期比△10.1%、直近四半期単独では△13.2%。広告費は売上の61.5%まで上がり、「売上−広告」は前年同期比で約4割減。会社自身がKPI表で入社人数に×を付けています。占有率が低いという伸びしろの説明は、広告費の投入効率が落ちているという事実と一緒に読む必要があります。
(2)Wevoxの伸びの6割は単価によるもので、これは一度きりの段差の可能性があります。 下位プラン(300円)の廃止と有料プラン一本化は、2026年4月1日で原則完了しています。一巡後の2027年9月期2Q以降、社数の伸び(直近で+12.7%)だけで+30%超の成長率を維持できるかは、現時点では確認できません。
(3)成長のいちばん太い導線を、自社では過半数を持っていません。 SMBC Wevox株式会社へのアトラエの出資比率は45%です。合弁契約の条件・期間・収益配分は開示されていません。
(4)自社のエンゲージメントスコアが下がっています。 期中平均エンゲージメントスコアは2023年9月期89、2024年9月期89、2025年9月期87です(2026年9月期の数字はまだ開示されていません)。離職率は6.5%→6.4%→6.4%で横ばいですが、人員は増えています。有価証券報告書の従業員数(就業人員)が2025年9月末で124名、決算説明資料の正社員数が2026年6月末で141名です。集計の基準が異なるため単純比較はできませんが、給与水準を約15%引き上げながら人を増やしている局面であることは確かです。「人の気持ちを数字にして売る会社」が、自分の会社の数字を落としながら急拡大している。この数字は自社のショーケースそのものなので、売り物の説得力に直結します。
(5)潜在株式が発行済の9.1%残り、そのうち7.71%は行使価額が株価を下回っています。 放棄されたのは行使価額1,402円・2,038円という、そもそも行使見込みの薄かった分です。第11回(694円)はすでに行使可能で、第12回(724円)は2027年2月から、第13回(685円)は2028年2月から行使できるようになります。
(6)今期の最終増益は、現金を生まない会計上の利益に支えられています。 特別利益373百万円は、過去に費用計上した新株予約権を取り崩したものです。この利益を含めた当期純利益を分母に、配当性向70.6%、総還元性向153.5%という数字が計算されています。
(7)第4四半期の予想が、直近の実績から見て保守的にも不自然にも見えます。 通期予想から3Q累計を引くと、第4四半期単独の売上は2,241百万円、営業利益は360百万円、営業利益率16.1%です。直近四半期の営業利益率24.3%、前年同期の25.8%と比べて大きく低下する想定になっています。7月31日時点の費用計画から逆算すると、第4四半期にはWevox広告216百万円(直近四半期の74百万円の2.9倍)、その他費用527百万円(同431百万円の1.2倍)を見込んでいる計算になります。計画どおりに使うのであれば利益はこの水準に落ち着きますし、これまでのように抑制されるのであれば上振れます。この会社は今期すでに3回上方修正しており、どちらに転ぶかは読者が判断する部分です。
(8)5年間の株主総利回りは53.5%で、配当込みTOPIXの217.8%に大きく劣後しています。 最高株価は5期連続で切り下がっています。現在の株主還元の強化は、この結果への対応という側面があると読むこともできます。
需給について(事実のみ)
2026年9月25日時点で、信用買残654,500株に対して信用売残が792,200株あり、信用倍率は0.83倍です。2週間前(9月11日)の買残493,000株・売残769,800株・倍率0.64倍から、買残が16万株あまり増え、売残も2万株あまり増えました。売り残が買い残を上回る状態は続いています。発行済株式数22,315,341株に対して、売り残は3.55%にあたります。
あわせて、直近の値動きと出来高も事実として並べておきます。9月25日の終値882円から、9月28日889円、29日913円、30日950円と3営業日で約7.7%上昇し、30日には場中に952円をつけて年初来高値を更新しました。出来高は9月上中旬の1日10万〜20万株台から、28日41.3万株、29日61.3万株、30日53.0万株へ増えています。この間、会社は9月28日の取引終了後(15時30分)に基準日に関する補足説明資料を開示していますが、株価の動きについて会社の説明はなく、理由を特定できる開示もありません。
考えられる読み方は複数あります。10月末を基準日とする株主優待と配当に対して、つなぎ売り(優待クロス)を仕掛ける動きが出ている可能性がありますし、単純に株価の先行きに弱気な売り建てが積み上がっている可能性もあります。どちらであるかを判定する材料は公開情報にはありません。 ただし、権利付き最終日である10月28日の前後で需給が大きく動く可能性は高く、その点は事実として認識しておくべきだと思います。
12. 今後のカレンダーと見るべきKPI
カレンダー
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2026年9月30日(水) | 2026年9月期の期末。第8回・第9回新株予約権458,300株の消滅日(特別利益373百万円の計上日) |
| 2026年10月上旬(見込み) | 自己株式の取得状況の開示(9月分)。8月分は0株だったため、進捗の最初の確認点 |
| 2026年10月22日(木) | 個人投資家向け説明会(グロース・キャピタル株式会社、オンライン配信) |
| 2026年10月28日(水) | 配当・株主優待・議決権の権利付き最終日(会社が2026年9月28日の補足説明資料で明示) |
| 2026年10月29日(木) | 権利落ち日 |
| 2026年10月30日(金) | 自己株式取得期間の最終日 |
| 2026年10月31日(土) | 配当・株主優待・議決権の基準日 |
| 2026年11月(予定) | 株式会社MICOTHの設立 |
| 2026年11月上旬(見込み) | 自己株式の取得状況・取得終了の開示 |
| 2026年11月中旬(見込み) | 2026年9月期 通期決算発表(前期は2025年11月13日) |
| 2026年11月30日 | 自己株式の消却予定日 |
| 2026年12月(予定) | 株主優待ポイントの進呈 |
| 2026年12月下旬〜2027年1月上旬(見込み) | 有価証券報告書の提出(株主総会の3週間以上前) |
| 2027年1月(予定) | 第23期定時株主総会(初の1月開催) |
| 2027年1月中旬(見込み) | ストック・オプション・譲渡制限付株式の発行決議(例年1月) |
| 2027年2月上旬(見込み) | 2027年9月期 第1四半期決算発表 |
| 2027年2月1日 | 第12回新株予約権600,000株の行使開始 |
見るべきKPI
通期決算(2026年11月中旬見込み)で確認したいこと
- Wevoxの第4四半期単独の売上と導入社数。 料金プラン一本化が一巡したあとの、単価と社数それぞれの伸び。1社あたり月額が9万円の下限に近づくのか、81,600円前後にとどまるのか
- Greenの入社人数と書類選考通過率。 3Q単独で829人・20.7%。ここが反転するかどうか
- Green広告の通期実績。 7月31日計画は2,600百万円。3Q累計で1,920百万円なので第4四半期の含みは680百万円。売上に対する比率が6割超のまま着地するか
- 自己株式500,000株を実際に取得できたか。 取得できていなければ、1株当たり当期純利益の分母が会社予想と変わる
- 新株予約権戻入益の実額と、税金費用の実額。 本記事で逆算した「差分に対する税負担率43.7%」の中身が判明します
- 株主優待引当金の計上有無と金額
- 2027年9月期の業績予想。 売上成長率+30%超という目標に対して、会社が最初に置く数字。そして配当予想が「37円以上」のどこに置かれるか
- 連結財務諸表を作成するかどうか。 子会社MICOTHの設立により、2027年9月期から連結に戻る可能性があります
有価証券報告書(2026年12月下旬〜2027年1月上旬見込み)で確認したいこと
- 大株主の状況(2026年10月31日基準)。ラウレアの保有比率と、自己株式消却後の各株主の比率
- 新株予約権の状況。放棄後の残高と、第13回を含む全回次の一覧
- 従業員数・平均年間給与の更新値(前期は124名・7,143千円)
- 株主総利回りの更新値(前期は53.5%)
13. 3行まとめ
- 売上は伸びているが、主力のGreenは広告費が売上の6割を超えてなお入社人数が1割以上減っており、いま稼いでいるのは広告をほとんど打たずに伸びているWevoxです。 ただしWevoxの伸びの約6割は下位プラン廃止による単価上昇で、一度きりの段差の可能性があります。
- 営業利益は前期比2割減の予想ですが、当期純利益は3%増、1株当たり利益は12%増になります。 差を埋めているのは、現金を生まない特別利益373百万円(新株予約権の放棄)と、自己株式の取得・消却による分母の減少です。
- 配当は1年で33円→39円へ3回引き上げられ、優待は新設から2か月で2倍以上に拡充され、総還元性向は150%を超えています。 その一方で、5年間の株主総利回りは53.5%とTOPIXに大きく劣後しており、還元の強化はその結果への対応という側面もあります。権利付き最終日は2026年10月28日(水)です。
14. 免責事項
本記事は、決算短信等の公開情報をもとに、生成AIを執筆補助として用いて作成しています。論点の選定・構成の判断、および記載した数値と一次情報との照合は筆者が行っています。
本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではなく、投資勧誘・投資助言を目的としたものでもありません。本記事で用いた数値の出典は、株式会社アトラエが開示した2026年9月期第3四半期決算短信(2026年8月12日)、同第2四半期決算短信(2026年5月14日)、同第1四半期決算短信(2026年2月10日)、2025年9月期決算短信(2025年11月13日)、2025年9月期第3四半期・第2四半期決算短信、2026年9月期第3四半期決算説明資料(2026年8月12日)、2026年9月期の期末配当・株主優待・定時株主総会における議決権の基準日に関する補足説明資料(2026年9月28日)、第22期有価証券報告書(2025年12月17日提出)、第22期定時株主総会招集ご通知および電子提供措置事項(2025年11月26日)、ならびに2025年11月以降の各適時開示(業績予想・配当予想の修正、自己株式の取得・消却、株主優待制度の新設・変更、資本金及び資本準備金の額の減少、定款の一部変更、ストック・オプション及び譲渡制限付株式の発行、大株主の株式譲渡、子会社の設立、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について)です。株価・時価総額・出来高・信用残高は2026年9月30日時点のYahoo!ファイナンスの表示に基づく概算であり、報道ベースの情報です。
本記事には、筆者が算出・逆算した数値が含まれます。具体的には、四半期の差し引きによる単独四半期の数値、Green広告費の売上比率および「売上−広告」、Wevoxの1社あたり月額単価と数量効果・単価効果の分解、通期予想の期中平均株式数ベースの1株当たり当期純利益の概算、特別利益に対応する税負担率の逆算、自己株式取得の必要ペースの試算、株主優待の利回りおよび優待コストの試算です。権利付き最終日は筆者が計算したうえで、会社の2026年9月28日の開示と一致することを確認しています。これらは「筆者の概算」「筆者の差し引き」「筆者の試算」と本文中に明記しています。
とくに次の3点は 筆者の推測であり、会社の開示に基づくものではありません。(1) 特別利益373百万円を加算した際の純利益の増え方から逆算した税負担率43.7%について、その差の理由。会社の開示は「特別利益を計上する見込みとなったこと等から」という記載にとどまり、内訳は示されていません。(2) Wevoxの1社あたり月額(約81,600円)が料金プランの下限(月額9万円)を下回っている理由。(3) 2026年8月13日から8月31日まで自己株式の取得実績が0株であった理由。いずれも会社IRへのご確認、もしくは2026年9月期通期決算での確認をお勧めします。
決算説明資料はテキスト情報を持たない画像形式のPDFであったため、筆者がページを画像として描画したうえで目視により数値を読み取っています。四半期別業績推移の表については、各四半期の費用内訳の合計が開示されている営業利益と一致すること、および4四半期の合計が通期の開示値と一致することを確認していますが、読み取り誤差の可能性は残ります。Wevoxの導入社数およびGreenの入社人数はグラフから読み取った値です(入社人数については短信の累計値との差し引きで一致を確認しています)。
また、本記事は2026年8月12日の第3四半期決算説明会および個人投資家向け説明会の質疑応答を反映していません。9月10日の業績予想修正以降に開催・公表された説明の内容も反映していません。合弁会社SMBC Wevox株式会社の合弁契約の内容、および株主優待制度に要する費用の会社見込みは開示されておらず、本記事でも扱っていません。
株価に依存する記述(PER・PBR・時価総額・配当利回り・優待利回り)は、すべて2026年9月30日終値950円を基準にしています。本記事は2026年9月期の期末日(2026年9月30日)時点の情報で更新しており、通期実績・次期予想・9月以降の自己株式取得状況は反映していません。これらは10月以降の開示で判明します。数値は必ず最新のものでご確認ください。
記載内容の正確性・完全性には注意を払っていますが、誤りや情報の陳腐化が含まれる可能性があり、これを保証するものではありません。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。投資の最終判断は、必ずご自身で一次情報(会社IRサイト・EDINET等)をご確認のうえ、自己責任で行ってください。